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『この話ダメな気がする症候群』に駆られこのままだとボツ行きまっしぐらな状態なので、何でもいいので感想か評価をください乞食。
この作品はフィクションであり実在する組織・団体・作品と一切の関係はなく、またキャラクターの発言はソイツの偏見であり、等作者とは一切の関係や責任は感じません。
ーー世界とは、残酷で退屈で、それでいて臆病だ。
『やめて!離して!離してよ!』
『ヘヘッーー、」
あまりにもぶっきらぼうで、掴み所はなく、いつどこで誰しもがあらゆる方法で傷つけ合い傷つけられる。
『やめろ!!ミサを離せッ!」
『アぁん?何だテメ、』
『ーーくん!助けて、助けて、ーーくん!』
そんな世界に生きる人々はやはり弱く、自分という個だけでは己を保てず、繋がりを求めては群れを成し、他人と触れ合うことで初めて自分を認識し世界にその存在を刻むのだろう。
『ーーオぅ…、っぐっふ…ッ!』
『ヒャヒャッ!威勢がいいのは口だけかァッ!?オラッ、オラァッ!』
『やめて……!やめてよォ!もうやめて!死んじゃう!ーーくんが死んじゃうッ!!』
この弱く儚いシャボン玉かガラス細工のような脆い脆い世界では、あまりにも、
『ヒ……ッ!逃げ、逃げロォッ!!』
『殺されるッ!殺されるッ!!逃げろ!』
『ーーくん、ーーくん。……ごめんね。大丈夫だった?』
あまりにもあまりにも、
『ヒ……ッ、よ、寄るなッ化け物……ッ!たす、誰か、助けてくれええええええッッ!!』
あまりにも、私にとって窮屈だーー。
◆
北条美沙、それが私という個体に与えられた名前である。
私という存在は生まれるして間違った、生まれるべき生命などではない。
簡単に言ってしまえば人造人間、少し専門的に言えばホムンクルス、悪く言うなら化け物だ。
私を造った母にあたる研究者、否研究施設は非人道的な研究と開発を繰り返し行って莫大な資金を得る、世界にとっての癌だった。
その研究こそヒトという生命の個体の培養、増殖、そして改造、それらを紛争地域に戦士として売り出し、また施設自ら国と国同士の戦争を裏で仕組み、世界中の多くの人々の血と生命を金に換えていった。
私という個体は、施設長である母が産んだ子を素体に培養と改造を長きに渡って行い誕生した、巨悪の生み出した最高傑作だった。
私と他の個体との一番の違いは、学習し、記憶し、感情を宿しているということだった。
人の子となんら変わらない感性を持ちながら、施設史上最高傑作の肉体を持つそんな私が憧れたのは、ヒーローだった。
あるいは勇者、仲間と共に巨悪に立ち向かい人々に笑顔と平和を取り戻す英雄に、私という個体は成りたかったのだ。
だが、この世界には悪の怪人や魔王なんてものは存在しない。
人の敵はいつも人だった。
多くの人々を救うためと銘打っては多くの人々を殺し、人々の平和を願っては人々を殺し、人々に笑顔を与えるために私は人々を殺していた。
いつの日だかそんなことを続けているうちに、一度この世界から戦争は無くなった。
悪を討ち亡ぼすために生まれた私が倒すべき悪が、残すところ研究施設のみとなったのだ。
そうして世界から悪は滅び去った。
脅威は消え去り、私という個体だけがその名残となって、およそ時は数百年経った。
壊れた精神を宿したまま決して朽ちぬ私の身体が求め、憧れたのは、
JKだった。
キラキラとした青春のスクールライフ、部活して恋して受験して、ドキドキワクワクのハッピーデイ、施設からふんだくった金でそんなマンガやアニメばかりを観て私という個体は再び起動する--。
……高校生になるためには中学校を卒業せねばならず、ここでのスクールライフは大失敗に終わってしまった。
でも、次の春には私もついに高校生!本格的なミッションはここからだ。
とりあえず現時点での目標は、放課後にクレープを食べることだ。キャラメル味がいいな。
◆
ったく、みんなは良いよな。
世界滅亡だとか、また地球崩壊だー、だとかそんなこと気軽に言えちゃって、古代文明の予言っつーの?あーいうのを特に信じないで気楽に生きてられるんだからよ、何度も世界を救わなきゃならないコッチの身にもなってくれっつーの。
この世界がこうしてクルクル回ってられるのも誰かが回してくれてるから、って考えつかないもんかねえ。
一人で勝手に無限に回転するエネルギーがあってたまるかっての。
……フゥ、やれやれ。
今度は何だ?未来から?それとも宇宙から?それとも秘密結社か何かですか?誰でも何でもいい。
とっとと俺に斬り伏せられて降伏しちゃってくださいよ。
……さーてと、世界、救っちゃいますか。
◆
天草威琉。高校生。帰宅部。彼女ナシ、友達は居るが親友は居ない。
成績は中の中平々凡々のちょっと珍しい名前をしただけのパッとしない男子高生。それが俺。
そんでこっちは『月夜、宵闇穿つ魔剣』。
月の魔力を宿し解放する魔剣であり聖剣、暗い闇を照らしあらゆる脅威を断つ俺の相棒だ。
そういうマンガだかゲームだかに憧れて俺が自作したこの大剣さんは、千の夜の間月夜に照らし続け自作の詠唱を重ねてうっとりしていた内に何やらクソヤバい魔術術式として覚醒してしまい、所有者である俺に力を与えたのだ。
この世界に生きる人々は誰も知りはしない、この世界は何度も滅亡の危機を迎えていることを。
恐怖の大魔王、古代文明の残した滅亡の魔神、超巨大隕石、銀河を統べる権力者からの制裁などなど、数えればキリが無いほど脅威達がこの地球やら宇宙に襲いかかっている。
それらに立ち向かい世界を救ってきたのは他でも無い、この俺と相棒だ。
とはいえ、そう毎日のように脅威が押し寄せるわけでもない。
そうともなれば所詮は日本の高校生。
気づけば次の春にはもう俺も三年生になる。
世界を救ってるんですよーなんて人に言っても信じてもらえるはずもなく、世間は冷たく人当たりは厳しい。
「進路……、どうするかなー……。」
進学してまでやりたいことなど微塵も思いつかないし、就職したところで世界を救うために3日程休ませてくれる企業などあるだろうか。
……かといって世界を救わなきゃ世界は滅びちゃうし、とはいえ働き口が無くては日々の生活に苦悩する。
はー……、ヤダヤダ。なんて可哀想な俺。
次の春までには、何かやること決めておかなくちゃな。
もしこの世界が退屈だとか窮屈だとか、儚いものか何かだと勘違いしてるお馬鹿さんが居たのだとしたら、一度俺のところに来て頭を下げてもらいたいものだ。
◆
『あれ……?オレ、また余計なことしちゃいました?』
……乱れている。
『ふ、ッフン、貴様のような者!私は認めたわけじゃないぞ!……でも、なんだ、その……、あ、ありがと……う。』
『ふう、やれやれ。素直じゃないなぁ。』
乱れている。乱れている。乱れています!
『あれ……?なんだココは……?俺、死んだはずじゃ…?』
『うふふ、そうです。貴方は死にました。ですが、この世界で貴方には勇者として再び立ち上がって欲しいのです!』
違ーーーーーーう!!ダメダメダメです!!乱れています!
この世界は乱れています!!この世界に、異世界からのコーコーセーダンシが流れ込んで来すぎなのです!
何が転生ですか!何が転移ですか!何が違うというのです異端者のクセに!女神達も女神達です!あれだけ居てどいつもこいつもポンコツばかり!書類だの規約だの選定だの何もかも間違えすぎなんです!
すまほ だとか じゃーじ だとか、訳の分からない異物が持ち込まれすぎです!ぴょいぴょい勝手に来すぎです!国の姫騎士達もチョロすぎます!いけません、いけません!乱れています乱れています!
このままではコーコーセーダンシにこの世界は蹂躙され、エルフも魔法使いも一国の皇女だろうと黒髪イエロースキンを孕まされてしまいます!
いけません!いけませんいけません!そうなってはこの世界はお終い、殺しても消滅しないあたり魔族よりもタチが悪い!蘇生するヤツとかも居ますしね!なんなんですか!ちょっとはパワーバランスを考えてくださいよ!チート野郎ばっかですよ!不正ですからね!?逮捕ですよ逮捕!
こうなってしまっては仕方ありません、ワタクシ自らが異世界に赴き、コーコーセーダンシを駆逐せざるを得ません。
これ以上は不要です、それに女神達にもキツイお仕置きが必要だと考えます。
粛清、そう粛清です!ワタクシはこの世界を正しく保つ義務がある!
この大女神ミサミサエル様がこの世界をより正しい方向へ導きましょう!
ははーん、なるほどなるほど……、異世界では寒い気候が終わり、暖かな陽気になる周期があるようですね、其れ即ちコーコーセーダンシが湧いて出るのもココと見ました!
覚悟なさい我が愛しい世界を穢す異端者共……、これ以上、ワタクシの可愛い子供達をハーレムなんかにさせてたまるもんですか!
いざ!
◆
春です。
寒い寒い空気もすっかり優しいぽかぽか陽気に変わり、鳥さんもお花さんも顔を覗かせています。
風が吹けばほんのりと甘い匂いがして、私の髪の毛をチラチラと揺らし、川の水は陽光を反射して煌めきます。
今日から私も高校生!憧れていたハイスクールライフが幕を開けます!もちろん、遅刻なんてしませんしパンも咥えません。ちゃんと歯を磨いてきました。
「えへへ、制服……、制服だあ。」
ふと、お店の窓に映る自分の姿を見て私は思わずニコニコしながらリボンを引っ張ります。
お母さんだかなんだかは数百年前に全部組織ごとぶっ潰したし、以降国への隠蔽工作等諸々はとうに済ませているので、気にするべきはやっぱり制服の着心地です。
ちょっと大きめのサイズにしたせいか、袖が少しだけぶかぶかです。
「中学校では上手くいかなかったけど……、青春がんばるぞーぉ!」
えい、えい、おー!と一人で寂しく掛け声をあげて歩き出し、曲がり角に差し掛かると
「きゃっ……!」
私の目の前、とはいっても私はとっても視力がいいので遥か数百キロメートル先から飛来する爆発物が姿を現しました。
どこから打ち上がったものとかでなく、空中に突然ふわりと現れてこちらに目掛けてぶっ飛んできます。
その間わずか3分と言ったところでしょうか。
「うーーん、青春のジャマです。排除しておきましょう。」
私はキョロキョロと誰も居ないことを確認したのち、クラウチングスタートで標的目掛けて地を駆け跳び跳ねた。
◆
春。花粉が飛び回るクソみてーな季節。
寒いんだか暑いんだかよく分からんハッキリしない気候は、長袖でも半袖でも人を後悔させる罪深き存在。
陽気に当てられてミミズは地より這いあがって地面と熱いキスを交わして一つに重なっている。
今日から三年生、最上級生といえば聞こえはいいが進路の決まってない三年生など今の時代生き残れない。
そう、結局冬休みも春休みもウダウダ考えている内にあっという間に過ぎ去ってしまった。
「はあ、元気ねえ顔をするな俺……」
自分の姿は客観的に見るとこうなのか、と大きなガラスに映る疲れた表情を見て溜め息を二度程吐く。
すっかりくたびれた制服は、左腕のボタンが一つ外れていることにたった今気がついた。
「青春……がんばるぞぉ……、」
まだ、まだ俺も若いのだ。クヨクヨしていてもしょうがない。
せっかくの学生生活の新たなスタート日だ、無理矢理にでも自分を鼓舞せねば、
なんてことをブツクサ考えながら歩き出し、曲がり角に差し掛かると、
「ハァーイッ!そこのキミ、冴えないコーコーセーダンシと見ましタ!よって危険因子と判断し粛清させていただきマース!」
まるで異国の姫のような豪華絢爛華美可憐な乙女が殺意剥き出しで俺の喉笛に喰らい付いてきた。
「ウワーッ!!なになにッ!?見た目に反して攻撃方法が野蛮すぎるッ!」
命の危機を感じた俺は咄嗟に身を翻し、受け身も取らず道路に転がって目の前の魔獣と対峙する。
「ホホーゥ、そうやってさり気なくワタクシの容姿を褒めるワケデスか…、悪い気はしまセン、ですがワタクシはそんなにチョロくはありまセン故、なおいっそアナタのような危険人物は排除せねばなりまセーン……!」
カタコトの日本語で喋る目の前の猛獣は目を光らせこちらを睨みつけた。
成る程、成る程そういうことか、そういうこともあるだろうよ。
「クク、どうやらお嬢さんは俺の"力"をご存知なようだ。どこの国の手練れかは知らんが生憎この力は世界を守る以外に振るうつもりはないのでね、大人しく帰っていただこうか」
周りに人が居ないことを確認し、静かに息を吐きながら俺は『月夜、宵闇穿つ魔剣』を構えた。
現在の時刻は朝、月の加護は受けられぬものの太陽の祝福を浴びて煌めく我が剣の魔力もまた一興、この一撃は世界を照らし、人の闇を撃滅せんーー。
「へ?いや何デスかそれ?アナタ冴えないコーコーセーダンシと違う?」
「……え、あれ?」
あるぇー?
奇妙で異質な沈黙が続いた後、俺の第六感がとんでもない危険を知らせた。
今から約3分後、この地域一帯は爆発と共に消し飛び辺りは炎に包まれる。
原因はおそらく、上空に"何か"がある。
「悪いなお嬢さん、ちょいと用事が出来ちまった。俺の命を狙うのはまた今度にしてくれ!」
「ほぇ?え、あ、は、はあ」
すっとぼけた顔で突っ立っているどこぞのお嬢様を尻目に、俺は剣を構えながら走った。
どこから打ち上げられた兵器とかそういうのじゃない、どこからともなく急に現れたのだ。
それは真っ直ぐにこちらへと直進し、周囲一帯を消し飛ばす威力を持ったミサイルという所だろう。
「ったく……、いいよなミサイルは……!進路が決まってるんだから……ッ!」
直径数百メートルはありそうな巨大な爆発物は音もなく声も上げずひた向きに真っ直ぐ飛んできやがる。
なんかムカつく!遥か上空で塵一つ残さず消し飛ばしてくれる!
「きゃんっ」
「おっと!」
すると曲がり角で一人の女子高生とぶつかってしまった。
真新しい制服から察するに今日が初登校の新入生だろう。
……いやいや!そうじゃない!見られた?のは、もうこの際どうでもいいとして、
標的、邪魔な浮遊物体に気を取られて私はベタにも曲がり角で人と衝突してしまった。
私がしりもちをついて倒れると、ぶつかってしまった相手は優しく手を差し伸べてくれた。
身長は高くやや筋肉質でさっぱりとした髪型の、学生服に身を包んだ男の子だった。
「すまない!キミ、今すぐココから出来るだけ遠くに逃げるんだ!信じられないかもしれないが、もうじきココにミサイルが来る!」
「あの、もしかして青藍高校の三年生……せ、先輩ですか?わ、私そこの新入生で、」
なんだこの娘!いいから逃げろっての!人の話を聞きなさいよバカチンが!
「そうだよそう!三年生!!いいから逃げろ!俺が何とかする!でないと死ぬぞ!」
「え?……へ?ミサイルって死ぬんだ……、ちょっとケガするくらいだと思ってた……。」
ということは、ということはということは、もしかして先輩、私のことを、た、助けようとしてくれてる!?
そんな、死んじゃうかもしれないのに見ず知らずの初対面の私を助けようとしてくれるなんて……、なんて良い人なの……。
なんだこいつ!ヤベエ!!
最近の女子高生ってこんなに頭ふわっふわなの!?
何食って生きてんだよパンケーキか!?まあパンケーキだろうな!
まあ突然剣を構えた上級生にミサイルがどうの言われて混乱するのも仕方ないっちゃ仕方ないか、面倒ごとは嫌いだがしのごの言ってる場合じゃねえ、とりあえず彼女にはこの場は気絶しておいてもらおうか。
ああ、こんなにも優しい彼を私はもしかしたら傷つけてしまうのかもしれない、命を張って守る女の子は弱くなくてはいけない。
なんて繊細な世界なの、だとしたら、私は彼を死なせるわけにはいかない。
優しい彼を助けたい。でも、そのために彼の自尊心を傷つけてしまってはいけない、ここは彼の意識を一時的に奪っておくべきだろう。
そこまで考えて、
そして俺は意識を失った
そして私は意識を失った
「なにをやってるんデスかこいつら。」
とりあえず訳のわからない状況を飲み込むのは諦めて、自分の身と可愛い女の子達を守るべく不遜な爆発物を消し去ってワタクシは一つ大きな溜め息をつく。
ぐぬぬ、流石は異世界。侮れませんね……!
突如として飛来する火力積みの結界など、いつぞ死ぬやもわかりません。
しかし、どうやらコーコーセーダンシの巣食う城があるということは彼らのやり取りから把握しました。
男女構わず入隊できるようですしこれは勿論、ええ、ええ。
「ワタクシもJKとやらになってみましょうか!」
待ってなさいコーコーセーダンシ共、貴様らの天下も今日までだ!
そのためには、この制服とやらは用意した方が良さそうですね……、ああ異世界ご都合パワーはこういう時にホントに便利!
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