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11 【神回】生放送中に神フラしちゃった件


『……キミも見ただろう、あのベルノルトとかいう男、あろうことかただのガラス玉を買っていきおった……』


『貧乏人は本物の紅龍の宝玉を見たことがないんだな。ただ傍に置いておくだけで、どんな難病でもたちまち快復する宝玉……そんな代物がたったの2万Gぽっちで買えるものか……ハハハ』


『しかもそれが妹のためだというのだから笑わせる。彼はあろうことかやっとの思いで稼いだはした金でガラス玉を買ったのだ……まったく滑稽だな……キミもそう思うだろう?』


『いいカモだったんだが、そろそろ潮時だな……予定通り明後日には町を出よう』


『いや、実はな……キミにはまだ言ってなかったんだが、もしも紅龍の宝玉で妹の病気が治らなかったら私の下へ妹を連れてくるようにと、彼に伝えてあるんだよ』


『え? 何故そんなことを、って? はは、決まっているじゃないか、適当に理由をつけて妹さんをさらっちまうのさ、そして売り飛ばしちまうんだ……』


『まぁ、あのブ男の妹だから顔には期待できそうにないけどね……ハハハハハ……』


 動画はここで終了する。


 場が、静寂に包まれていた。

 皆一様にキツネにつままれたような表情で、ただ一人、タヌキ親父ことデニスだけが金魚のように口をぱくぱくやっている。

 動画の感想については、聞くまでもなさそうだ。


「……え? 今の、あのおっさんの声だったよな……?」


「カモって言ってたけど……」


「ガラス玉? あの紅龍の宝玉が?」


「……デニスさん、どういうことです?」


 ベルノルトがデニスの手を振り払って、彼に詰め寄った。

 タヌキ親父はいよいよ顔を青ざめさせて、汗はだらだら。

 自慢の舌もいよいよ引きつってしまったらしく、や、とか、う、とか声にならない声をぶつ切りにもらしている。


 さあこれで終わりだ。

 俺は“紅龍の宝玉”ならぬガラス玉を高く掲げて、デニスとの距離を詰めると、わざとらしく言った。


「商人様、私のような浅学菲才な者には理解が及ばぬところでございますゆえ、もう一度尋ねさせてください――果たしてこのガラス玉には一体どのような効能が?」


「ぐっ……ぎ……きっ、貴様ぁ!!」


 デニスが般若の形相で身を翻す。

 怒りに任せて、こちらへ殴りかかってこようというのだ。

 しかしこちとら腐ってもまだ働き盛りの28歳、タヌキ親父のパンチを躱すなんて容易い。


 俺はメガミンの腕を引き、メガミンとともにタヌキ親父のパンチを躱す。

 タヌキ親父は勢い余って、つんのめり、そのまま地べたへ倒れ込んだ。


「ぶっ!?」


 はは、ざまあねえな。

 俺はひとしきりヤツの醜態を笑うと、翻ってベルノルトの妹に歩み寄る。

 すると妹さんが驚いたような怯えたような表情で固まっていたので、俺は少しでも彼女を安心させるよう、にっこりと微笑んで言った。


「――じゃあ約束通り、その病気もらうからな」


 俺とメガミンが手を重ねて、更にそこから妹さんの手に重ねる。

 そしてステータス強奪。

 三度に分けて、状態の項目から「竜」「鱗」「病」の三文字を強奪。


 すると妹さんの顔に張り巡らされた鱗はたちどころに消えて、彼女は本来の顔を取り戻す。

 そして白濁していた左目にも、すぐに輝きが戻った。


「……え? 目が見え、る……?」


「ナタリア!? お前、鱗がなくなって……!!」


 妹さんは信じられないように自身の顔を何度もなぞり、やがて堰を切ったように泣き出した。

 ベルノルトもまた感極まったらしく、力強く妹を抱きしめると声をあげて泣き出してしまう。

 これを見てある者は彼らと同じように泣き出し、ある者は歓声をあげ、そしてまたある者は自分の事のように喜んだ。

 メガミンに至っては滝のような涙を流しながら「よかったですねえ……! よかったですねえ……!」と繰り返している。

 俺も悔しいが少し感動してしまった。


 さて、ではすっきりと始末をつけよう。

 俺はおんおんと泣くメガミンの手を引き、ある場所へ向かった。

 このどさくさに紛れて逃げ出そうとするタヌキ親父の下へ、である。


「コラ、どこいくんだペテン野郎」


 タヌキ親父もといデニスがびくりと肩を震わせる。

 そして彼はすかさず逃げ出そうとしたが、そうはいくものか。

 俺とメガミンは、彼が立ち上がるよりも早く、息のぴったり合った動きで彼の肩に両手を置き、強引に膝をつかせる。


「うぐっ!? は、離せっ! インチキどもが……!」


「もちろん、すぐに離すとも。ついでにインチキじゃないことも証明してやるよ」


「ふふふ、視聴者プレゼントです」


「な、なんだ、何をする……!?」


 こうするのさ!

 俺はメガミンに付与していた全てのバッドステータスを、ステータス強奪で奪い取り。

 そして竜鱗病も含める、今まで奪い取ってきたバッドステータスを全て、ステータス付与でデニスの野郎に押し付ける!

 時間にしてほんの数秒。


 全てのバッドステータスは、デニスへと付与された。

 虫歯に風邪に関節痛、極めつけは竜鱗病だ!


「うがあああああああああ!?!?」


 デニスが悲鳴をあげて、のたうち回る。


 あれだけのバッドステータスを付与したのだ、もはや訳が分からないだろう。

 見た目はほとんど変わらないので、周りの人間からすれば悪魔憑きに勘違いしてしまうかもしれないが、やがて彼らも気付いた。

 ――デニスの顔面を浸食する竜鱗に。


「み、見ろ! 竜鱗病だ! あれはうつる病気じゃねえのに……!」


「女神様の力だ! 罰が当たったんだ!」


「その通りです」


 メガミンがふんすと鼻を鳴らして胸を張ると、周囲から「おおっ!?」と声があがった。

 ……くそ、貰い物のスキルとはいえ、使い方を考えたのは俺なのに。なんでお前が誇らしげなんだ……

 しかしメガミン、すっかり調子に乗ってしまったらしく、地べたをはいずり回るデニスをずびし、と指でさす。


「あなた言ってましたよね! 厳選した商品があれば死の病だってただの風邪も同然だと! なら自慢の商品とやらでその病を治してみなさい!」


「お前まさかあの時の……!? く、クソ、ガキどもがっ……! ま、まずい……もう限界だ!!」


 デニスは忌々しげに表情を歪めると、懐から翡翠色の液体に満たされた透明な小瓶を取り出した。

 そしてそれを手早く開栓すると、中の液体を一息に飲み干してしまう。

 ――するとどうだろう。

 彼の顔面を覆っていた竜鱗がたちまち引いていき、見るからに彼の全身に活力が漲ってきたではないか。


 あれはなにか――俺はすかさず観察眼を発動する。



----------------------------------------------------------------


名前 :エリクサー

状態 :通常

レア度:A

売却額:600000G

耐久 :1/5

攻撃力:0

守備力:0


アクティブスキル


【HP回復・特大】

【状態異常回復・全】


パッシブスキル


【なし】


称号


【伝説の霊薬】


----------------------------------------------------------------



「はぁ!? エリクサー!?」


 驚きのあまり、思わず声に出てしまった。

 だって、エリクサーってあれだろ?

 伝説の薬で、RPGとかだと終盤にしか手に入らない、HPやら状態異常やらをたちまちに回復させてしまうあの!

 そしてエリクサーはやはりこの世界でも有名なものらしく、その名を聞いた瞬間、皆が一様に同じような反応を示した。


「エリクサーだと!? あのオヤジそんな大層な代物を隠し持ってたのか!?」


「俺らには散々偽物を掴ませて……! この野郎!!」


「ぐっ……!? 私が自分の金で何を買おうが勝手だろう!」


 俺たちから騙し取った金じゃねえか! と口を揃えて罵倒される。

 ごもっともな意見だった。


 ともあれ、これでいよいよ大衆は完全に彼のことを敵とみなした。

 四面楚歌とはこのことで、あいつは一転して敵地にたった一人放り込まれたかたちとなる。

 これこそが俺の作り上げたかった状況、さあ、あと一押しだ。


 しかし悪役とは往生際の悪いのが常。

 彼もまだ観念したわけではないらしい。


「シュロっ! 私を守れ!」


 彼がその名を叫ぶと、どこからともなく、長髪を後ろで束ねたいかにも手練れといった雰囲気の男が、人混みの中から飛び出してきた。

 ヤツは、あの時デニスの近くで控えていた用心棒である。


 今にも飛び掛かろうとしていた大衆は、彼の登場により、ぐっと呻きをあげて後ずさった。

 なぜならば、シュロという男が見るからに危なげな武器を構えていたからだ。


「はは! その男の剣には猛毒が塗られているぞ! 道を開けろ馬鹿どもが!」


 人々が情けない悲鳴をあげながら、蜘蛛の子を散らすように彼らから距離を取る。

 ……さすがに毒はヤバいな、俺らもトンズラさせてもらうか……


「シュロ! そこの二人だけは確実に殺せ! 私をあそこまでコケにしたのだ、この屈辱の対価は命で支払ってもらう……!」


 名指しかよ!

 そして屈辱の対価が命って、仮にも商人ならちったぁまともな商取引をしやがれ!!


 などとツッコんでみても、状況は変わらない。

 雇われ用心棒が、剣を振りかぶって凄まじい速さでこちらへ肉薄してくる。

 その狙いは――メガミンだ。


「え、噓でしょ、これ私、死――」


 メガミンは彼が目前まで迫っても、呆けたように突っ立っているだけだ。


「メガミン!!」


 俺は考えるよりも先に駆けだしていた。

 しかしこの距離からでは、あの用心棒を体当たりで突き飛ばすのも、もしくはメガミンを突き飛ばすのも間に合わない。

 剣は今まさに、寸分たがわずメガミンの頭を両断せんと迫っている。

 万事休す――いや、手はあった。


 しかし、これをしてしまえば、俺が今までしてきたことが全て水の泡になる。

 俺は、俺自身を、この世界でもまた前世と同じような生き方をするしかないのだと決定づけてしまう。

 それは自分への裏切りだ。そして諦観だ。

 永遠の二番手、永遠の噛ませ犬、ダシ、踏み台、しかし、しかし、しかし――


 ――アイツを殺されるぐらいなら、俺は踏み台にだってなんだって甘んじてやる!


 猛毒の剣が、あとは拳ひとつ分というところまでメガミンに迫っていた。

 俺は、メガミンに手を伸ばす。

 剣が届くのが先か、俺の指先が触れるのが先か。


 ――タッチの差で、俺が勝った。


「返すぜメガミン!!」


 そして俺は、彼女に“神”の一文字を付与する。

 直後、凄まじい衝撃音があたり一帯に鳴り響いた。


 誰もが目を覆っていた。

 目の前の惨状をせめて目にすまいと、固く目をつぶっていた。

 ……全く、誰も彼も勿体ないことをしたものだなと、俺は思う。

 よもや女神降臨の瞬間を、見逃すなど。


「……あれ?」


 永遠に続くかと思われた静寂を打ち破ったのは、今までに一度も声を発さなかった用心棒、シュロの間抜けな一言であった。

 皆がゆっくりと目を開いていく。何が起こったのか確認しようとする。

 そして皆が――神を見た。


 目も眩まんばかりの後光を放ち。

 穢れを知らない純白の翼を広げ。

 この世のものとは思えぬ美貌をたたえた、一人の少女。


 振り下ろされたはずの剣の刀身が、何故か塵になっていることなど、誰一人として気にはしていなかった。

 ただその場にいた全員の視線が、彼女の御身に釘付けになっていたのである。

 そんな衆目の中、彼女はどこか間抜けな調子で言うのだ。


「――ブンブン、ハロー下界の人々! どうもメガミンです!」



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名前 :メガミン

職業 :女神

状態 :通常

LV :99

HP :9999/9999

MP :9999/9999

攻撃力:999

防御力:999

魔法力:999

素早さ:999


アクティブスキル


【業火】

【神雷】

【獄氷】


パッシブスキル


【全知全能】


称号


【無名アイチューバー】


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[【衝撃!】女神的美少女と無職がチート福袋を開封してみたら驚くべき結果に!?]


 視聴回数 65551回

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「辺境アパートの新米大家さん(実は世界最強の神話殺し)」
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