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初恋:チョッと大人になった俺

同じクラスに居たことも気付かなかった大人しい女子。

チョッとしたことで、言葉を交わすようになった。

妹レイラは俺を鈍感だというが・・・俺には女子の考えている事は予想もつかない。チョッと大人になった俺達

案の定、高一の3学期は悲惨ひさんだった。

高校生になると試合数が増える。

競技きょうぎスキーの場合はほとんどの試合が1〜3月に集中する。

正月の県予選から始まって、関東大会、インターハイ、国体と大きな試合が連続する。

一月に数回の試合が連続れんぞくするが、試合と事前練習を回ると家にもどひまは無い。

俺は身が軽いから、他県から試合に招待しょうたいされると素直すなおに喜んで飛んでいく。

北海道、青森、秋田、山形・・・北国の試合に妹レイラと二人で出場した。

高校生になると兄貴やおふくろが試合に同行する回数が減る。

手配だけはお袋がしてくれるが、新幹線や飛行機で二人で現地に入るケースが増える。

レイラのレースでは俺がコーチをつとめ、俺の試合ではレイラがコーチだ。

公式レースの場合、男女で試合の日程が違う。

ちょっといそがしいが、お互いに協力すれば相手のコーチ役も無理ではない。

インターハイが終わり、冬季国体に移動した。国体が終わって戻ると2月も終わりだ。

勿論、3学期の登校はほとんど無い、授業を受けたのは数日だ。


スキーでは全国大会に出場して、高一としてはまずまずの成績だった。

中1の時、体の小さな俺は「大人と子供の試合だね」とよくからかわれた。

高校になると3歳の違いは、背丈せたけではあまり変わらない。

しかし、高3の中にはコーチか先生かと思うような、オヤジまがいの選手も居る。


中学ほどではないがやはり一年生にとって、3年生との勝負は厳しい。

特に軽量けいりょうの俺としては辛いものがある。

・・・と言ってもスキーで体重の影響えいきょうが大きいと理解りかいしたのはつい最近だから自慢じまんにはならない。。

「レオ、体重勝負たいじゅうしょうぶと気付かずにたたかっていたの?」とレイラに馬鹿ばかにされた。

「ハイハイ、どうせ俺は物理は苦手にがてです。数学も・・・」

「でもね、レオ!体重が重いほうが早いって事、小学生でも知っているよ!」

「だって、ニュートンさんは重さに関係なく落ちる速さは同じだって・・・」

「違うよ、レオ、斜面をスキーで降りるのだから摩擦まさつを無視しても、力は二方向に分解ぶんかいされて・・・」

紙を取り出し、図を書こうとしたレイラを、俺は静止せいしした。聞いても無駄むだだ。

奴は物理が得意かも知れないが、俺は数学や物理には近寄ちかよりたくないタイプだ。


レイラのように計算してコースを取ってすべるようなことはできない。

俺は体の反応に素直に従う。多少は頭も使うけど・・・。

冬季国体が終わると2月も末になっていた。


久しぶりに学校に行ってみると、案の定、俺は浦島太郎うらしまたろうになっていた。

授業で教科書を開いても、全く話がわからない。開いた事のないページが数ミリの厚さになる。

ヤバイ!来週の試験に間に合うはずが無い。試験範囲も分からない。

3教科以上の単位を落とすと落第らくだいする。俺は青くなった。

ダチからノートを借りるにも試験前になっているから書き写すひまが無い。

試合に行って夜になると教科書を開いていたレイラの姿を思い出し、後悔こうかいするがもう遅い。


放課後ほうかご、担任に呼び出され、たまりにまったプリントを手渡てわたされた。

試験前で部活も休みなので皆、帰りが早い。教室にはだれも残っていない。

ノート借用しゃくようたのもうと思っていたのに気のかない先生だ。

答えの書いていないプリントを山ほど受け取ったって、今更いまさらどうしろというのだ。

担任だったら回答も書いておいてくれ!

置いてきぼりを食らって、静まり返った玄関げんかん上履うわばききをえた。


「小柳君!」

「あ〜びっくりした、山崎、まだ居たのか?」

薄暗うすぐらい玄関でイキナリ声をけられて俺はおどろいた。クラスの山崎ヒマワリである。

ヒマワリという花が持つイメージとはちがい、クラスでもあまり目立たない、静かな女の子だ。

スポーツ関係の話題が多い俺は、部活に熱中する女子じょしとは話があうのでよくしゃべる。

ヒマワリとはあまり話したことが無い。俺だけでなくクラスの男子、だれもがおなじだろう。

「びっくりさせてごめんなさい。これ!」と俺に紙袋ペーパーバッグを押し付けた。

「これって・・・?」声をかけるすきも与えず、ヒマワリは走り去った。

俺はちょっと戸惑とまどって彼女の後ろ姿すがたを見ていたが、紙袋をそのままかばんに放り込んだ。


家に帰り、紙袋をかばんから取り出したが、空腹くうふくを解消するほうが優先ゆうせんだった。

冷蔵庫をあさり、チキンを発見した。電子レンジとたわむれているとレイラが現れた。

「レオ、何これ!」目ざとく、紙袋を発見する。

綺麗きれいな色の紙袋だ、やつの目に付くのは仕方しかたない。

「フン、ホレ・・・女子じょしもらった」チキンをかじりながら答える。

「で・・・中身はなに?」

「未だ見ていない」

「うそ〜!普通、先に開けるよ。チキンをかじる前に・・・」

「だって、腹へって死にそう!」

俺は仕方なく、食べかけのチキンを皿に置き、袋を逆さに振った。

テーブルの上に中身がバラけて飛び出した。


中からは大量のコピー用紙とピンクの包みが転がり出た。

乱暴らんぼうなんだから・・・」といいながら、レイラはコピー用紙を集め、ピンクの包みを俺によこした。

ピンクの包みを開くと中身は小箱に入ったチョコレートだ。

「これやる!」

「レオったら、何を考えているの?」俺はレイラにみらみ付けれられた。

レイラの好物こうぶつのチョコレートが入っていたからやったのに、何を怒られてるんだ俺は・・・?

「レオ、これってバレンタインのプレゼントだよ!鈍感どんかんなんだから・・・。バレンタイン!知ってる?」

「馬鹿にするなよ!俺だってそのくらい知ってるさ、この前、ゲレンデでチョコレートを配ってただろ!」

だいたい、2月はスキーで忙しくて、バレンタインデーを下界げかいごした事がない。

毎年、お前と一緒いっしょに居るだろうが・・・ブツブツ。

「レオ、このコピー見て!すごいよ!」

レイラに言われて、コピーを見ると、授業中のノートのコピーがそろっている。

「あいつ、おれにノートのコピーをくれたんだ。」

すごいね!丁寧ていねいにまとめてあるよ!ここのところなんか・・・」

俺はレイラからコピーをもぎ取るとチョコと一緒いっしょに部屋に逃げ込んだ。


ヒマワリのコピーを見ると、確かに丁寧ていねいに作ってある。

自分のノートをコピーして、蛍光けいこうマーカーでしるしを付け、更に鉛筆えんぴつの書き込みもある。

ノートと教科書のページが一致いっちするように後で、ページも書き込んだらしい。

どうやら、期末試験の範囲が全てそろっているようだ。

「サンキュー、ヒマワリ!」

俺はヒマワリのコピーをありがたく利用させてもらうことにした。


正直なところ、ヒマワリのノートが無ければ留年確実りゅうねんかくじつ、お先、真っ暗だ。

試験前はヒマワリのノート内容を教科書とらし合わせ、確認するので精一杯せいいっぱいだった。

終わってみると、ヒマワリのノートが試験範囲の要点ようてん上手じょうずにまとめてあった事が分かった。

結果は判らないが、とりあえず、試験は終了だ。

ざっと思い返すと、数学がヤバイ、数1、数A共に点数が取れていない。不安だ。

国語は得意科目だと手を抜いたのが災いして古文が危ない。

大体、今回の試験では漢文かんぶんが全範囲になっていた。

3学期になって習った漢文を俺がわかるはずがないのである。

俺にとっては初めて見る漢文だ。手も足もでない。

ヒマワリのノートで一夜漬いちやずけする予定が、睡魔すいまに勝てず・・・完敗かんぱいである。

過ぎた事は仕方ない、そく、気持ちを切り替える事もアスリートの適性条件てきせいじょうけんである。


試験修了の翌日よくじつは1日寝ている予定だった。

俺は早々と電話のベルで起こされた。

一度は無視しようと布団ふとんかぶったのだが執拗しつようにベルが鳴り続ける。

時計を見ると、まだ、11時過ぎ、昼前である。

「ファイ!」俺の声は非常に不機嫌ふきげんだ。

「港町東駅ですが、小柳レイラさんのお宅ですか?」となりの駅から何の用事だ?

「レイラは俺の妹ですが、何か?」定期でも落としたかドジな奴(心の声)

「レイラさんが車内で気分が悪くなられ、駅で保護ほごしています。迎えに来ていただけますか?」

「はい!」俺の眠気ねむけはすっ飛んだ!

お袋にも兄貴にも電話が通じない。とりあえず、むかえに行くことをメールする。


俺はお袋から非常用資金ひじょうようしきんと言われている袋から金を取り出し、ポケットにねじ込んだ。

チャリで駅に向う。この時間だと電車が少ないから近道をチャリで走る方が早く着く。

チャリは駐輪場に置いておけばよい。

俺が息を切らせて駅に着くと、レイラは駅長室のソファーにかされていた。

睡眠不足すいみんぶそくつかれで貧血ひんけつを起こしたらしい。レイラの顔色は真っ白だ、血の気が無い。

電車の中で気分が悪くなり、ホームに下りて座り込んだところを保護ほごされた。

確か、レイラは今日まで期末試験だと言っていた。

昨日は晩御飯ばんごはんにも下りて来ないで、部屋に閉じこもり、勉強していた。

ひょっとすると全く寝ていないかも。


俺は「早く家に帰って休みたい」というレイラをかかえるようにしてささえて駅を出た。

急行停車駅でないので何時も使う駅のようにタクシー乗り場が無い。

「一寸、待っていられるか?」レイラの体重は半分を俺が支えている。

手をはなすとすわり込んでしまいそうだ。

しまった、先にタクシーを停めてから連れ出せば良かった。


高校の制服を着た女の子を若い男が抱えているのだから目立たない方が無理。

遠巻とおまききに様子を伺う、買い物らしき主婦達がいる。しょうがない助けてもらおう。

心を決めて、 見回すと・・・。

「あっ、ヒマワリ!」

「どうしたの?大丈夫、その方は・・・?」

「ワリィ、タクシーをめてくれない」

「ウン」

ヒマワリは駅前のロータリーの先の広い道まで走っていった。

通りかかったタクシーを止め、こちらに誘導ゆうどうしてくれる。

「助かった、ありがとう。」

俺はヒマワリに礼を言い、レイラを車に押し込んだ。

「じゃ!」「気をつけて」


家に 連れ帰ったレイラをベットに座らせ、着替えている間に俺は特性のココアを作った。

「あぁ、美味おいしい」レイラは俺の特性バター入りココアを両手でかかえて飲み干した。

ベットに横になったレイラは間もなく寝息ねいきを立て始めた。

ふと見るとレイラの制服が椅子に置いてある。

何時もは俺が脱ぎ捨てた制服まで俺の部屋に来てハンガーにけているレイラだ。

よほどつらいのだろう。俺は初めてレイラの制服を手に取り、ハンガーに掛けた。

レイラを一人にしておくのも心配だった。

俺は自分用にコーヒーをいれ、レイラの部屋に戻った。

お袋と兄貴には携帯メールで様子を知らせた。

レイラの寝顔を見ているうちに俺もベットに寄りかかって眠り込んでしまったらしい。


「レオ、風邪かぜひくよ、レオったら!」レイラに起こされて気が付くと18時だ。

「どうだ、気分は?」「もう、大丈夫、ゴメン、心配させて!」

「良かった。」

「私、お腹が空いた」

「ハイハイ、お姫様ひめさま、何をお持ちしましょうか?」

「もう、レオったら、自分で作るよ。大丈夫だから!」

俺達はキッチンに下りて、冷蔵庫を開いた。

俺が特性チャーハンを作っている間にレイラがワカメスープを作った。

「ねぇ!これって昼ごはん?夕食?」レイラがたずねた。俺には今日初めての飯だ。

「夕食かな?婆が帰ったら晩御飯ばんごはんを食べよう」


俺のメールを見て、お袋も兄貴も普段より早く帰宅した。

お袋は駅にお礼にって来たらしい。

兄貴は俺が置き去りにしたチャリに乗って帰ってきた。


食事の時にレイラがめずらしくしかられて、いや、注意を受けている。

「レイラ、気をつけないとホームから落ちたりしたら新聞にるぞ!」と兄貴!

「頑張るのは良いけど、食事はキチンと取らないと体に良くないわよ。

特に女性の場合は体調の変化が大きいから」お袋がやんわりと注意する。

「それって、生理のことか?」思わず余計よけいな事を口走った。

「バカ、レオの馬鹿ばか無神経むしんけい!!!」俺はレイラににらみ付けられた。

「レオ、お前、ご婦人方ふじんがたの前でそのような単語を話題にするとヒンシュクをかうぞ!」

兄貴にまで叱責しっせきされる。

「そうね。広い意味ではレオの言う生理で正しいのよ。

大人の女性の場合は一ヶ月の中でホルモンバランスが変わって体調が変化するの。

人間の摂理ね。子供を生むための準備は中学生ぐらいから始まるけど、最初は不安定なのよ。

大人になると安定するのだけど・・・。」

婆がホローした。

いつの間にか俺がしかられている。

まぁ、良いか!レイラより俺の方が叱られれている。

若いレイラは次の日には元気になっていた。

俺達は予定通り、群馬県の選手権に出場するべく移動した。


試合が終わり、登校日に玄関の近くでヒマワリに会った。

「この前はありがとう」

しまった、レイラにバレンタインのお返しを準備するように言われて忘れていた。

群馬で土産を買うつもりだったのに・・・。

「これ、やるよ!」咄嗟とっさに俺が取り出したのは胸ポケットに入っていたボールペンだ。

「書きやすいんだ!これ!」駅前の英語教室で宣伝せんでんもらった物だ。

教室の名前が印刷されている。でも、書きやすいのはうそでない。

「あ、ありがとう」

お礼など入れわれる様なものでは無い・・・言葉をさがしていると・・・。

「小柳、やばいぞ!」とダチに声をけられた。

呼び出しが張り出されたらしい。皆と走って、掲示けいじを見に行った。

「以下のもの本日、H3−1教室に13時に集合する事」

と書かれた下に名前が並ぶ。俺達のクラスでは8名の代表者の名前が書かれている。

俺の名前があることをしっかり、確認し、近くにヒマワリの名前が並ぶのを見つけた。

おどろいた。何でヒマワリの名前があるんだ?!?!どうしたんだ?

見回すと、ヒマワリが少しはなれたところで一人、うつむいている。

声を掛けようか一寸ちょっとだけ迷ったが、声を掛ければかえって注目をびると考え直した。


いずれにしても呼び出された者は基準以下の赤点があるということだ。

単位の取り直しか、補講か?追試か?最悪の場合は留年りゅうねん落第らくだい)である。

すっかり、ブルーになった俺は食欲しょくよくも無くなった。

学校の食堂でラーメンと焼肉定食を食べて13時の運命うんめいの時を待った。

補足説明ほそくせつめい:食欲が無いから何時いつもの大盛を注文していない)


すっかりブルーにまった俺たちは卒業して使われなくなった3年の教室に集合した。

ヒマワリが一番後ろのすみの席に座っている。俺は一つ席を空けて同じ最後列に座った。

学年主任と教頭、全クラスの担任、学科担当の教師が全員集合した。

教頭が今年の一年生は張り出された人数が多いとなげいている。

例年よりも出題の難易度なんいどが高かったのか?ゆとり教育で学力が低下しているのか・・・?

教科毎にレポート、補講ほこう追試ついし最履修さいりしゅうと試験結果により指示があると説明された。

つまり、補講としておまけの授業を受ける。追試としてもう一度、試験を受けさせてくれる。

最高の特典として、来年、もう一年間の授業が受けられる。と言う得点が俺達に与えられる。


「細かい話は後で聞くから、早く、結果を教えてくれ!」

俺達は同じ思いで長々と続く説明を聞かされた。


そして、一人ずつ、封筒ふうとう手渡てわたされる。

ゲゲッ!やっぱり。最悪さいあくだ。

数1、数A、古文と3教科が封筒の中から出てきた。

落第らくだいするかも・・・!?血の気が引くのがわかる。

俺は教員のコメントを一つずつ読み始めた。

手元を本やノートでかくして読んでいるやつも多いが、気にした事ではない。

俺は堂々と資料と回答用紙を広げた。


まず、古文である。

教師のコメントらんに一年を通して古文は比較的理解ひかくてきりかいできているが漢文かんぶんが全くできていない。

課題かだい提出ていしゅつし、追試を受けるように書かれている。

だいたい、漢文かんぶんは3学期に初めて習っているのに殺生せっしょうである。

万一、一度も授業を受けなかった俺が満点を取ったら先生が困るのではないか?

待てよ!この文章を読む限りまだ、単位を落としたわけではない。

追試の結果で決まるわけだ。


そして、数学はダブルである。

数1は補講ほこうと追試。数Aは課題の提出と追試である。

よく見ると、数学の補講は今日から3日間。

今日からだって!教科書も持って来ていない。

明日、明後日と試験休みを返上して午前中9時から12時半まで補講があり、午後は自習である。

3教科とも試験は終業式の前日、うそだろう!


3学期なので一年間の集約として成績が出されている。

全教科が審査対象しんさとなるのだが、一科目だけ引っかかったやつは何人いるのだ?

最多では5科目で赤点を取った、豪傑ごうけつが2人いると説明があった。

今までの先輩方も、5科目で赤点を取って、追試で合格した前例がないという。

数学の補講と国語の補講があるが、両方落とした奴は、好きなほうに出れば良い。

早い話が一方はあきらめて来年、さいチャレンジしろと言う事か!


3科目全てに本気で取り組むべきか?一科目を捨てるべきかなやましい。

二兎にとを追うなということわざがあるのに、三兎さんとを追って大丈夫なのか???

試合の場合でも条件が悪いと回転競技スラロームてて、大回転ジャイアントスラロームだけにける事もある。


数学の補講を受けに俺は教室を異動いどうした。

振り返るとヒマワリが後ろから付いてくる。

「お前も数学を落としたのか?」

「うん」

「お前のノート、良くまとめてあったのに・・・。」

駄目だめなの数学、3学期は必死でノートを書いたから少し、点数があったけど・・・」


普段なら直ぐに眠くなる数学の補習を俺は本気で聞いた。

午前中に数1を受けた午後は自習としょうして先生に数Aを聞きに言った。

数1の連立方程式はかんの良い俺は何とかなる。

参ったのは3学期に習ったという三角関数だ。

一度だけ授業に出たが何の話をしているのか全く理解りかいができなかった。

試験が終わってから補講を受けて、やっと少し判った。


二日間の自習でほぼ、数Aの課題はかなり進んだ。

明日までにノートを整理せいりして、分からないところを明日、質問しよう。

ヒマワリも丁寧ていねいにノートをまとめている。

「チョッと貸して!」勇次が声をかけた。

「イヤッ!」珍しく、大きな声を上げたヒマワリの方を皆が振り返った。

筆記用具を借りようとした勇次がおどろいている。

「何だよ!」「ゴメン、こっちを使って!」ヒマワリは決まり悪そうに別の筆記用具を渡した。

「このボールペン、借りちゃいけなかった?」

「ウン、チョッと大事にしていたから・・・」

「だって、英語スクールでくれる只のボールペンだろ!」

「書きやすいから気に入っているの・・・」


もしやと振り向くと、例のボールペンだ。

俺は身がすくむ思いだ。無料で配っている宣伝のボールペンなのに・・・。

俺が、ヒマワリに咄嗟とっさに渡したボールペンを彼女は大切にしている。

女って不思議だ、たかがボールペンを大事にするなんて、俺はどうすればいいんだ。


俺は家に帰り、事の次第しだいをレイラに説明した。

「レオ、最低!彼女の気持ちも考えずにヒドイ!許せない」

レイラはさげすむむような目で俺をにらみつけた。

間の悪い事にお袋が帰ってきた。

「あら、どうしたの喧嘩けんかでもしているの?」

「レオったらひどいの!女心をもてあそんで・・・」

「おい、もてあそぶは無いだろ!」

・・・俺は久しぶりに母親に自分の悪事あくじ白状はくじょうする羽目はめになる。


俺の話を聞いた婆は俺にたずねた。

「レオはどうすれば良いと思うの?」

「プレゼントを用意してボールペンと取り替えてもらうかなぁ」

「プレゼントを準備するのは良いけど、取り替えては相手を傷つけると思うわよ。

貴方から貰ったボールペンを大切に使ってくれるのでしょ」

ボールペンと言われるたびに俺は身がちぢむ思いだ。

「もしや、レオ。そのヒマワリさんってレイラがたおれた時に手を貸してくれたおじょうさん?」

「ウン、そうだよ」

いやだ!レオ、どうして私に先に言ってくれないの!」レイラがり込んだ。

「先にって、お前は会っているじゃん。俺、ヒマワリって呼んでいたよ!」

「だって、あの時は気分が悪くて家に帰ることしか考えられなくて!

私もお礼しなきゃ!・・・ねぇ!私にプレゼントを選ばせて!

私もお友達になりたい。家におまねきして良いでしょ!

私、レオとまとめて勉強を手伝ってあげる。兄貴も協力してくれると思うよ!」

レイラが一人で計画をまくし立てる。

「私もレイラがお世話になったお嬢さんにお礼が言いたいけど・・・、

レオがどうするかを決めなさい。相手のお嬢さんの気持ちを良く考えてね!

勿論もちろん、ヒマワリさんが来てくれるなら歓迎かんげいするわ」

婆がレイラを静止するように引き取った。


その夜、兄貴からも家庭教師を引き受けるから、彼女を連れてこないかと言われた。

俺は取りあえず、兄貴が家庭教師をやってくれるから、勉強しに来ないかとヒマワリをさそった。

お互いに背に腹は変えられない状況だ。

ヒマワリはチョッと考えて「ご迷惑めいわくで、無かったら・・・」と小さい声で言った。

俺は明日の土曜日に駅まで迎えに行く事を約束した。彼女は自転車で来るという。


帰りにレイラと待ち合わせてプレゼントを選ぶ。

レイラは小さなガラス細工ざいくの宝石箱を選んだ。

オルゴールが仕込んである。曲は「星に願いを」である。

レイラはラッピングにも注文をつけている。


土曜日の朝、俺は隣町となりまちまでヒマワリをむかえに行った。

港町東駅に5分前に着くと、ヒマワリはすでに来ていた。

俺は後ろから付いてくるヒマワリを振り返りながら家まで案内した。


家族が皆で出てきたら内気なヒマワリがおどろくくからと俺は家族を説得した。

家族も気を使って、兄貴が一人で玄関を開けて出迎えてくれた。

俺はヒマワリをお袋の書斎しょさいに案内して兄貴に勉強を教わった。

食事の時に皆を紹介すれば良い。

飲み物は缶のジュースを冷蔵庫から運んだ。


兄貴は俺よりもヒマワリにレベルを合わせて丁寧ていねいに説明していた。

授業に出ていないから判らないという俺の場合は説明すれば何とかなる。

真面目に授業を受けて、ノートを丁寧にとっているヒマワリである。

それで判らないのは理屈りくつを考えるのが苦手で数学に対する拒否反応きょひはんのうが出ているのだ。

兄貴は数字を書き連ねるのではなく、冗談じょうだんや雑談を混ぜて公式の利用のやりかたを説明した。

公式に数字を当てはめる事だけをおぼえようとすると、何がなんだか判らなくなる。

よく使う公式を例に取り上げて、ユックリ丁寧に繰り返し説明してくれた。

本当ならばレイラも応援おうえんに呼べば良いのだが、まさか妹に教わるのでは外聞がいぶんが悪い。


あっという間に時間が過ぎる。

「お昼にしようか?」兄貴に言われるまで、俺もヒマワリも夢中で数学に取り組んでいた。

リビングでは、普段は口数が少ない大人しいヒマワリが、初対面のお袋にきちんと挨拶あいさつをしている。さすが女子だ。

「いらっしゃい!」

「お邪魔おじゃましています。」

「どう、勉強は順調ですか?」

「はい、お陰さまで・・・」


「こんにちは!」レイラに声をかけられ、ヒマワリが固まった。

びっくりして、目をまるくしている。

「私、帰ります」突然とつぜん、ヒマワリが俺にささやいた。

「どうしたの、急に?」「だって、お邪魔じゃまだから・・・」

うつむいていて涙ぐむ、ヒマワリ!どうしたんだ?俺はどうしたら良いんだ?


そんな事は気付かずに婆がヒマワリに話しかける。

「ヒマワリさん、先日は娘のレイラが助けていただいて・・・」

「えっ?」

「あら、紹介しょうかいしていなかったの?」

「こっちがレオの妹のレイラです。妹と言っても同い年だけどね。」

「ヒマワリさん、兄のレオがお世話になっています。

ごめんね。にぶくて、気がきかない兄で・・・」

硬くなっていたヒマワリの顔が少しほころんだ。

いやだ!私。レイラさんのこと、レオさんの彼女かと思って・・・」

「えっ!ヤダぁ〜!私、レオの彼女に間違まちがわれたの!」

二人で声をげて笑っている。


食事を食べながら、追試対策ついしたいさくが話題になるのでは消化に悪い。

しかし、俺もヒマワリも切羽詰せっぱつまっている。今日のところは仕方しかたあるまい。

ヒマワリが、家庭科でレポート提出と聞いてレイラがおどろいた。

「だって、レオがいただいたチョコレート、手作りでしょ!」

「私、お菓子やお料理を作るのは大好きだけど、消化酵素しょうかこうそとか言われると・・・」

「そう、消化酵素って名前が長くておぼえるの大変よね!」

「実習も作品提出もできているからレポートだけ出せば良いって言われました。」

「私、手伝てつだうわ!」

「本当?教えてくださる?」

レイラとすっかり話がはずんでいる。


「僕の生徒さんたち、午後の授業を始めるよ!」

兄貴にうながされて、俺とヒマワリは勉強を再会した。

夕方までに、一通り、数1も数Aも今回の課題のポイントは見直しができた。

レイラはヒマワリと明日、家庭のレポートを書こうと相談したらしい。

俺は自転車でヒマワリを送る。

彼女の家は隣の駅の直ぐ近くらしい。

「ありがとう、この辺で大丈夫です。」

ヒマワリは駅の近くで自転車を止めた。

「あの、これ!」俺はレイラがえらんだプレゼントを手渡す。

「開けてみてくれる」ヒマワリはそっと、包みを開き、ガラスの小箱をじっと見つめる。

「何がいいか判らなくって妹に選んでもらったんだ」俺は言わなくても良い事をぺらぺらしゃべった。

「妹もお礼がしたいからって!俺とレイラから君に!」

「でも、オルゴールは俺の好きな曲なんだ」ヒマワリは何も言わずに下を向く。

「気に入らなかった?ゴメン、趣味しゅみがわからなくて・・・」ヒマワリのひとみからなみだがこぼれる。

俺はあせった。何か悪い事を言ってしまったのだろうか?

レイラに良く無神経とか鈍感どんかんとか言われるが、気付かずに言った言葉で彼女を傷つけたのか?

ヒマワリが何か言ったが声が小さくて聞こえない。

「えっ?なんて言ったの?」

うれしいって言ったの?すご〜く、うれしい。ありがとう。大事にする!」

俺はヒマワリの笑顔を見て、チョッとあたたかい気持ちになった。










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