双子《ツインズ》:二分の一の青春
俺たちはそれぞれの学校で普通の中学生になった。
ごく当たり前に過ごしてきた中学時代に俺達が経験した事は・・・。鬼婆のサバイバルキャンプなどを紹介しよう。
俺が中学生になるとレレイラも中学生になった。
俺達はごく普通の中学高校時代を過ごした。
・・・と思っていたが、そうでもないらしい。
俺は中学校に入るとサッカーへの夢を捨てた。最初の挫折だった。
「レオ、本当に良いの、サッカーやめちゃうの?」レイラは気付いていた。
「だって、俺のシュートが婆に止められたんだぜ!」
「だって、ママも昔、サッカーやってんだよ、キーパーだって」
「俺にもプライドはある!」ずたずたになった俺のプライド。
レイラの目が潤む。泣きたいのはこっちだ!
今になって思えば、小学生の俺はなんて未熟だったのか?
少年チームで観客(父母)に騒がれた位で有頂天になって恥ずかしい。
ユースからのスカウトだって夢じゃないと思うほど世間知らず。
今おもえば婆に目を覚まされた(叩き起された)ってところだろう。
いいさ、サッカーは楽しめれば・・・。
スポーツをやるからには「勝利」が目的、というのが俺の基準だった。
俺の中でサッカーは「楽しむ」ためのスポーツに変わった。
中学生になったからといって、勉強が好きになるわけはない。
しかし、学校は大好きだ。登校拒否をする奴の気持ちが判らなかった。
「俺さぁ、勉強がなかったら学校って最高だと思うよ」
飯を食いながら、つい、うっかり口にした本音。
箸を止めたレイラの冷たい視線。
中学になるとクラスが増えて俺には沢山の友達ができた。
毎日が楽しくて仕方ない。
「明日は早く家をでるよ。朝、グランドでサッカーやるんだ」
「レオって、遊んでばっかり!大丈夫なの勉強は?」
婆は何も言わないのに、レイラがうるさい。
ふと気が付けばレイラがでかくなっている。身長も体重も抜かれた。
相変わらず、チビで身の軽い俺。最近は婆よりも口うるさい!
妹に見下ろされてたまるか!俺はセッセと牛乳を飲んだ。
ほんの僅かだが奴の胸の辺りも膨らんで見える。
俺達が中学生になると婆は羽を伸ばし、安心して遅くまで仕事に没頭した。
腹が減ると、我慢ができない奴が飯を作る。自然の法則だ。
我が家一、大食らいの兄貴が飯を作った。
女のレイラは全く、料理に興味が無い。大丈夫か?
嫁に行ったらどうするんだ!気をもむのは俺だけだ。
兄貴も婆もそんなレイラを全く気にしていない。勿論、本人も・・・。
俺達は今話題の『ゆとり教育』を受けた年代だ。
土日が休み。授業時間が少ない。俺は最高の中学・高校生活を送った。
保護者である婆は「単価の高い授業料を納めた生徒達、学校のお得意さま」という。
「お前達、浪人するなよ、教科書が変わると入試は厳しいぞ!」
入試を乗り越えた兄貴には脅されるが、俺には実感がない。
私立の中学は受験がある。受験して入ってきた外部進学組。
エスカレータの俺達は内部進学組。学力差があるのは当然だ。
中学では授業の進行速度も加速し、間違いなく落ちこぼれる予感が・・・。
婆はバリバリの技術者らしい。
仕事の話をさせると、目を輝かせて訳の判らない呪文を唱える。
俺はやばい話題から遠ざけたい場合を省けば、婆に仕事の話をさせない。
考えてみれば、兄貴もレイラも数学が得意だ。
俺は考える事が嫌いだ。数学は直感で答えを書く。
やっぱり、俺は我家の異端児なのか?
婆は女だてらにバイクに乗る。マシンを触ると大人しい。
ガレージにはスキー送迎用の車と一緒に数台のバイクが並ぶ。
夜中にガレージで音がするのでのぞくと・・・。
エンジンオイルの交換!エンジンプラグを磨く!バイクチェーンの調整!
工具を片手に油に汚れたつなぎ姿で子供の様に目を輝かせた婆を見る。
俺はガレージを「魔物の住む巣窟」と呼んだ。
感染力の強い婆のウィルスは兄貴にも感染し奴も魔物となった。
中学生になったレイラが魔の巣窟に出入りしていると知り、俺は愕然とした。
帰宅部のレイラは早く家に帰る。
私服に着替えて、俺の待つスイミングクラブに現れる。
放課後タイムを有効活用しに学校に通う俺は毎日がサッカー、テニス、バスケと忙しい。
当然、水泳クラブには学校から直行して汗を流す。
レイラは帰宅後の数時間で兄貴から洗脳されたらしい。
家に俺が居ないので寂しかったのだろう。
恐ろしい事にウィルスはレイラにも感染した。
兄貴は16歳でバイクの免許を取った。
学校では禁止だが、婆が取らせた。
理由は「大きくなった兄貴を後ろに乗せると重たい。」だった。
その代わり、婆は兄貴に「免許の事は誰にも知られるな!」と命じた。
自分が同行する時以外の単独走行を許さなかった。
兄貴は親友、教師にバイク免許の事は高校卒業まで隠しとおした。
俺も早く免許が欲しい。早く16歳になりたい。
休みには兄貴と婆の後ろに俺達が積まれてツーリングに出かける。
俺はバイクに乗ると眠くなる。バイクのエンジン音が眠気を誘う。
婆は俺やレイラが体内に居る時期もバイク通勤した兵だ。
「普通、妊婦がバイクには乗らないだろう!」と尋ねたことがある。
「悪阻が酷くて、電車に乗れなかったから・・・」フ〜ン!!
「何時まで乗っていたの?」
「兄貴の時は6ヶ月の終わりだけど、君達の時は5ヶ月!」
「気を使ってくれたんだ。俺達、双子だから!」
「いんや、お腹がタンクにつかえてハンドルに手が届かなくなったから・・・」
「バイクに乗るならスキーもやったの?」
「い〜や、スキー靴が履けなかった・・・お腹が邪魔で・・・」
冗談の応酬、楽しい家族と思うだろうが、お互いに真面目に会話している(念のため)
普通ではあり得ないが俺がバイクに乗ると眠くなる理由だ。胎教ってやつだ!
小さい時はタンデム用に婆が手作りしたカンガルー袋で背負われバイクに積まれた。
袋に入れてタンデムシート(後部座席)に乗せ、運転者にベルトで固定する仕組みだ。
アウトドアが好きな婆は俺達をキャンプに連れ出した。
キャンプといっても便利な機材を持ち込む、ビップなキャンプではない。
婆は俺達にサバイバル教育を行った。
石を積み上げて竈をつくる方法。牛乳パックで薪に火を移すコツ。
飯盒飯の炊き方。山菜の名前、見分け方も覚えた。
渓流釣りで釣った魚を始末し、竹串に差して塩焼きにする方法も。
家では料理をしないレイラもサバイバルナイフを握り調理に加わる。
俺達が中学生になる頃には設営も飯炊きも一人前になっていた。
レイラがキャンプ場で俺を頼るのは夜のトイレだ。
「レオ、トイレに行く時は一緒に行こうね」と言われ、俺は付き合った。
レイラは婆や兄貴でなく、俺に声をかけた。
婆も自分が女だからトイレとシャワーなど設備のあるキャンプ場を選んだ。
大きくなってもレイラは暗いトイレは怖かったらしい。俺は喜んで見張りに立った。
夏休みは兄が参加しないニュージランドキャンプに二人で参加した。
婆が遠征の費用を出す条件は、夏休の課題を終わらせる事。
当たり前の事だが、これが厳しい。
一日のトレーニングが終わり、道具の手入れが終わるとクタクタだ。
俺達は大人たちがビール片手に雑談するのを横目で見ながら課題を開く。
勉強道具を開いた途端に猛烈な眠気が襲ってくる。「明日やろう!」
俺達や数人の学生は8月をレーシングキャンプで過ごす。
社会人は1週間から10日間の参加だ。
練習がオフの日はスタッフが観光地を案内する。
ニュージーランドは火山があり、温泉がある。
日本と同じような地形だが、緑がずっと多く、人が少ない。
道路を羊の群れが横断すると、車は停まって羊の群れを見守る。
温泉では水着を着用する。外国では普通の話だ。
どうも、裸の付き合いは日本の温泉だけみたいだ。温水プールもある。
俺とレイラは愚かな大人を相手に水泳で勝負を挑んだ。
小学生時代から水泳を続けている成果で全種目、何でも来いだ。
アスリートは競争好き。俺達は何度もステーキにありついた。
ニュージーランドのキャンプでは色々な選手に知り合った。
俺達より上手な選手も多かったが、そうでない人も参加していた。
コーチよりも年上の小父さんにコースラインを相談されたことがある。
話をしていて、小父さんの息子の方が俺より年上だと知った。
でも、聞かれれば俺は自分の考えと答えた。
スポーツの世界では年齢は関係ない。技量の序列だけだ。
俺達は小学生の頃から一人前の選手として扱われていた事に気が付いた。
年下の俺に丁寧な言葉でたずねる年長者に俺は敬語を使うように気をつけた。
冬になると俺たちはスキーシーズンに入る。
俺達の場合、学校所在県が違うので俺とレイラは別の県代表だ。
大きな大会になると、俺とレイラは所属県が違うから兄妹と知られない。
小学生時代とは変わり、男子と女子で試合日程が違うことも幸いだった。
二分の一だった俺もレイラも、夫々が一人の選手だった。俺は全国に友達ができた。
俺の学校もレイラの学校も中学と高校が合体している。
中高一貫教育と呼ばれている仕組みらしい。
俺達は中学の卒業式にはかろうじて出席できたが卒業礼拝は失礼した。
スキーの試合と重なったためだ。俺は担任の努力で高等部へと進学した。