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1 【悲報】会社クビになった上巻き添えで死んだんだけど理不尽すぎるww


 今思い返してみると、俺こと伊戸部(いとべ) (りく)の人生とは、誰かの踏み台となるべく、どこぞの意地悪な神様が作り出したものだったのだ。


 勉強やスポーツ、恋愛、趣味でさえ。

 あらゆる勝負において、俺が脚光を浴びることはただの一度もなかった。

 噛ませ犬、当て馬、ダシに使われることなどしょっちゅうだ。


 単に努力が不足している。才能が無い。

 それなら諦めもついたのだが、どうもそういうわけではないらしい。


 どんな勝負ごとにおいても、俺はたいていあと一歩というところで敗れる。

 それこそ、相手が気持ち良く勝利の喜びを噛みしめられるほどには良い勝負をするのだ。

 しかし驚くべきことに俺がここぞという時に“勝った”ことはただの一度もない。ただの一度もだ。


 学力テストでは二位、テニスの大会でも準優勝。

 お近づきになった女の子は他の誰かに取られる。

 何故か、何故か。

 その理由には、やがて気が付いた。


 俺には圧倒的に“勝利”のイメージが足りていないのだ。

 一体どこでそうなったのかは分からない。

 ともかく、俺には“勝負事で勝つ”という経験が足りなかった。

 どれほどいい勝負をしようが、誰よりも自分自身が“勝ち”を信じていないのだ。


 だからこそ決め手に欠ける!

 だからこそ出し抜かれる!

 だからこそ俺は、目立てないのだ!


 すなわち俺のしていた勝負とは、はなから勝負になっていなかった。

 勝負とは名ばかりの、いわゆる接待だったのだ!


 ――それに気付いたのは、間抜けなことにたったさっき会社をクビになった、その瞬間だった。


「あぁ……嘘だろ……」


 人っ子一人いない、昼下がりの公園。

 ベンチにうなだれた俺は、この世の終わりとばかりに頭を抱える。


 後輩のミスだった。

 顧客情報の流失、未曽有の大失態。

 クビはもはや免れないと知って落ち込む後輩を憐れみ“俺が責任を持つ、だから安心しろ”などと豪語した自分の愚かさを恥じる。

 後輩は一通り感謝したのち、上司にこう進言した。


 ――本当はあのミス、伊戸部先輩がやりました!


 語弊がありまくりだった。


 俺は責任を持つと言ったのだ。

 誰も濡れ衣を着るとは言っていない!


 と、主張しようにも時すでに遅し。

 かつての上司やかつての同期に後ろ指を指されながら、俺は会社を去る羽目になってしまった。

 火の粉をかぶるどころか、思いっきり燃え移った。

 ちなみに当の後輩が翌日けろっとした顔で出勤してきた際には、さすがに殺意が沸いた。


 こうして見事に職無しである。

 昼間っから公園で発泡酒を煽るような、模範的プー太郎になってしまった。


「いっつもこうだ……クソ……」


 発泡酒を一息に飲み干して、空き缶を握りつぶす。


 間違いなく出世コースだったのだ。

 今度こそ勝てると思っていたのに、あえなくコースアウト。

 どころか勢い余って奈落まで真っ逆さま、といった具合である。


 ……もう無理ではないか?

 俺が自他ともに認める輝かしい勝利を収めるためには、いっそ全く別の人生を歩み始めるくらいしか方法はないんじゃないか?

 まぁ、もう立派なアラサーなので、なにもかも遅すぎるのだが……


「……空き缶、捨ててこよ」


 俺はベンチから立ち上がって、ゴミ箱の方へと歩き出した。

 ああ、明日からどうすればいいんだ……


 そんなことを考えながら歩いていると、公園に設置されたゴミ箱のすぐそばに小太りの中年男性が座り込んでいるのが見えた。

 中年男性はノートパソコンを開いて、パソコンに向かいなにやら一人で喋っている。


「えー、タクマTVをご覧の皆さん! こんにちは! タクマでーす!」


 男は脂ぎった手でぱちぱちと拍手をする。

 ……配信者、というやつだろうか?

 ネット上に自分が撮った動画を上げる、あの。


「えー、今日はライブ中継ということで少し緊張してます! 編集とか使えないからね(笑) でも今日もいつも通りやっていきまーす! いえーい!」


 楽しそうでなによりだ……

 あんなに楽しそうなら俺も配信者になるっていう手があったのかな。

 ……いや、ないな。


 俺は馬鹿げた思い付きを振り払って、せめて彼の邪魔にならないよう、こっそり空き缶を捨てようとする。

 そんな時だった。


「――では今日の動画は“庭から見つかった不発弾の信管をハンマーで叩いてみた”です! 早速いってみましょう!」


「はっ?」


 カンッ、と間抜けな音が一度、耳に届いた。

 直後、凄まじい爆発が視界を真っ白に染め上げる。


 こうして俺こと伊戸部陸は、とある無名配信者の巻き添えを食って死んだのである。


区切りのいいところまで書き終えてありますので、ガンガン更新していきます。

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「辺境アパートの新米大家さん(実は世界最強の神話殺し)」
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