7 元女神がとんでもないものを隠し持っていた件ww
翌朝、俺たちは隣の部屋の悪徳商人どもと出くわさないよう、こっそりと宿を後にした。
初めメガミンの寝覚めが異様に悪く、駄々をこねるアイツをベッドから引きずり出すというハプニングもあったが、それはそれ。
なんにせよ、俺たちは宿を出た。
そして宿を出るなり、俺はメガミンに言ってやった。
「隠してるもん全部出せ」
メガミンはあからさまにぎくりとして、こちらから目を逸らす。
「は、ハンドスピナーしかありませんよ」
「ジャンプしてみろよ」
「ぷぷぷ、今時そんな古典な手使う人いませんよ、それに残念でした~音の鳴るモノなんて持ってませ~ん」
「音の鳴らないモノなら持ってるんだな」
「あっ」
一瞬の静寂ののち、メガミンが脱兎のごとく逃げ出す。
いや、脱兎なんて上等なもんじゃないな。
いいところ脱ペンギンである。
むろんそんな運動不足のどたどた走りで逃げ切れるはずもなく、俺は彼女の襟首をふんづかまえて、あっさりと捕獲してしまう。
メガミンは両手両足を振り回して、ぎゃーぎゃー喚いた。
「離してください! 女神にこんなこと罰当たりですよ! 罰当たぶぶぶぶぶぶぶぶ!?」
そしてあまりにもうるさいので、両肩を掴んで前後左右に高速で揺さぶってやった。
それこそ残像が生まれるほどだ。
するとメガミンの全身からひとつ、またひとつと何かがこぼれ落ちてきた。
これを数十秒ほど続けてそれ以上何も出てこないことを確認すると、メガミンを解放する。
メガミンは自由になるなり、両手両膝を地面につけて「オエエ……」とえづいていた。
「なにがハンドスピナーしかないだ、ドラえもんかお前は」
俺は地面に散らばった何に使うのかもよく分からない品物の数々を、一つずつ手に取る。
「赤いソースの入ったビン……なんだこれ」
「ぞ、ぞれは“デッド・ソース”です……世界一辛いソースで、動画で使おうと思ってたんですが怖くて一度も開けてません……うぷ」
「……このスプレーは?」
「それはジョークグッズのくさやスプレーですね……動画で使ったら面白いかなーと思ったんですけど、いかんせん怖くて……」
「これは……?」
「ヘリウムガスです……あとそれはアメリカのヨーヨーで、こっちは眠気が一瞬で醒めるサプリ、ああそれは私のスマートフォンです。動画で使ったら……」
「お前、動画配信用の道具しか持ってねえじゃねえか」
「失敬な! 干し芋もありますよ!?」
よく分からないキレ方をするメガミン。
お前、干し芋食うだけのアホみたいな動画何本も投稿してただろうが。
それはともかく、くそ、なにか隠し持っていると気付いてはいたが、まさかこうまでガラクタばかりとは……
俺は、地面に落ちたガラクタの数々をかき集める。
「とりあえずこれは俺が預かるぞ、お前に持たせてたらロクなことにならなそうだからな」
「えっ!? ままま待ってください! せめてスマホと干し芋だけは! せめてスマホと干し芋だけはっ!!」
メガミンが俺の足にすがりついてくる。
必死だ。
女の子がしちゃいけない表情をしている。
「それが最後の干し芋なんです! それがないと私は生きる希望を失ってしまいます!!」
「じゃあ干し芋だけ返すよ、スマホは預かるぞ」
「だだだ駄目です! スマホがないと私は動画がどれだけ伸びたか確認できません! 動画の再生数は私のステイタスなんです!! お願いだから返してくださいよぉぉぉ……!」
今度は、びええええ、と泣き始めてしまったではないか。
哀れだ……
結局、俺はメガミンにスマホと干し芋だけ返してやった。
これを受け取ると、彼女の泣き腫らした顔が、ぱああっと明るくなる。
複雑な気持ちだ。
「というかお前のスマホ、どういう理屈で使えてるんだよ、この世界に電波なんてねえだろ」
「ふっふっふ、天界仕様の4G(次元)回線を甘く見ないでください。……あっ、例の動画にコメントついてますよ!」
例の動画……俺の視界を勝手にカメラ代わりに使って全国配信中の、あの胸糞悪いライブ放送の事か。
「えーと、読み上げますね“おっさん不憫すぎて草生える”“メガミンにはもっとひどい目にあってほしい”“でっどそーすつっこめ!”“今この動画見てる人はグッドボタンを押してね!”……」
……率直に言って民度が低い。
しかし、メガミンは何故か満足げだ。
「コメントなんて初めてつきましたよ! あぁ、アイチューバーやってて良かった……!」
「いや、お前がそれでいいなら俺は別にいいんだけどな……」
半分ぐらいはお前叩きのコメントだぞ。
中には“干し芋にデスソースかければ?”というコメントもある。
そんな“上着着れば?”ぐらいの軽い感じで最悪の提案をするな。
「ふふ、とうとうアイチューバー・メガミンの名が世界に轟くのですね!」
「……轟けばいいな」
少なくとも俺は異世界で四苦八苦しているさまを世界中の人間に見られているなんて、考えただけで悪寒が走るけどな……
……まぁいいさ、さすがのI tubeとはいえ異世界にまでは進出していないだろう。
つまり、俺がこちらの世界で生きている限り、間違っても「ああ、アイツはアイチューバーの伊戸部陸!」と指をさされることはないはずだ。
それなら、もう二度とメガミンのスマートフォンを見なければ、俺の最高の異世界生活になんら支障はない。
そうだ、そうしよう。
そうしなければ、精神衛生上よくない。
まぁそれはともかく。
「じゃあ行くぞ、メガミン」
「へ? どこへ行くんですか?」
「どこって」
俺はメガミンに向き直る。
「――まずは服を買いに行くんだよ、このままじゃ目立って仕方ない」
[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]
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