プロローグ
「お前、ちょろいな」と、優しい笑顔で彼は言う――
ジリジリと鉄板の上で焼かれているような、8月上旬。
私コト、架野みつき(26歳・独身)は、悩んでいた。
何をどう悩んでいるかと言うと、言葉では表せない。
言葉で表現できないような、何となくのような、そんなモヤモヤがここ2週間続いている。
たぶん、原因は2週間前の合コンだ――
いわゆる、“四季報『平均年収が高い』500社ランキング”の上位で目にする、エリート商社マン達だった。
私含めて、パッとする『美人! 可愛い!』と言われるような女の子がいなかった事にも原因があると思う。
男性陣の熱意も感じられず(いや、ありすぎても怖いんだが)、女性陣も女性陣で4人全員でトイレに立つという最低な行為をしてしまっていたのだ。普段は絶対にしないのに、楽しくなさすぎて、耐えられなかった。
もちろん連絡先を聞かれる事もなく、一次会で『みんな』そそくさと帰っていった。
この合コンを経て――女の子扱いされない現状に、何かヤキモキしていたのだった。
正直、男女グループや合コン、デートでは必ずと言っていいほど、女の子扱いしてくれたり、気を配ってくれる男子達がいた。背も低くて、『うさぎぽい! リスぽい!』と、なんと可愛らしい小動物に例えられていたのに。なのに今回は――
歳をとるごとに、自信とか希望とか、可愛いとか、そういうキラキラしている物の分量がどんどん減っていっている気がするのだ。
女のとしての自信を『こんな合コン』で消耗したり――
青春時代にあったキラキラはどこに置いてきてしまったのだろう。カフェの一角で大きなため息をつき、冷房がガンガン効いている店内でカフェラテをすする。
「私も、もう……歳なのかな」
小学生の頃、中学生の頃、高校生の頃――私は、早く大人になりたいとずっと思っていた。
はやく大人になって、噂や干渉が飛び交う田舎町から早く出ていきたかった。その念願が叶って、大学進学と言う進路を手に入れ、合法的に町から出ていった。
東京での暮らしは、刺激的で、色んな人たちに会え、すごく仲がいいグループも手に入れた。25歳までは、忙しくも楽しく、せわしない東京が好きだった。
でも今は、ただただ消耗していくような日常。自分が消耗品になったような感覚に囚われる。
小学校から友達のグループLINEに“13日になおやの家でBBQするよー! みんないつ実家に来る?”と紗南からのメッセージが浮かび上がる。それに即返信で答える佳緒理のメッセージ。
“もう実家! 昨日、お祭りで和史に会って、子共に色々買ってくれたよ!”
『和史』その名前を見て、ふと懐かしい気持ちが脳内を掠める。
特にこれと言った彼との思い出はなかったが、なんだかんだ幼稚園から中学まで一緒の時間を過ごしたクラスメイトだった。
学校行事で一緒に出し物をしたり、何回も隣の席になったぐらいの関係だ。
小学生の時から猿山のボスって感じで、暴言もよくはいていた。でもよくよく話すと、変な所で気配り上手だったり、甘いものが好きだったりと知らない所が発見できて、彼と話すのが楽しかった思い出がある。
そんな懐かしい田舎町での、青春時代に想いを巡らせメッセージを返す。
“11日に帰るよー! BBQ!BBQ! 私も和史に会いたい!”
何気ない、少し本音を含んだメッセージに反応する友人達。そんなやりとりを見ていて、口角が少し上がる。
“昔から和史好きだもんね! なんとなく気づいていた。笑 応援するよ~!”
冗談交じりのやりとりに、私も冗談交じりで
“じゃあ、彼女いるか聞いておいてー!笑”と返信をし、カフェラテを飲みほす。
さっき飲んだときよりも、少し甘く感じた。