5 【天才】超稼いでみた
多少のトラブルはあったが、なにはともあれ俺の輝かしい異世界生活の始まりである!
しかし、奇しくも先ほどのトラブルを通じて、俺たちの抱えた根本的な問題点が発覚した。
それは――
「素寒貧じゃねえか」
「そうですねえ」
こんな絶望的な状況にも関わらず、メガミンは実に呑気に言う。
その手には、ゆるゆると回転するハンドスピナー。
まだ回してたのかよ、お前。
「なんでしょうね……別段楽しいわけでもないのに一度始めると謎の義務感で続けてしまう……恐るべきはハンドスピナーの魔力、ということでしょうか……」
「恐るべきはお前のバカさ加減だ、そういうのは衣食住全部足りてる人間が暇潰しにやるんだよ」
少なくとも、全くの一文無しで見知らぬ土地に放り出された人間が悠長に回していい代物じゃねえ。
どーすんだよこれ、食もねーし、住なんてもってのほかだし、なんなら衣ですら俺はスーツ姿のままだから目立って仕方ないぞ。
「というかメガミン、お前腐っても元女神だろ」
「腐ってません」
「元女神なら、こう天界から下界の様子を覗き見たりできるんだろ? なんか、この世界ですぐに金を稼ぐいい方法知らねーのか」
「あー、無理ですね、私基本的には天界ではI tubeかSNSしか見てませんから、そういう細かいところはちょっと」
「腐ってんじゃねえか」
よくそれで神様が務まったな。この引きこもり女神が。
メガミンはしばらくの間をあけて、あっ、と思い出したように言った。
「チケットの転売とかどうでしょう」
……よし、コイツに聞いた俺がバカだった。
真面目に、一人で考えよう。
俺はなんとか金儲けの方法を思案する。
俺が知恵を振り絞っている間、ヤツは自らの手の上で回転するハンドスピナーをぼけーっと見つめているだけで少し殺意が沸いたが、アイツが静かにしていてくれたおかげで――名案が浮かんだ。
「――よし、いくぞメガミン」
「え? どこにですか?」
「金儲けだ」
俺はメガミンを率いて、町を出る。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
異世界ものに必ずといっていいほど登場するもの、それは言うまでもなくモンスターである。
メジャーなものはゴブリン、オーク、トロール……
彼らは人間に害を為すが、倒すとアイテムをドロップすることもあるし、経験値ももらえる。これが大方の認識であろう。
そしてこの世界もまた上記の認識に漏れず、モンスターが生息しているらしかった。
俺たちが町を出て初めに出くわしたのは――RPGのド定番、スライムである。
ちなみにスライムの見た目を、簡単に表すと“バスケットボール大の跳ねる水まんじゅう”といった感じだ。
町を出てみると野良猫ぐらいの感覚でそのへんをうろついていたので、すぐに見つけることができた。
「スライムって、美味しそうですね……」
空腹のあまり恐ろしい事を口走っているメガミンは無視して、俺はスライムを対象にスキル“観察眼”を発動する。
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名前 :なし
職業 :スライム
状態 :通常
LV :1
HP :11/11
MP :1/1
攻撃力:3
防御力:2
魔法力:1
素早さ:4
アクティブスキル
【なし】
パッシブスキル
【スライム・ボディ】
称号
【Fランクモンスター】
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……よし、理想的な数値だ。
俺は一匹のスライムに狙いを定めて、徐々に距離を詰めていく。
スライムもこちらに気付いたらしく、ぷるぷると震えながら臨戦態勢をとっていた。
俺のレベルは1、向こうのレベルも1。
ステータスでは若干俺の方が上回っているが、それを考慮しても、本来ならばそれなりの苦戦を強いられるはずなのだ。
もちろん、それは俺が“ステータス強奪”のスキルを持っていなかった場合の話である。
俺は気持ち早足にスライムへ向かい、歩を進めていく。
そしてそのまま勢いを止めず、俺はさながら道端のアリでも踏みつぶすように――ここだ。
ステータス強奪。対象はスライムの残りHP。
靴底がゼラチン質の身体に触れた瞬間、俺はスライムの残りHPから一文字、すなわち“1”を強奪する。
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名前 :なし
職業 :スライム
状態 :通常
LV :1
HP :1/11
MP :1/1
攻撃力:3
防御力:2
魔法力:1
素早さ:4
アクティブスキル
【なし】
パッシブスキル
【スライム・ボディ】
称号
【Fランクモンスター】
----------------------------------------------------------------
これにより、スライムの残りHPはたったの1となり――
「よいしょっと」
ぺしゃり。
軽く踏みつけただけにも関わらず、スライムはさながら水風船のように破裂してしまった。
こうして異世界生活初のモンスター戦は、実に呆気なく決着がつく。
当然、こんな戦いに思うところなどあるはずもなく。
「じゃあ次いくか」
革靴にこびりついたスライムの残骸を処理すると、俺は次のスライムを探し始める。
「地味ですね……」
メガミンがそんな俺の様子を見てぼそりと呟いたが、余計なお世話だ。
なにはともあれ、スライムを探し、そしてステータス強奪で残りHPを奪い、踏みつぶす。
俺はその単調な作業を延々と繰り返した。
そして六匹目のスライムを踏みつぶした時、ちょうど日が暮れたのを見て、俺はこの作業に区切りをつける。
「ふう、こんなもんだろ、終わったぞメガミン」
「……へっ? あ、終わったんですか?」
振り返って見ると、メガミンは顔の右半分を赤くして、間抜けな表情を晒していた。
……この野郎、途中で飽きて寝てやがったな。
しかしこの元女神、本当に使えないな。
何かの役に立つと思って連れてきたはいいが、俺よりも弱い上に、この世界の知識もほとんどないと来ている。
今になって、あの時メガミンから“神”の一文字を奪ったことに後悔する。
「ああ終わったよ、スライムを6匹倒した、もう十分だ」
「もしかしてそんな調子でスライムだけ倒してお金を稼ぐつもりですか? そんなのじゃ最高の異世界生活を送れるようになるまで300年はかかりますよぉ……」
女神はふわぁとあくびをしつつ、どこかで聞いたようなフレーズを呟く。
「いや、だからこれで十分なんだよ、あとは……」
俺はその辺に生えた草木に向かって、手当たり次第に観察眼を発動する。
そんな風にして探していると、やがてお目当てのものを発見した。
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名前 :薬草
状態 :通常
レア度:F
売却額:2G
耐久 :1/1
攻撃力:0
守備力:0
アクティブスキル
【HP回復・微】
パッシブスキル
【なし】
称号
【なし】
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あったあった。
薬草もまた、RPGではド定番である。
俺はこれを二、三本引き抜いて懐にしまう。
「じゃあ戻るぞ」
「そんなのじゃあ夕飯代にもならないと思いますけどねぇ……」
メガミンはぐちぐちと文句ばかり吐きながら、俺の後についてくる。
言ってろ、お前はすぐに俺を崇めることになるのだから。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
町へ戻ると、俺たちは道行く人に尋ねながら、俗に言う冒険者ギルドを訪れた。
受付にはなにやら目つきの悪い女性が、頬杖をついて暇そうにしている。
なにぶん目立つ服装をしているために顔をしかめられたが、採取してきた薬草の買取をしてほしいという旨を伝えると、幾分か面倒くさそうにこれに応じてくれた。
「はい、5G」
受付嬢はぶっきらぼうに5枚の銅貨のようなものを渡してくる。
俺はこれを受け取ると、もう一つ、提案を持ちかける。
「物は頼みなんですが」
「あんだよ」
「4Gまで出せるので、何か袋のようなものを譲ってもらえませんか」
「袋ぉ?」
女性は訝しげに眉をひそめた。
「ここは道具屋じゃねえんだぞ、まぁ、誰かの忘れていったきたねえ麻袋ならいくらでもあるけどよ……」
「あ、それでいいですよ、いくらです?」
「もってけ、そんなはした金いらねえよ」
受付嬢はテーブルの裏から薄汚れた袋を取り出し、こちらへ放り投げてくる。
俺はそれを受け取ると、ありがとうございます、と一礼してメガミンとともにギルドを後にした。
彼女は終始訝しむような視線をこちらへ向けてきていたが、まぁ、気にすることはないだろう。
そしてギルドを後にした俺たちは、人気のない路地裏へと入り込んだ。
太陽はすっかり沈みかけており、外灯がない分あたりは薄暗い。
これから宿の確保をしなければならないのだ。早急に済まさねばならない。
俺は先ほど譲ってもらった麻袋の中に5枚の銅貨をしまいこみ、口をしっかりと縛って、これをメガミンに手渡した。
「これ持ってろ」
「こんな小汚い袋にはした金を入れてどうするんですか……もう日も暮れましたよ……」
メガミンが汚いものでも扱うように麻袋の端をつまんで、ぶつくさと文句を言っている。
まったく、少しは黙っているということが出来ないのか。
これから素晴らしい事が始まるというのに。
「――いいかメガミン、よく聞け。俺は“ステータス強奪”そして“ステータス付与”のシステムに、一つの可能性を見出した」
俺は聞き分けのない子どもに言って聞かせるように説明する。
「確かお前は、ステータス強奪で奪い取った文字は、他のものに付与できると言ったな」
「ええ、言いましたよ、それが何か?」
「じゃあ、例えば攻撃力の数値を奪い取った場合、その数値を防御力に付与することも可能なんじゃないか?」
「………………ああ、言われてみれば、そういうこともできますねえ」
……なんで今気付いた風なんだ。
お前が寄越したスキルだろうが、これ。
「でも、だからなんだと言うんです? それでお腹が膨れるんですかぁ?」
腹が減ってイライラしているのか知らんが、メガミンの口調はどこかこちらを責めるようである。
……コノヤロウ。
危うく頭に血が上りかけたが、いかんいかん、コイツのペースに呑まれるな。
俺は、そっと5Gの入った麻袋に手を添える。
「まぁ、要するに拡大解釈ってやつだ。全てが数値で表されるこの世界だからできる裏技みたいなもんだな」
俺は頭の中で観察眼を唱える。
対象はメガミンの持った麻袋だ。
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名前 :麻袋・小
状態 :劣化
レア度:F
売却額:0G
耐久 :4/6
攻撃力:0
守備力:0
アクティブスキル
【なし】
パッシブスキル
【収納・小】
称号
【誰かの忘れ物】
収納物
【5G】
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「――なら、こういうこともできるはずだよな」
俺は頭の中で更に唱える。
ステータス付与――与えるワードは、先ほどスライムから奪い取ったHPの数値。
次の瞬間、俺の手が淡い光を放ち、そしてくたびれた麻袋が見るからに“膨らんだ”。
えっ、とメガミンが間抜けな声をもらす。
しかしそんなのはお構いなしに、更に付与。
麻袋が今にも破裂しそうなほどに膨らんで、メガミンはこれを慌てて両手で支える。
「えっ、ちょ、これ」
「じゃあ一気にいくからな」
これだけでも麻袋はパンパンだが、俺が倒したスライムの数は6匹。
すなわちあと“四桁分”残っているということだ。
俺はラストスパートとばかりに四度連続の付与を行った。
そして同時に観察眼を発動――
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名前 :麻袋・小
状態 :劣化
レア度:F
売却額:0G
耐久 :1/6
攻撃力:0
守備力:0
アクティブスキル
【なし】
パッシブスキル
【収納・小】
称号
【誰かの忘れ物】
収納物
【5111111G】
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――どうやら実験は成功したようだ。
スライムから奪い取ったHPの数値は、Gに付与することも可能だったのだ。
次の瞬間、ばぁん、と凄まじい音が鳴り響いて、限界を超えた麻袋ははじけ飛び、あたり一帯に大量の金貨がばらまかれた。
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