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8 〇〇Gもする“アルラウネの蜜”を買ってみたww


 せっかくのファンタジック異世界だというのに、俺に至ってはいわずもがなのスーツ姿だ。

 町を歩いていても、すれ違う人間たちが俺の方を二度見していくし、目立って仕方がない。

 ゆえに、俺たちは町のブティックを訪れた。


 もっとも、そこがブティックなどというこじゃれた呼び名にふさわしいような場所かどうか、疑問は残るが。


「ああ、どうもいらっしゃい」


 俺たちを出迎えたのは、しいて言うならばキツネによく似た神経質そうな男であった。

 吊り上がった両目は糸のように細まり、どうにも嘘っぽい笑みを貼り付けている。

 胡散臭そうな男だな、こういう時は。


 ――観察眼。



----------------------------------------------------------------


名前 :ライマー

職業 :服屋の店主

状態 :通常

LV :2

HP :11/11

MP :3/3

攻撃力:6

防御力:6

魔法力:3

素早さ:7


アクティブスキル


【なし】


パッシブスキル


【接客技術・初級】

【詐術・中級】

【交渉術・中級】


称号


【怪しい服屋の店主】


----------------------------------------------------------------



 うおおい、なんだよ【詐術・中級】って。

 騙す気満々じゃねえか。


 そしてそれを意識して見ると、ライマーは品定めするように俺の身なりを観察しているではないか。

 大方あの薄ら笑いの内側では「カモがきたな、さあどれぐらい搾り取れるだろうか」などと考えているのだろう。

 まったく、観察眼サマサマである。


 ライマーは手もみをしながら、こちらへ近づいてきた。


「なにをお探しでしょう?」


「旅人風の服を一式、それとあまり目立たない無難な服を一式探してる、俺とこいつの分を二つずつだ」


 隣でぼけーっと店の商品を眺めているメガミンの事を指す。


「旅人風……ですか?」


 ライマーはわずかに眉をひそめたが、すぐに元の貼り付けたような笑みを取り戻す。


「それならいいのがありますよ」


 ライマーはそう言って、店の奥から一着の服を引っ張り出してくる。


「最近入ったばかりの上衣です、滅多に手に入らないヤプーナのシルクを使っておりますので質もかなり良いですよ、多少値は張りますが……」


「いくらかな」


「ざっと、1200Gほど頂戴することになりますが……」


「へえ」


 別段金には困っていないが、ここでカモと思われればのちのち面倒なことになろう。

 だから――観察眼。

 俺はその質の良い上衣、とやらのステータスを確認する。


「……これは良い物だな」


「そうでしょうそうでしょう、なんせヤプーナのシルクを……」


「粗悪な絹で作った割に肌触りが良い」


「……へ?」


 ライマーが間の抜けた声をあげる。

 俺は手渡された上衣を思わせぶりに扱って、更に続ける。


「それに丈夫だな、こんなに使い古されているのに目立った傷がない、いや修繕したのか、例えばこことここと……」


「あ、あの、お客様……?」


「とはいえ劣化も相当進んでいるな、縫い付けも甘いし……」


「あの……」


「俺の見立てじゃおそらく400Gが相場だと思うんだけど……いくらだっけ?」


 ずい、と店主に顔を寄せる。

 キツネ顔の店主は、ひきつった声で答えた。


「さ、350Gになりますっ……」


 騙す相手を間違えたなキツネ野郎。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 いやぁ、実に有意義な買い物であった。

 ライマーさんはまったく良い商売人だ。

 まさか俺とメガミンの分の服を一式、相場よりもずっと安い値段で売ってくれるなんて。

 去り際


「いやぁここは良い店ですね、また来ます」


 と、言うと、ライマーは幾分か引きつった笑顔で俺たちを見送ってくれた。

 営業スマイルも完璧だな。


「イトベリクさん! どうです!? 似合ってますか!?」


 “目立たない無難な服”を身に纏ったメガミンは、その場でくるりと一回転して見せる。

 うん、似合ってると思うぞ、どこにでもいるなんの変哲もない町娘、という感じで。

 いや、それはともかく。


「その、俺の事を毎回イトベリクって呼ぶのやめないか? なんか長ったらしくて聞いてる方が不安になってくる」


 この提案に対し、メガミンは少し困ったように眉尻を下げる。


「え、でも私イトベリクさんの本名知りませんし……」


「本名だバカヤロー」


 こいつ今まで俺の名前をあだ名かなにかとでも思ってたのか。


「イトベとかリクとか好きな方でいーんだよ、とにかくイトベリクはやめてくれ」


「分かりました! じゃあリクさんで!」


 そういうのでいいんだよ、そういうので。

 ああ、スッキリした。


「じゃあ私の事は女神様とお呼びください!」


「おこがましいわ、もう女神じゃねえだろ、職業:女だろお前」


「元はと言えばリクさんのせいじゃないですかあああああ!」


 メガミンが襲い掛かってきたので、俺はこれをひらりと躱す。

 そして彼女はそのまま何もないところでつまづいて勢いよく転んでしまった。

 どんくさいヤツだな……


「うぶ……」


「ほらメガミン早く起きろ、遊んでる場合じゃないんだぞ」


「これからなにかやるんですかぁ……?」


「偵察だよ、昨日言っただろ」


「テイサツ……?」


 おい、なんで生まれて初めてその単語を耳にしました、みたいな反応なんだ。

 頭の上に疑問符を浮かべるメガミンを引きずって、俺はある場所へ向かう。


 行き先は、例の悪徳商人が店を出している広場である。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「――皆さま! 毎度ご愛顧ありがとうございます! 本日も皆さまのため、厳選した商品を揃えてきました!」


 あらかじめ言っておくと、俺は件の悪徳商人と対面したことはない。

 昨夜、壁越しに声を聴いただけだ。


 しかし、広場に到着して、人だかりの中心にいるそのオヤジを遠巻きに確認した瞬間、

 あっ、間違いなくアイツだ。

 と確信した。


 でっぷりと太った身体。

 華美な装飾の施された衣服。

 そして気障っぽく伸ばしたヒゲ。

 ライマーがキツネなら、彼はタヌキにそっくりであった。


 ……こんなにベタな悪人、いるんだな。


「最近肌寒い日が続いており、体調を崩す方も増えておりますが、そんな人のためにこちら! “マンドラゴラの根っこ”を用意しました!」


 おお! と人込みから歓声があがる。

 マンドラゴラの根っことは、大層な代物だが……クソ、ここからじゃよく見えないな……観察眼が使えないぞ。


「更にこちらはとびきりの掘り出しもの、なんと“アルラウネの蜜”です!!」


 おおお! とひときわ大きな歓声があがる。

 主に男性諸君から。


 にしても人混みがすごすぎて、前に進めない!

 ……クソ、仕方ない。ここはあの手を使うとしよう。

 俺はメガミンのことを見下ろす。


「ねぇリクさん、この人たちはお祭りか何かやってるんですか?」


 メガミンは、呑気に的外れなことを言っていた。

 そんな彼女の肩に、両手を添える。


「? なんですかこの手?」


「ステータス付与」


「え?」


 俺の手が、ぱぁぁっと淡い光を放つ。

 右手で一文字、左手で一文字、計二文字をメガミンのステータスに付与した。

 そして彼女に付与した文字とは――今朝、宿屋の店主より奪い取った「風邪」の二文字である。


「え、ちょっとリクさん何を付与して……あれ、突然寒気が、身体の節々も痛むし、けだるさが……ゲホッ!!!! ゲホォッ!!!!!」


 メガミンが一瞬「爆弾でも落ちたのではないか?」と勘違いしてしまうほどバカでかい咳をする。

 その瞬間、周りの人だかりが「うわっ!?」と悲鳴を上げて、俺たちから遠ざかった。

 俺は慌てて目深にフードをかぶり、メガミンのフードも顔が隠れるくらいに下ろす。


「ゲホッ!! ゲホゲホォッ!!!!」


「うわっ!? だ、誰だ!?」


「なんか後ろの方に重病人がいるぞ!! うつされる!!」


「は、肺炎か!? ど、どいてくれ!! 俺には商売があるんだっ! 女房と娘を食わせなきゃならないんだ!!」


 いや、ただの風邪なんだ。

 ステータスを付与した俺が言うのもなんだが、さながら死の病にでも侵されているかのようなメガミンのオーバーリアクションに、若干引いてしまう。


 しかし事情を知らない観衆はメガミンが一度凄まじい咳をするたびに阿鼻叫喚の地獄絵図だ。

 彼らはぎゃあぎゃあと悲鳴をあげながら、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 まもなくして、海を割ったモーセのように観衆が割れ、道が開ける。

 俺はこの世の終わりのような表情のメガミンを引っ張って、タヌキ親父の下へと駆け寄った。

 彼は俺たちを見るなり露骨に顔をしかめて、服の袖で口元を隠す。


「な、なんだね君たち……!?」


「――見てわかるだろう! コイツは今死の病に侵されているんだ! この店で一番効くものを売ってくれ! 金はいくらでも払う!」


「ああ、やっぱり私死ぬんですね……」


 メガミンが虚ろな瞳で呟いた。

 ただの風邪だっつうの。


 しかしメガミンのオーバーリアクションのおかげで説得力が増した。

 商人の目の色が変わる。

 あのキツネ野郎と同じ「カモを見る目」だ。


「そうですか、お気の毒に……しかしもう安心です! 私の厳選した商品さえご購入いただければ、死の病などただの風邪も同然です!」


 信じがたいかもしれないが、ただの風邪だからな。

 まぁ、それはそれで好都合だ。


「――全部売ってくれ!」


 こうして俺は“マンドラゴラの根っこ”や“アルラウネの蜜”を始めとした、商品を大量に購入した。

 タヌキ親父は終始口元を袖で隠していた。


 もしうつされたのなら、自慢の商品とやらでたちまち直してしまえばいいのでは?

 とツッコもうとも思ったが、黙っておく。


 俺は何枚もの金貨と引き換えに、山のような商品を抱え込むと悪徳商人の下を後にした。

 そして去り際、商人から一定の距離をとって佇むただならぬ雰囲気の男を発見し、行きがけの駄賃ということで、俺は観察眼を発動する。



----------------------------------------------------------------


名前 :シュロ

職業 :用心棒

状態 :通常

LV :17

HP :101/101

MP :39/39

攻撃力:42

防御力:40

魔法力:38

素早さ:48


アクティブスキル


【火炎斬・初級】


パッシブスキル


【剣術・中級】

【逃走術・中級】

【魔法術・初級】

【隠密行動・初級】


称号


【雇われ用心棒】


----------------------------------------------------------------



 ……なるほど、ヤツが昨夜の悪徳商人の話し相手か。

 あの商人、よほど儲かっているのだろうな。

 ヤツが雇ったらしい用心棒は、町の連中とは比べ物にならないレベルだ。


 とにもかくにも、俺とメガミンは雑踏を離れ、人気のない路地裏へと逃げこんだ。

 この路地ももはや定番となりつつある。


「ほら、メガミン」


 周りに誰もいないことを確認すると、死期を悟ったような表情のメガミンに“アルラウネの蜜”が入った小瓶を渡す。

 そしてその際にメガミンの身体に触れ、“状態:風邪”から「風邪」の二文字を奪う。

 すると、あれだけ顔色の悪かったメガミンの頬に徐々に赤みがさしてきて、すぐに元の状態に戻ってしまった。

 単純なヤツだ単純なヤツだとは思っていたが、身体まで単純だとは……


「……リクさん! すごいですね! あの人の商品ホンモノですよ! だって持っただけで治りましたもん!」


「んなわけねえだろバカ」


 こういうヤツが騙されるんだろうな、としみじみ思う。

 一方でメガミンは、すっかり嬉しそうに小瓶から“アルラウネの蜜”を舐めとって、とろけきった表情だ。


「リクさん! これすっごく甘くておいしいですよ!」


「へえ」


 “アルラウネの蜜”に観察眼を発動。



----------------------------------------------------------------


名前 :ハチミツ

状態 :通常

レア度:E

売却額:10G

耐久 :1/1

攻撃力:0

守備力:0


アクティブスキル


【なし】


パッシブスキル


【なし】


称号


【なし】


----------------------------------------------------------------



 そんなことだろうと思ったよ。

 どうせ“マンドラゴラの根っこ”にしたって、ちょっと見た目に癖の強いニンジンとか、そういうオチなんだろう。


 いずれにせよ――材料は揃った。


「――さあて、今度はこっちの番だ、せいぜい踏み台になってもらうぜタヌキ親父」



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「辺境アパートの新米大家さん(実は世界最強の神話殺し)」
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