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最終話 ひきこもり女神とともに目指す最高の異世界生活


「うおおおおおっ! やべえええ!!!?」


 ごおおおっ! と、見るからに触れたら即死の黒炎が邪竜の口より噴出され、俺の足元を焦がす。

 熱い! 痛い! かすってもないのに!

 しかし泣き言を言っている場合ではない!

 振り下ろされた前足が、俺の頭上に影を落とす。


「あぶなっ!?」


 俺はかろうじてこれをかわす。

 石畳がクッキーか何かのように踏み砕かれた。


「死ぬ! これ死ぬ! ――メガミンっ!!」


「おぼろろろろろ……」


「お前マジで使えないな!」


 メガミンはこちらを気にかける余裕もないらしく、犬のように這いつくばっている。

 ちなみに彼女の吐き出すソレは神様パワーできらきらと光り輝いているが、なんだその配慮は!

 せっかく神の一文字を返してやったのに、お前がやったことデコピンぐらいじゃねえか!


「はははははっ! 逃げろ逃げろ!」


 悪徳狸オヤジこと、デニスが馬鹿笑いをしている。

 さぞや面白い見世物だろう!

 俺も当事者じゃなかったら腹を抱えてげらげら笑っているだろうさ! こんなにも間抜けなんだもの!


「ほら小僧! 逃げ回っているだけでは潰されるのも時間の問題だぞ! 何か抵抗してみろ!」


「無茶言うなデブ!」


 ――俺のチートは【ステータス書き換え】。

 それも自分自身のステータスは書き換えられないときている。

 メガミンの膨大なステータス中から何かを奪えばもしくは――そう思ったが、いかんせんメガミンからは距離が離れすぎている!

 アイツの下へたどり着く前に黒竜の前足でプレスされて、俺はタコせんべいになるのが関の山だ!


「はっはっはっは! 格の違いも知らない野良犬が噛みつくからこうなる! さあお前の負けだ!」


 負け――

 その言葉は、やけに響いた。


 結局、俺はこの世界でも負けるのか?

 やはり俺の人生とは、どこぞの意地悪な神様が戯れに作り出したものだったのか?

 誰かの踏み台となるための人生。

 決め手に欠ける、出し抜かれる、目立てない。

 それもこれも――俺自身が、勝ちを信じていないから。


 黒竜の前足が、石畳を砕く。

 飛び散った礫に、強くふくらはぎを打ち据えられて、俺は前のめりに倒れこんだ。


「くっ……!」


 痛みを押し殺して立ち上がろうとするが、遅かった。

 すでに黒竜がこちらへ狙いを定めて、口内で黒い炎を精製している。

 終わり、だ……


「はっはっはっはっは! 死ね! ペテン師め!」


 デニスの高笑いが聞こえる。


 ……ああ、さようなら俺の最高の異世界生活。

 次は、多分生まれ変われないだろうな。

 最後に、俺はちらとメガミンの方を見やった。

 彼女は――


「リク……ざん……っ!!」


 ああ、なんとひどい姿だろう。

 彼女はきらきら光るゲボにまみれ、涙まで流しながら、こちらへ這いずってきていた。

 信じられるか? これ女神様なんだぜ?

 ゲボと泥にまみれて、顔をくしゃくしゃにして――俺なんかを助けるために。


 思わず笑ってしまう。


 そうだ、俺は今まで負け続けてきた。

 それは俺が俺の勝ちを信じていないから。

 ……でも、ヤツは信じてくれた。


 ――私……考えたんです……私とあなたのコラボ企画……これは絶対受けますよ……ふふ。


 ――大丈夫ですって……だってあんなに再生数の少なかった私の動画……あなたのおかげで、あんなに伸びたんですよ……。


 ――私たち二人なら……アイチューバー界の頂点にも……立てますよ……。


 こんな俺を信じてくれた。

 骨の髄まで負け犬根性の染みついた俺を、疑いもせず、幸せそうな顔で――そう言っていたんだ!


「負けてたまるか……ああ負けてたまるかよ!!」


 黒竜の貯えた黒炎が、最大限まで膨らむ。

 そしてそれが解放される直前、俺はすかさず近くに転がったスマートフォンを手に取った。

 それは、メガミンのスマホ。


 俺はここに手をかざしながら、彼女の言を思い出す。


 ――だだだ駄目です! スマホがないと私は動画がどれだけ伸びたか確認できません! 動画の再生数は私のステイタスなんです!!


「だったら当然! 書き換えられるよなぁ!!」


 ――“ステータス強奪”。

 俺はメガミンの動画から、再生数を奪う!


----------------------------------------------------------------


[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]



 視聴回数 80640回


 いいね! 1722 悪いね! 201


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「そしてこれを、付け替える!!」


 俺は近くに散らばった干し芋の一つを拾い上げ、“ステータス付与”!

 それと同時に、黒竜が限界まで膨らんだ黒炎を吐き出す。

 迫る炎、干し芋を振りかぶる俺。


 ――ああ、見ているか。

 俺は今、ここから最高の異世界を始めるぞ。


 どうしようもなく駄目で、おっちょこちょいで、頼りがいもなくて、人をムカつかせる天才。

 そんなひきこもり女神とともに!!


「――干し芋でも食らってろ! トカゲ野郎!」


 俺の投げ放った干し芋は、さながら流星のごとく。

 光の尾を引いて、一直線に黒竜の頭部へ。


 吐き出された黒炎がぼんっと霧散する。

 黒竜は一瞬、驚愕に顔を歪めたように見えたが、次の瞬間――ばんっ、と音がして、黒竜の頭がはじけ飛んだ。

 ただの干し芋が、邪竜の頭を吹き飛ばしてしまったのだ。


「え……嘘……?」


 デニスが呆然と立ち尽くしている。

 彼の見つめる先には、きらきらと輝きながら、天へと昇っていく干し芋が。



----------------------------------------------------------------



名前 :干し芋


状態 :生焼け


レア度:F


売却額:5G


耐久 :1/2


攻撃力:80620


防御力:0



アクティブスキル



【なし】



パッシブスキル



【なし】



称号



【女神のとっておき】



----------------------------------------------------------------



 勝敗は決した。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 その後、悪徳商人デニスは衛兵にしょっぴかれ、一件落着。

 俺たちは例の酒場で勝利の美酒に酔いしれていた――のだが。


「――あああああっ!?」


 突然、メガミンがでかい声をあげるものだから、耳がきーんと鳴った。


「なんだ、いきなりでかい声あげて」


「り、りりりリクさん!? これ、どうなってるんですかぁ!?」


 料理で口元を汚したメガミンが、自らのスマホをこちらに突き付けてくる。

 それは、メガミンが現在進行形で配信している異世界転生実況動画のページだ。

 彼女は「これですよこれ!!」と再生回数の部分を指さしていた。

 あー……


「なんであれだけあった再生回数が0に!?」


「俺が奪ったからだな」


「な、なんてことするんですかぁ! もう少しで私も女神的アイチューバーの仲間入りだったのに……!」


「しょうがねえだろ、お前がげえげえ吐いて使い物にならなくなったから、そうするしかなかったんだよ」


「め、女神は吐きませんよ!」


 と、胸を張ってメガミン。

 嘘を吐け、嘘を。


「あ、そういえば忘れてた」


「うん?」


 首を傾げるメガミンに、ぽん、と一度タッチ。

 ほい、ステータス強奪。


「これでよし、と」


「り、リクさん? 今何を奪いました……?」


「“神”の一文字だけど」


「また私をただの女にしてえええええええ!!」


 びえええええっと泣き出すメガミン。

 ああ、もううるさい!


「だってお前、女神に戻ったら天界に帰っちまうんだろ!?」


「そんなわけないでしょ! 私は女神であってもあなたの傍にいますよ!」


「……うん?」


「……あれ?」


 途端、メガミンの顔がかーーーっと赤く染まっていく。

 まるでリンゴ飴だ。

 彼女は「うう」とか「ああ」とか言葉にならない声を何度かもらして――やがて、ぐるぐると目を回しながら、こちらを指さした。


「――ど、動画の配信を途中でやめるなんてアイチューバーの名折れです! 私はまだ、アイチューバー界の頂点に立てていません!」


「じゃあ一生帰れないな」


「なんでそういうこと言うんですかぁ!?」


 声を荒げるメガミンが、なんだかやけに面白くて、俺はぷっと噴き出す。

 メガミンはぐぬぬ、と唸り、そして高らかに宣言した。


「私の夢は女神的アイチューバー! それまでは付き合ってもらいますからね! イトベリクさん!」


「しょうがねえな、付き合ってやるよ」


 ――かくして俺たちの異世界生活は幕を開けた。

 前途多難だが、まぁなんとかなるだろ。

 俺とアイツなら最高の異世界生活が送れる、そんな根拠のない予感があるのだ。


 ひきこもり女神とともに目指す最高の異世界生活。

 やっぱり、前途多難だな。



[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]



 視聴回数 2回


 いいね! 3742 悪いね! 215


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「辺境アパートの新米大家さん(実は世界最強の神話殺し)」
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