2 女神からもらったチート能力が地味すぎた。。。
「イトベリクさん――あなたの死にざまネット上でメチャクチャ拡散されてますよ」
どこまでも続く真っ白な世界で出会った黒髪ロングの自称女神さまは、開口一番俺にそんなことを告げてきた。
彼女の言っていることはもちろん聞こえている。
しかし、その内容は到底理解できそうになかった。
「……はい?」
ゆえに聞き返す。
すると彼女は懐からスマートフォンを取り出し、その画面をこちらへ見せつけてきた。
画面には中年の男性が映し出されている。
そして動画が始まってすぐ、男の背後にスーツ姿の男性が映り込んだ。
見間違うはずもない、それはゴミ箱へ空き缶を捨てようとする俺の姿だ。
その直後、中年男性は画面外からおもむろに黒い塊を持ってきて、ハンマーでカンと一撃。
画面全体が光に包まれ、ここで動画は終了する。
そして女神さまが画面をスクロールさせると、動画の下には「視聴回数 721,754回」の文字が。
「すごいですよねぇ、この動画、70万回も再生されてるんですよ。ニュースにも取り上げられましたし、SNSでもトレンド入り……」
「は? え? ちょっと待って、なにこれ?」
「とあるネット動画配信者(42)がライブ配信中に不発弾を爆発させて、偶然その場に居合わせた無職男性(28歳)もろとも木っ端みじんに吹き飛んだ際の衝撃映像ですが、なにか?」
理解が追い付かない、というより理解したくなかった。
じゃあ、なんだ?
俺の死にざまはネットを通じて全世界に発信され、今は世界中で笑いものになっているということか?
……こんな形で脚光を浴びたいなんて、一言も言っていない!
「美味しいですよねぇ、最期の最期でこんなにバズるなんて」
「人の最期にバズったとか言うな! というか女神とやらが何の用だよ! 俺は死んだんだろ!?」
「そうですね、それを説明するには、まずこの動画を見てください」
女神が手元でスマホの画面を操作して、再びこちらへ画面を向けてくる。
今度はなんだよ……
俺はじっと画面に目を凝らす。
そこに映っていたのは、他ならぬ女神であった。
『ブンブン、ハローアイチューブ! どうもメガミンです!』
『今日は……こちら! じゃん! 私の大好きな干し芋を食べていきたいと思います!』
『もぐ、おいしいですね、やっぱり、こう芋の甘みが……ね? ストーブであぶることで、より一層……はい』
『えー、尺がかなり余ってしまいました、じゃあ私のボイパでも……』
(聞くに堪えない雑音)
『では、そろそろお時間です! チャンネル登録お願いしますね! さよーならー!』
[女神的美少女が干し芋を食べてみた]
視聴回数 37回
いいね! 1 悪いね! 4
動画はここで終わっている。
俺は眉をひそめるほかない。
「どうでしたか?」
どうでしたか、じゃない。
再生数が全てを物語ってるだろうが。
「率直に言って、つまらない」
「ええ? おかしいですね、今回は自信あったのに……」
なにが今回は、だ。
関連動画の欄、お前が干し芋食ってるサムネしかねえじゃねえか。
そんな自信捨てちまえ。
「まぁ見てもらった通り、私は今動画配信サイト“I Tube”にハマっていまして、メガミンという名前で配信者をやっています」
「今時は女神もネット配信やるんだな……」
「しかし思いのほか視聴者が増えなくて困っていました。どうすれば私の超絶面白い動画を世界中の人に見てもらえるのだろう……そんな時、あなたの死にざま動画が鬼のようにバズっているのを発見したのです」
「だからバズってるとか言うな、それと俺になんの関係あるんだよ」
女神は思わせぶりにふっふっふ、と笑う。
「それは至極簡単なことです! 私は一躍ネットの有名人となったあなたを使って実況動画を作ることに決めました!」
女神は高らかに宣言する。
俺はかえって首を傾げるばかりだ。
「実況動画ってあの、ゲームとかをプレイしてその内容を実況するアレか?」
そう尋ねると、女神はわざとらしく肩をすくめる。
俺の額にぴきりと青筋が浮かんだ。
「私のやろうとしていることは、そんじょそこらの実況動画とは違うのです。前代未聞の実況動画――すなわち“異世界転移実況動画”なのです!」
「異世界、転移……?」
その言葉自体は知っている。
簡単に言ってしまえば、現世で何らかの理由で死んでしまったはずの人間が、超常的パワーによってこことは違う世界へ飛ばされることだ。
ちなみにここでいう異世界とはたいてい剣と魔法のファンタジックな場所のこと言うのだが――そんなことはどうでもいい。
「……もしかして、俺の事をその、異世界へ飛ばそうとしてるのか?」
「ええ、そうです」
女神は驚くほどの良い笑顔で答える。
「そしてその様子を私が天界から実況して、サイトにアップロードし、再生数をバカスカ稼ぎます」
良い笑顔のまま、最低なことを言っている。
「……というかなんで俺なんだよ、あの動画の主役はおっさんだろ」
「あの人は動画がバズったことを知ったら秒で成仏してしまったので、こっちまで引っ張ってこれませんでした」
……そりゃあ、自分の動画があれだけ再生されれば配信者冥利に尽きるだろうよ。
「さて、では説明も終わったところで、お待ちかねの“チート福袋開封動画”撮りましょうか!」
「おい、誰もやるなんて……」
と、言いかけたところで、目の前に大量の紙袋がうず高く積み上げられた。
赤地の紙袋には白文字で“何が当たるかお楽しみ 極チート福袋”と書かれてある。
「ただ異世界へ行っても面白みに欠けますからねぇ、この中から是非好きなものをひとつお選びください! 特殊な能力を貴方に与えます!」
「だから……」
「あ、生放送なので、ちゃんとリアクション取ってくださいね!」
聞く耳ナシである。
俺はこれ以上の対話は無駄だと判断し、彼女の余興に付き合ってやることにした。
自分の位置から最も近かった福袋を一つ、山の中から引き抜いたのである。
そして若干の苛立ちを込めて、乱暴に袋を破り割いた。
女神が「あぁっ!?」と声をあげていたが、気にしない。
袋の中には、二枚のカードが入っている。
一方には“観察眼・天”
そしてもう一方には“ステータス強奪・付与”の文字が。
「うわっ、これまた地味なのを引きましたねえ、リアクションも地味ですし」
女神が露骨に顔をしかめる。
どうやら彼女はいちいち人の神経を逆なでするのが得意らしい。
「観察眼・天は、対象の情報を数値化・言語化するスキルでして、一方でスキル“ステータス強奪・付与”は、数値化・言語化された自分以外のステータスから指定した“文字”を奪い、そして付与することができます」
「……つまりどういうことだよ」
「まぁ物は試し、私の方へ意識を向けて、頭の中で“観察眼”と唱えてみてください」
女神は両手を広げて、さあどうぞ、と言わんばかりだ。
俺は渋々、女神の言う通り頭の中で“観察眼”と唱える。
するとどうだ。
頭の中に、文字と数字のイメージが鮮明に浮かび上がってきたではないか。
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名前 :メガミン
職業 :女神
状態 :通常
LV :99
HP :9999/9999
MP :9999/9999
攻撃力:999
防御力:999
魔法力:999
素早さ:999
アクティブスキル
【業火】
【神雷】
【獄氷】
パッシブスキル
【全知全能】
称号
【無名アイチューバー】
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「どうです?」
「ステータス、ほとんどカンストしてるみたいだけど……」
「女神ですからね」
女神はふふんと鼻を鳴らしていかにも自慢げだ。
……その割にはなんだか女神に似つかわしくない不名誉な称号がくっついていた気もするが、この際黙っておこう。
「そしてステータスの強奪・付与とは、対象に触れることで発動し、このステータスの中から指定した文字を奪うこと、もしくは与えることができます」
「……例えば、俺がアンタに触れて攻撃力の数字を奪えば、アンタの攻撃力は0になり、代わりに俺は999の数字を手に入れる、ってことか?」
「ええ、そうです。ただし条件がありまして、一度につき奪える文字は一つまで。それと奪ったステータスはどこかに付与しなければ効果は発揮されません。ああ、それと自身にステータスの強奪・付与を行うことはできませんのであしからず」
要するに俺が女神から攻撃力の数字を奪って、自身の攻撃力に付け替えることは不可能というわけか。
えらく使い勝手が悪いな……
いくら相手からステータスを奪えるといっても、自分に付与することが出来ないのなら元も子もないじゃないか。
それに一度に奪える文字が一つだけ、というのもひどい。
「だから地味なスキルなのです。まぁとりあえず練習がてらどうぞ」
女神が再び両手を広げ、無防備な身体を晒す。
「……いいのか? 何を奪っても」
「どうぞどうぞ、どのステータスを奪われても、女神の固有スキル【全知全能】をもってすれば、すぐに失った分が補填されますから」
彼女はそこそこある胸を張って、やはり自慢げだ。
何を奪ってもいい、か……だったら。
俺は女神の肩にぽんと手を置く。
そして頭の中に浮かんできたステータスから、ある一文字を奪い取った。
するとその直後、俺の手のひらが淡い光を放ち、そして光はすぐに収束していく。
……どうやら、成功したようだった。
「あ、終わったみたいですね、さてあなたは何を奪ったんでしょうか、早速確認してみましょう!」
女神はにこにこと微笑みながら、自らのステータスを確認するようなそぶりを見せる。
そして自身のステータス画面を確認すると――固まった。
そりゃあもう、凍り付いたかのように。
まぁ、固まりもするだろう。
たった一度の能力の行使で――
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名前 :メガミン
職業 :女
状態 :通常
LV :1
HP :8/8
MP :3/3
攻撃力:4
防御力:4
魔法力:2
素早さ:3
アクティブスキル
【業火:使用不可】
【神雷:使用不可】
【獄氷:使用不可】
パッシブスキル
【なし】
称号
【無名アイチューバー】
----------------------------------------------------------------
――こんな惨状を見せられたとなれば。
「な、ななな、なんっ……こ、これ、これ……?」
女神が、ギギギ、とさび付いた機械のように首を動かして、こちらを見る。
さっきまでの自身ありげな表情はどこへやら。
顔面からすっかり血の気が失せてしまっている。
「あ、ああ、あなた、一体何を強奪したんですか……?」
「うん? なにって……」
そんなに大層なものを奪ったわけじゃない。
俺が奪ったのはたったの一文字。
――職業の項目から“神”の一文字を頂戴して、女神さまをただの“女”にしただけだ。
その直後の出来事である。
突如として足元より目も眩まんばかりの光があふれだし、俺と、そして“元”女神の全身を包み込んでしまったではないか。
彼女が短く「ひゃいっ!?」と悲鳴をあげる。
「やややっや、やばいですよコレ!? あ、あなた! 早く私の“神”を返してくださいっ!!」
「なんで?」
「私が女神でなくなったことにより女神空間が自動システムに切り替わりました!! このままでは二人とも異世界に飛ばされますよ!?!?」
「へえ……」
なるほど、思い付きでやってみたのだが、この能力は使い方次第では相手の役割を奪うこともできるのか。
光に包まれながら、そんなことを冷静に分析してみる。
「なっ、なにしてるんですか!? は、早くっ! 私もう半分消えかかってるんですけど!?」
「やだ」
「なんで!?」
女神は驚愕の表情だ。
どのみち俺はこれから異世界とやらに飛ばされるのだろう。
異世界では“神”なんて文字はそうそう手に入れることはできないだろうし、それになにより。
――俺は、誰かにダシに使われることが、一番嫌いなのだ。
「まぁ、なんだ、そんなに再生数が稼ぎたいんだったら、自分で頑張れ」
「なっ……!?」
間もなくして光は俺と彼女の全身を覆いつくし、そして視界がホワイトアウトする。
その直前の元女神の絶望的な表情を、俺は一生忘れることはないだろう。
[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]
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