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3 【異世界転移】引きこもり女神がチョロすぎる件ww


 初めは異世界転移なんて冗談じゃないと思った。

 どうして俺が知らない女の動画の再生数稼ぎの為に、右も左も分からない異世界で悪戦苦闘しなければならんのだ、と。

 しかし改めて考えてみるとこれはチャンスである。


 俺の骨の髄まで染みついた噛ませ犬根性、もしくは当て馬根性は相当なものだ。

 28年間、様々な手を尽くしたが、こればかりはどうにも治らなかった

 そのせいで俺はいつもここぞという時に勝てなかった。


 目立てなかった。

 甘い蜜を吸えなかった。

 誰かの踏み台であり続けた。


 おそらくこれは呪いなのだ。

 普通の方法では、決して拭い去れない呪い。

 それこそ人生をやり直すくらいでなければ――


 だからこそ俺は誓う。


 ――俺は、異世界で勝ち続けてやる。


 女神からもらったチートは最悪の使い勝手だが、なあにさした問題ではない。


 誰よりも金を稼ぎ、異世界で一番の金持ちになろう。

 誰よりも身体を鍛え、異世界で一番の強者になろう。

 誰よりも出世して、異世界で一番偉いやつになろう。


 どでかい家に住む、女にモテる、美味いものも食いまくる。

 全てだ。

 全てにおいて、俺は誰もが羨む“一番”になってやる。


 もう噛ませ犬とは呼ばせない。

 俺はこのステータス強奪・付与のスキルを使って、噛む側に回る。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 なんだか妙なものが顔に当たっている。

 まるで湿ったハンカチで何度も顔を叩きつけられるかのような感触だ。

 その、なんとも不快な感覚で覚醒した。


 目の前に女神様がいる。

 というか仰向けになった俺の上で馬乗りになっていた。


 幼いながらもそれなりに整った顔立ちが、涙でぐしゃぐしゃだ。

 そして彼女は訳の分からない言葉を喚きながら、俺の顔を平手でぺちゃぺちゃと叩いていた。


「……っ! ……っ!」


 痛くはない。

 ただただ不快である。


「やめろ」


 俺は女神を押しのける。

 女神は驚くほどに非力で、軽く触れただけで大きく体勢を崩す。

 そしてぺしゃりと情けない音を立てて倒れ込むと、今度はわんわんと泣き出してしまった。


「あなた、なんてことをしてくれたんですかぁ……! 私、天界に帰れなくなっちゃったんですよぉぉ……!!」


「天界……?」


 そうだ。

 俺はすかさず身体を起こして、あたりの様子を窺う。

 俺たちは、見知らぬ町の片隅にいた。


 見たことのない建築物。

 通りを歩く人間の、見たことのない装い。

 異国情緒あふれたこの街並みは――


「おお、ここが異世界か。想像していたよりずっと住みやすそうだな」


 気温も日差しもちょうどいい。

 町にもそこそこ活気があって、別段険悪な雰囲気も感じない。

 いかにも異国じみた風の匂いにも、しばらくすれば慣れるだろう。


 ああ、そうだ、異世界転移といえばまず初めにあれを確認しなくては。


 俺は頭の中で「観察眼」と唱える、対象は自分だ。

 すると、頭の中にステータス画面が立ち上がる。



----------------------------------------------------------------


名前 :イトベ リク

職業 :冒険者

状態 :通常

LV :1

HP :12/12

MP :3/3

攻撃力:5

防御力:4

魔法力:2

素早さ:4


アクティブスキル


【観察眼・天】

【ステータス強奪】

【ステータス付与】


パッシブスキル


【なし】


称号


【転移者】


ストックしたワード


【神】


----------------------------------------------------------------



「ううん、やっぱりレベル1か……」


 まぁこういったファンタジックな世界ではモンスターを倒してレベルアップ! というのが定石だ。

 まだ何もしてないのだから当たり前と言えば当たり前なのだが、しかし軒並み心もとない数値だな……


 それと、ステータス画面を流し見していたら、一番下の方に“ストックしたワード”という項目があった。

 なるほど、ここにスキル“ステータス強奪”で奪った文字がストックされるというわけか。

 元女神様から奪った“神”の一文字も、ちゃんとあるし……


「――うわあああああああん!! 返してくださいよぉ!! 私の“神”! 返してくださいよぉぉっ!!!」


「うわビックリした! お前まだいたのかよ?」


「&#☭〄;$※♂☞……!!!」


 元女神は涙やら鼻水やらを垂れ流して何か喚きまくっているのだが、解読不能である。

 ともかく女性にあるまじき表情だった……


 しかしここで同情しては駄目だ。

 俺はこの世界で一番になると決めたのだ。

 となれば、他人を蹴落としてでも自分の益を考えなければならない。

 うん、そうだ、全くその通りだ……


「なに一人で納得した、みたいな顔してるんですかぁぁ!! どーすればいいんですか私!? あなたのせいで天界には帰れないし、スキルもほとんど使えない! ステータスもボロボロですよぉ……!!」


 俺が“神”の一文字を奪っちまったせいで、お前“職業:女”だもんな。

 そういえば職業が女って、なんかいかがわしいな。

 なんて、忙しなく動く女神を見つめながら、ぼけーっと考える。


「天界に帰れないってことは、アイチューバー活動もできないし、大好きな干し芋ももう食べられないじゃないですか……!! これから私は一体何を糧に生きていけば……!」


「一つのことに依存するのはあまり関心しないな、人はあくまで自分の為に生きるんだ。お前もそうなれるといいな」


「……え、待ってください。今もしかしてあなた、適当に良い事言って会話切り上げようとしました?」


「そんなことないよ」


 俺はそれとなく目を逸らす。

 視界の端で、元女神がさーっと顔を青ざめさせた。

 そしてすかさずこちらへ詰め寄ってくる。


「え? あの、まさかとは思うんですけど、私のこと、放っておくつもりでした? こんな知らない世界に? 一人で?」


「……」


「あの、私、女神なんですけど? 天界から一度も出たことないですし、Amazooonの段ボールより重いもの持ったことないんですけど、ねぇ」


 元女神が俺の服をぐいぐいと引っ張ってくる。


 目を合わせるな、目を合わせるな……

 目が合ったら襲い掛かってくるぞ……


 ――と、思ったら襲い掛かってきた。

 飛び掛かってきた上で、背中にしがみついてきた。


「――うわああああああっ!! 逃がしません!! 逃がしませんよ!! 責任とってくださいよぉぉ!!」


「うわっ!? は、離せっ! 俺は一人で異世界ライフを謳歌するんだ!!」


「なんでそんなこと言うんですかぁぁ!! 女神に対して罰当たりだと思わないんですかぁぁぁ!」


「お前もう女神じゃないじゃん!」


「あなたのせいでしょぉぉっ!?!? あなたが私をただの“女”にしたんじゃないですかぁぁ!!」


 ……ん?


「責任とってくださいよぉぉ!! 私を女にした責任とってくださいよぉぉぉ!!」


 ちょ、おい……待て!

 その言い方、スゲー語弊がある!!

 町の人たちが、遠巻きにこっちを見ている!

 めちゃくちゃに目立ってる!


「分かった! 分かったから泣き叫ぶのをやめろ!」


「うう……!」


 俺は背中にひっついて蝉みたいに泣きわめいていた元女神をやっとの思いで引っぺがす。


「いいか? 俺はこの世界で誰もが羨む最高の生活を送ろうと思っている。それが俺の最終目標だ。その目標が達成されれば、“神”の文字も返してやる」


「ほ、本当ですか!?」


 一転して、彼女の表情がぱあっと明るくなる。

 本当だとも。

 そもそも俺が元女神から“神”の字を奪ったのは、単なる腹いせと“神”の一文字欲しさだ。

 別に目の前の引きこもり女神が欲しかったわけではない。

 身体目当てではなく、文字目当てだ。

 目標さえ達成してしまえば、こんなもの喜んで返そう。


「――そうと分かればすぐに行動に移りましょう! このメガミンが素晴らしい異世界ライフを提供してあげますよ!」


 元女神、もといメガミンは、そう言うなりどたばたと走り出した。

 ……完全に運動ができないヤツの走り方だ。

 そして一体どこへ向かっているのか、そのまま路地裏へと姿を消してしまった。


「世間知らずの箱入り女神め、ちょろすぎるぞ」


 さあて今の内におさらばさせてもらおう。

 明るい異世界生活が俺を待っている。


 そう思っているとメガミンの消えた方向から、ぱりん! と何かの砕ける音。

 続いて男の怒声、そして更に続けてメガミンの悲鳴。


 ……気にしない気にしない。


「――イトベリクさああああん!! 助けてくださいいいいいいい!!!」


 ――なんでフルネームで名指しなんだあの引きこもり!


「ああ、クソ!」


 俺は快適な異世界生活のため、仕方なくメガミンの消えた路地へと飛び込んだ。




[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]


 視聴回数 621回

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「辺境アパートの新米大家さん(実は世界最強の神話殺し)」
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