4 2万Gもする“紅龍の宝玉”を割ってしまったんだが。。。
薄暗い路地へ飛び込むと、これまたなかなかに不思議な光景が広がっていた。
いかにもガラの悪そうな男三人組が、地面にへたりこんでわんわんと泣き喚くメガミンを詰問している。
彼らの足元には、粉々になった水晶玉のようなものが転がっていた。
……大体状況が把握できた。
「ちょ、おまっ……! どうしてくれんだよ!? 高かったんだぞこれ!?」
「うわーーーーん!! 助けてくださいイトベリクさあああん!!」
「いや助けてじゃなくて! お前がぶつかってきたんだろ!?」
「助けてえええええ!! ガラの悪い三人組に因縁つけられてますううう!!」
「因縁!? おこがましすぎるぞお前!?」
……ガラの悪そうな三人組、というのは訂正しよう。
俺もまだ完全に状況を把握したわけではないが、どう見てもメチャクチャなことを言っているのはメガミンの方である……
大方メガミンがあのどたどた走りで狭い路地を駆けていたら、向こうからやってきたあの三人組にぶつかってしまい、その結果、彼らの持ち物が粉々になってしまったのだろう。
そうなると、哀れなのはメガミンではなく男三人組である。
「……あの、どうかしましたか?」
見るに堪えず、俺は彼らに声をかける。
メガミンが俺の存在に気付いて、たちまちぱあっと表情を明るくした。
親を見つけた迷子の子供か、お前は。
「アンタ、こいつの保護者か!?」
三人組のリーダーらしき男が、俺の方へ駆け寄ってくる。
殴られるか?
そう思ったが、どうも彼は怒っているというよりは焦っているようだった。
「まぁ保護者というか、知り合いというか」
「なんでもいい! コイツ泣いてばっかで全然話になんねえんだ!」
メガミンの方を見やる。
彼女はぶう、と頬を膨らませて「だっていきなり大声をあげるんですもん、その人」などとのたまっている。
コイツ……
「その女がいきなり飛び出してきて、買ったばかりの“紅龍の宝玉”を壊しやがったんだ!」
紅龍の宝玉とは、なんと大層な名前の代物だ。
ファンタジーでは、たいていこういうアイテムは目玉が飛び出るほどの高値で取引されるんだよな……
「……それは悪かった、メガミンもほら、謝れ」
「謝罪はいい! 頼むから弁償してくれ!! 20000G! まだ商人が町にいるうちに買い直したいんだ!」
男は間違いなくこちらに非があるにも関わらず、「弁償をしてくれ」と頭まで下げてきた。
その態度からは、鬼気迫るものを感じる。
どうやらアレは男にとってそれは相当大事なものだったらしい。
こうなると本格的に哀れだ。
「おい、メガミン、お前いくら持ってる」
「ハンドスピナーしか持ってません」
見るとメガミンの手元でくるくると回転するハンドスピナーが。
何故今更……
「すまん、生憎俺もアイツも持ち合わせがないんだ、悪いが……」
「ああ!?」
怒声をあげたのは三人のうち一番背の低い男だ。
男は肩を怒らせ、ずんずんとこちらへ近づいてくる。
「お前ふざけるなよ!? これはなぁ! ベルノルトさんが妹の病気を治すため寝る間も惜しんで働いて! ようやく手に入れたものなんだぞ!?」
「……よせティーモ、妹のために一緒に働いてくれたお前たちには悪いが、運がなかったんだ」
「ベルノルトさん!?」
「今からでもデニスさんに交渉しにいく、一生働いても返すと言えば、もしかしたら……」
「そんな! ベルノルトさんはただでさえ少なくない借金をしているのに……」
……あ、ヤバいなこれ。
俺たちの罪、思ったより重いぞ。
一方、メガミンはそしらぬ顔でハンドスピナーを使って遊んでいる。
もう決めた、後でぶん殴ろうアイツ。
そんな風に思っていると、これを見た背の低い男、ティーモがブチ切れた。
「テメェ、よくも……!!」
「お、おいティーモ! やめろ!」
「ひぃっ!?」
ベルノルトの制止も振り切って、ティーモがメガミンに殴りかかった。
――まずい。
俺はすかさず観察眼を発動、対象はティーモだ。
----------------------------------------------------------------
名前 :ティーモ
職業 :建築士
状態 :通常
LV :3
HP :18/18
MP :4/4
攻撃力:10
防御力:8
魔法力:3
素早さ:6
アクティブスキル
【観察眼(石材)・初級】
パッシブスキル
【目測・初級】
【疲労軽減・微】
称号
【建築士見習い】
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これを確認したのち、俺はティーモとメガミンの間に割って入る。
そして、ティーモの拳を腹で受けた。
「なっ……アンタ!?」
ティーモが驚愕の表情を浮かべている。
なんせ拳が鳩尾にしっかりとめり込んでいるのだから。
しかし安心してほしい。無傷だ。
何故なら殴られた瞬間、俺はスキル“ステータス強奪”を使用、そしてヤツの攻撃力の数値から十の位を一文字――すなわち“1”を奪った。
これにより、ヤツの攻撃力の数値は10から0に変化する。
つまりいくら俺のレベルが1だろうが、ダメージは通らない。
「い、イトベリクさん……大丈夫ですか?」
メガミンが心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
……こいつも心配ぐらいはできるんだな。
俺は気を取り直して、彼らに向き直る。
「すみません、確かに弁償はできません、ですが直すことはできます」
「はぁ?」
ティーモが眉間にシワを寄せる。
「何言ってんだお前? 粉々なんだぞ!? “紅龍の宝玉”は少しでも傷つけたら効力を失っちまうんだよ!」
「そ、そうですよ、イトベリクさん、下手に希望を持たせるのは酷ですって……」
お前だけは言うな。
気を取り直して、俺は足元に散らばった“紅龍の宝玉”の破片を見下ろす。
そして――観察眼。
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名前 :ガラス玉
状態 :破損
レア度:F
売却額:10G
耐久 :0/3
攻撃力:0
防御力:0
アクティブスキル
【なし】
パッシブスキル
【なし】
称号
【なし】
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更に、俺はこの破片に軽く二度触れる。
するとどうだ。
見るも無残、粉々になった紅龍の宝玉が、おそらく元の姿であろう完璧な球体に復元されたではないか。
俺は傷一つない、ソレを拾い上げ、ベルノルトに手渡す。
「はい、直りましたよ」
「おおお!?」
男三人組、そしてメガミンが同時に驚愕する。
アイツらは仕方ないにしてもメガミン、お前は驚いちゃダメだろ。
……まぁ、“神”の一文字を奪われた際の反応も鑑みるに、こんな使い方など思いつきもしなかったのだろうが。
「す、すげえ! どうなってんだこれ!? 傷一つついてねえぞ!?」
「修復魔法でもこうは上手くいかねえのに……!」
「アンタ何をした!?」
「大したことはしてませんよ」
修復魔法なんて大層なものは持ち合わせちゃいない。
単純に、ステータス強奪のスキルで“状態:破損”から、二回に分けて“破”と“損”の二文字を奪っただけだ。
これもまた思い付きだったが、まぁうまくいったな。
「感謝する! アンタ名前は!?」
「俺は……リクです、感謝なんていいですよ、元はと言えばこっちのせいですし」
「いや、なんにせよありがとよリク! これで妹の病気が治せる!」
男たちは短く別れの言葉を告げると、紅龍の宝玉とやらを大事そうに抱きかかえて、足早に去っていった。
去り際、俺は気付かれないようにティーモの背中に触れ、ステータス付与で奪った攻撃力の数値を返却する。
さすがに攻撃力0では生きづらかろう。
そして彼らの背中を見送ると、俺はメガミンを睨みつける。
メガミンはバツが悪そうに目を逸らす。
「しょ、しょーがないじゃないですか、この路地暗いし、狭いし……」
「あ?」
「ごめんなさい……」
メガミンはすっかりしおらしくなって、消え入りそうな声で謝罪の言葉を述べた。
最初からそう言えばいいんだよ、ったく。
「あと……あの、さっきはかばってくれて、ありがとう、ございました……」
「いいよ、もう」
「ちょっとだけ見直しましたよ、へへ、やればできるんですね」
「お前はまず口の利き方を覚えた方が良いな」
「いだ!? いだだだだ!? ほっぺたつねらないでください! 罰が当たりまふよ!?」
俺はメガミンの頬を引き伸ばす一方で、また別のことを考えていた。
言うまでもなく、先ほどの“紅龍の宝玉”とやらのことだ。
俺の観察眼が間違いでなければ、あれは、十中八九。
「……あいつら、パチモン掴まされたな」
俺はひとりごちる。
これは余談だが、メガミンの頬はよく伸びた。
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