12 真の力を取り戻したメガミンがマジで強すぎた件
背中から生えた二枚の翼という圧倒的なシンボルもさることながら、彼女の五体より溢れ出る神性にあてられしまえば、人々はもはや疑わなかった。
女神様、誰かが夢見心地に呟く。
そう、本人がどれだけムカつくしたり顔を浮かべていようが、どれだけダサい決めポーズをとっていようが、そんなものは問題ではない。
誰もが確信していたのだ。
彼女こそ、地上に降臨せしめし女神様なのであると。
「――ふふん! メガミン完全復活! ようやくあなたも私に対する今までの行いの罪深さに気が付いたようですね!」
メガミンは俺の方を見下ろして、いわゆるドヤ顔で言った。
「クソ……せっかく貴重な“神”の一文字を付与してまで助けてやったのにその態度かよ……」
「それは、その、素直に嬉しいですけど……いえ! そもそも“神”は私のものです! 騙されませんよ!」
メガミンが顔を真っ赤にして、こちらを指差してくる。
ああ、もうどうでもいいよ……
お前に神の一文字を返した瞬間、俺が異世界で貫こうとしていた信念は、ぽっきり折れてしまったのだ。
次の人生では自分のためだけに生きると決めたのに、こんなポンコツのために俺が譲歩する羽目になるなんて……
いや、もう終わったことだ。あとは……
「……じゃあメガミン、あの不心得どもに天罰、よろしく」
「普段ならあなたも天罰の対象ですけどね……まあ、友達のよしみで特別に許してあげましょう!」
友達、か……笑えねーな。
そんな風に気の抜けたやり取りをしていると、ようやく我に帰ったらしいタヌキ親父ことデニスが、声を荒げた。
「シュロ! なにをしている! あんなのは虚仮威しだ! こちとら高い金を払ってお前を雇っているんだぞ!? さっさとあの女を殺せ!」
え、まだやるのかよ。
シュロとかいう用心棒の男も困惑しているじゃないか。
しかしまあ、不信心者に女神の威光は通じないということか。
そしてシュロもまた、雇われ用心棒として雇い主がやれという限り自分だけさっさと逃げ出すわけにもいかないのだ。
初めは若干の躊躇いも見えたものの、今ではすっかり仕事の顔である。
彼の手元で一閃、何かがきらめいた。
それは二本の投げナイフ。
目にも留まらぬ速度で放たれたソレは、空気を切り裂きながらまっすぐにメガミンの下へ向かっていく。
やった! とデニスが声を上げる。
言うまでもなく、こういう場合は十中八九やっていない。
ナイフは、メガミンがただ一度睨みつけただけで、じゅっと短い音を二度、跡形もなく蒸発してしまったではないか。
これには誰もが舌を巻いた。
「ふふ、こんなもので女神が倒せるなどと思わないことですね――ん?」
メガミンの頭上に影が落ちる。
シュロが息を吐く間もなく、メガミンに向かって二つの球体を投げ放ったのだ。
球体はしゅうしゅうと音を立てながら火花を撒き散らしており、それが爆弾もしくはそれに準ずるなにかだということは明白であった。
えっ、待て、これは洒落にならんぞ……
しかし、本来の力を取り戻したメガミンにとって、こんなものは問題ですらないらしい。
彼女はやってくる爆弾をまっすぐと見据えて、両手をぎゅっと握りしめる。
宙に浮いた爆弾はまるで見えない何かに握りつぶされているかのようにくしゃくしゃと小さくなって、ぽん、という気の抜けた音とともに消滅してしまった。
そして、更にこの隙をついてメガミンの背後に回り込んでいたシュロでさえ、メガミンは振り向きざまに捉えてみせた。
僅か数秒の出来事である。
「っ……!?」
「天罰覿面、食らいなさい、神の一撃――」
メガミンは突き出した右手の親指の腹に、中指の先端を食い込ませ、それ以外の指をぴんと立てる。
それはまごうことなきデコピンの構え。
バァン! と、火薬の破裂したような音が一度。
更にそののち、ひときわ大きな破裂音があたり一帯に鳴り響いた。
最初の音は、信じがたいがメガミンがデコピンを解放した時の、いわゆる発砲音であり、そこに続いたのはデコピンがシュロの額に着弾した際の音だ。
そして音が鳴るのとほとんど同時に、シュロの姿が消えた。
俺を含めた皆が、消えた彼の行方を探した。
時間にしてほんの数秒、誰かが「あそこだ!」と声をあげ、皆が視線を集中させる。
シュロはどこぞの露店に突っ込んで、果物にまみれながら目を回していた。
ただ、その露店というのはここから100mは離れた場所にあるのだが……
「あ、あの凄腕の用心棒を、デコピンであそこまで吹っ飛ばしたのか……?」
「めっ……女神様すげーーーー!」
「女神様! 女神様!」
「ふふ、そんなに褒めても何も出ませんよ」
大衆は、たっぷり時間をかけて状況を飲み込むと、一斉にメガミンを褒めたたえた。
メガミンといえば、いよいよ天狗である。
天まで伸びた鼻が目に見えるようだ。
しかしまぁ、なんにせよこれでシュロは倒したも同然だろう。
あとは
「それでオッサン、まだなんかあるか?」
「っ……!?」
自慢の用心棒が一発のデコピンでやられて放心していたのであろう。
彼は呼びかけられて、びくりと肩を震わせた。
「なにもないんだったら観念してお縄につけ、どのみち逃げられねえぞ」
彼に騙された被害者たちがデニスの四方をしっかりと囲んでいるし、こっちには完全復活したメガミンがいるのだ。
いかに往生際の悪い悪役とはいえ、さすがに降参するしかないだろう。
そんな風に考えていた俺は、悪役に対しての認識が、実に甘かった。
デニスは、この絶望的な状況において、どういうわけか笑っていたのだ。
「く……くく、なにがお縄だ神様気取りのペテン師どもが、私にはまだ奥の手がある!」
デニスはそう言って懐から何かを取り出すと、それを高く掲げた。
あの黒いものは……角笛というやつだろうか? 武器には見えないが……
これは大衆も同じ意見だったようで、訝しげにその黒い角笛らしきものを眺めている。
そして衆目の中、デニスは角笛の先端を咥えて、ぶおおぶおおと濁った音色を奏で始めたではないか。
……気でも狂ったのか? 誰もがそう思っていた。
頭上に巨大な影が落ちるまでは。
「え?」
――初め、バカみたいな話だが、突然夜になったのかと思ったのだ。
しかしその実は太陽を遮るほど巨大な何かが頭上に現れただけという至極単純な原理である。
至極単純に、最悪の光景だった。
「どっ――ドラゴンだ!!」
頭上のソレを見て、誰かが言った。
そこからはもう阿鼻叫喚の地獄絵図、人々は我先にと逃げ惑い、たちまち広場から人の姿がなくなってしまう。
直後、俺たちの頭上で羽ばたいていた黒い竜が、広場へと降り立った。
……なるほど、ドラゴンである。
それも邪竜とか呼ばれる類の、めちゃくちゃに強そうなタイプの。
「ははは! 遥か西の地で手に入れた伝説の黒竜を操る笛だ! あの使えない用心棒などとは比べ物にならんぞ!」
「駄目だろ! それは序盤のケチな商人風情が持ってていい代物じゃねえだろ!」
はじめの町で「伝説の~」が枕詞にくるようなモンスターを出すんじゃない!
……いや、まあいい、それを言ってしまえば、こっちには“女神様”がいるのだ!
レベル99、全てのステータスがカンストしたメガミンがな!
いかに伝説の黒竜といえどアイツには……!
「……なにしてんの、お前?」
振り返って見ると、どういうわけかメガミンが地べたに這いつくばっている。
彼女は、今にも吐き出してしまいそうな調子で語り始めた。
「忘れてました……私……うぷっ……下界で女神の力を使うと……下界酔いするんです……ぎもぢわるい……」
「えっ」
「すみませんが……もう無理です……」
そこまで言ったところで伝説の黒竜さんが、さながらボールで遊ぶ猫のように前足でメガミンを払った。
メガミンはスマホやら干し芋やらを撒き散らしながらごろごろと転がって行って、ようやく止まったと思えば、地べたに這いつくばって、げえええ……と色々ぶちまけている。
伝説の黒竜とやらが、今度は俺のことを睨みつけていた。
冗談だろ
[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]
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