↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

ヒロイン(仮)にお任せします

作者: 秋桜すの
掲載日:2015/03/11


10年ぶりに幼稚園の頃住んでいた町に帰ってきたアナタ。

高校生になったアナタは、恋咲学園に入学。

そこで再会したのは、カッコよく成長した5人の幼馴染。

同じ時間を過ごすうちに惹かれあっていくアナタと彼ら。

昔、四葉のクローバーのペンダントをくれたのは誰?

止まっていたアナタの恋が今動き出す・・・。


               乙女ゲーム 「何度でも君に恋をする」より抜粋











入学式の朝、今野麻衣は恋咲学園の正門を速足でくぐった。

長いストレートの黒髪がサラサラと風になびく。


目立つように貼り出ていたクラス分けの用紙の前で、他の新入生と同じように麻衣も足を止めた。



・・・クラスは、1年A組か。



麻衣は自分のクラス、そしてクラスメイトの名前を確認すると、新入生がゾロゾロと移動していく体育館とは反対の方向に視線を向けた。

朝登校したら、入学式のため体育館に移動することは事前に言われていたため、

麻衣が視線を向けている方向には誰もいない。

麻衣の位置からは見えないが、視線のずっと先、・・・校舎裏に行くと綺麗に咲いている桜の木があるはずだ。



もしここが本当に乙女ゲームの世界なら、さっそく出会いイベントがある・・・はず。


確認したい。


だけど・・・。

このタイミングで桜の木に近づくのは危険すぎる。

イベントに巻き込まれる恐れがある。



麻衣は視線を前に戻すと、体育館でも桜の木の方向でもなく、そのまままっすぐと校舎内に入って行った。






1年A組の教室に入ると、当然のごとく誰もいなかった。

教室を歩く麻衣の足音だけが響く。


麻衣は、窓際までくると外から見えないように身をかがめ、慎重に外をのぞいた。

桜の木の根元に男子生徒が一人座っているのが見える。

寝ているようで動く気配はない。

赤い髪と着崩した制服がよく似合っている。


1年A組は2階にあるため、騒がなければ男子生徒の方から麻衣に気づくことはないだろう。

ただし、この位置だと下での会話はまったく聞こえない。



窓を開ければ、話し声も聞こえるだろうけど。

下手に音をたてて気づかれたら怖いし。

・・・本当は、桜の木の近くで隠れて見れたらよかったんだけど。



そうすれば、より詳しくイベント内容を観察することができただろう。

だが、近づけば近づくほど、そのイベントに巻き込まれる可能性も高くなる。

大きな危険は冒せない。






麻衣は、チラリと教室内の時計に視線を向けた。

もうすぐ、入学式が始まる。

入学式に遅刻するわけにはいかない。

そんな目立つ行動、絶対にとるわけにはいかない。



来ないかもしれない・・・。



半分諦めかけたその時、一人の女子生徒が桜の木に向かって歩いてきた。

ウェーブのかかった薄茶色の長い髪がフワフワとゆれている。

桜の花に気を取られているのか、視線は上を向き歩き方がおぼつかない。



ぶつかるっ!



目を見開いた麻衣の視線の先で、先ほどの女子生徒が桜の木の下にいた男子生徒につまずいて見事に転んだ。


目覚めた男子生徒と女子生徒が何か言い合っているのがわかる。


「・・・・・・っ!!」

麻衣は、とっさに両手で口を押さえ悲鳴をこらえた。



間違いない。ここは本当に乙女ゲームの世界だ。


今、桜の木の下でおこった出来事。

これは攻略対象である、一匹オオカミ系不良少年赤岩龍樹との出会いイベントだ!!






麻衣はいわゆる転生者である。


麻衣がこの世界が乙女ゲームの世界かもしれない、と疑ったのは5歳のとき。

母親から、大事な話があるの。と言われたときだ。


なぜそのタイミングだったのかはわからない。

だが、強烈は乙女ゲームオタクだった転生前の記憶が一気に頭の中に流れ込んできて、幼かった自分は知恵熱で寝込んでしまった。


この世界は以前自分が夢中になった乙女ゲームの世界かもしれない。

そう思った。

だが、絶対の確証はなかった。


そもそもこのゲームは、ヒロインが恋咲学園に入学する日からスタートする。

攻略対象者が幼馴染ということもあって、子供時代のエピソードがあるにはあるのだが、プロローグ的な感じであまり詳しくゲーム内では出てこない。

精々、ストーリーのキーとなる四葉のクローバーのペンダントを渡すシーンくらいだ。


ゲームスタート前の現段階では、ゲーム世界と現実世界の共通項を見つけるのが難しすぎる。

なんといっても情報が少ない。


そのため、5歳だった自分には、ここが乙女ゲームの世界なのかどうか自信がなかった。


高校生になり。

恋咲学園に入学して。

赤岩との出会いイベントを見て。


やっと確信した。


そして実感した。


「本当に、ここは、乙女ゲーム『君恋』の世界なんだ」


桜の木の下で出会いイベントをこなしているヒロインであろう人物。


「とりあえず、ヒロイン(仮)と呼ばせてもらおう」


ゲームではヒロインは、赤岩との言い争いのせいで、入学式に大遅刻。


同じく攻略対象者である、俺様何様生徒会長様の黒田将人に注意を受ける。

これが黒田との出会いイベントになる。


「このままいくと、ヒロイン(仮)は、赤岩と黒田の出会いイベントはクリアするってことだね」


残りの攻略対象者である幼馴染は、あと3人。


「絶対に巻き込まれないようにしないと」


麻衣は、祈るように胸元をギュッと握りしめた。


桜の木の下では、まだ赤岩とヒロイン(仮)のやり取りが続いている。

今のうちに入学式会場に向かわないと、黒田との出会いイベントにぶつかってしまいかもしれない。

それは絶対に避けたい。


麻衣はそっと窓際から離れた。


その時。



「そこで何をしている」



教室の出入り口から声が聞こえた。






あせった麻衣が振り向くと、そこには攻略対象者であるクール系クラスメイト青木亮がたっていた。


思わず、安堵のため息をもらす。



よ、よかった~。

腹黒王子様系副生徒会長や、ナンパ系生徒会会計じゃなくって。



青木とは、クラスメイトだ。

朝のクラス分けの表で確認をとった。

そのため、どうしても青木との出会いは避けられない。

本来なら、入学式が終わった後の教室が出会いイベントの場となるのだが、細かいことだ。



他の攻略対象者と出会うよりずっといい。



ちなみに、青木以外の攻略対象者は一つ年上の先輩になる。

青木だけ同学年だ。


つまり、青木以外の攻略対象者は、出会わずに終わらせることができる可能性が高いということだ。



生徒会に所属している先輩や、あまり学校にこない不良先輩なんて、普通に学校生活を送っていれば接点なんてないもんね。



「入学式が始まってしまうが」


「そうだ、入学式!急いで体育館にいかなくちゃ!」


麻衣の言葉に青木がため息をつく。


「新入生は体育館に集合と言ってあるのに、毎年教室に行ってしまう生徒がいるから、と先生に言われて様子を見に来れば、本当にいるとはな」


「ごめんなさい・・・」


「とにかく、急ぐぞ」


青木の後に慌てて麻衣はついて行った。


大丈夫、自分はこの乙女ゲームの世界で上手くやれる。

何度も心の中で自分に言い聞かせながら。






____________________






「一人でどうしたんだ?」

「・・・・・青木君」


放課後の教室から裏庭を見下ろしていると、後ろから声をかけられた。

裏庭では、ヒロイン(仮)と攻略対象者(青木亮を除く)が会話をしている。

今は、窓を開けているので、甲高いヒロイン(仮)の声がよく響く。


「すげーな、『私のために争わないで』って台詞本当にいう奴いるんだな」

青木は、麻衣の隣にくると面白そうに、下を眺めた。


ヒロイン(仮)と攻略対象者である、俺様生徒会長、腹黒副会長、ナンパ会計、一匹狼不良が騒いでいる。


「・・・あの騒ぎに青木くんが加われば、逆ハーの完成だよ。

今すぐ行った方がいいんじゃない?」


麻衣の言葉に肩をすくめると、青木は近くにあった椅子に座った。

麻衣も窓から離れ向かい側の席に座る。


「・・・これでいいのか」

「・・・?」


青木の問いかけに麻衣は首をかしげた。

質問の意味がわからなかった。


「本当は、あの位置にいるのはおまえなんだろ」


青木の言葉に、麻衣は曖昧に微笑む。


青木は、麻衣と同じ転生者だ。

転生者だと告白されたときは、本当に吃驚した。


ヒロイン(仮)も着々と逆ハーヒロインに収まったことから転生者の可能性が高い。


少なくとこの乙女ゲームの中には、3人の転生者がいることになる。


「いいんだ。あたしは、ヒロインになりたかったわけじゃないもん」

笑顔でそう言って胸元をギュッと握る。

制服の下にある幼馴染からもらった大事なペンダントを握りしめるのが、小さい頃からの麻衣の癖だった。


それを見て青木は思わず舌打ちをする。

「先輩たちはバカだな。なんであんな女が、俺たちの大事な幼馴染だって思えるんだろ」

「仕方ないよ、あのヒロイン(仮)の子、完璧だよ」


麻衣は視線を窓の外に向ける。


「薄い茶色のフワフワの天パ。乙女ゲームパッケージに書いてあったヒロインと髪の長さまで同じだよ」


「髪なんて、染めてパーマをかければいい」


「幼馴染にもらった、四葉のクローバーのペンダントも持ってるし」


「そんなの、似たようなデザインのものがどこにでも売っている」


「名前だって、立花美咲で『ミサキ』だし」


「親が再婚すれば、名前は変わる。


・・・お前が、三崎麻衣から今野麻衣に変わったように」



麻衣は困ったように笑うと、青木に視線をあわせた。


「しかたないよ。ゲームの中ではヒロインが親の再婚で名字が変わるなんでエピソードなかったもん」






麻衣が転生前の記憶を思い出し、ここが乙女ゲームの世界で、自分はヒロインではないかと疑った5歳のとき。

母親に大事な話がなるといわれ、再婚話をされたあのとき。


いつも一緒に遊んでいた大好きな幼馴染の男の子たちの名前が、ゲームの攻略対象者の名前と一致すること。

彼らが自分のことをゲームのヒロイン名『ミサキ』と呼ぶこと。


そして自分が、引っ越しして彼らと別れを迎えること。


思い出したゲームとの共通点はこれだけだった。

・・・いや、こんなにも共通点があったといったほうがいいかもしれない。


乙女ゲームの世界かもしれない。

違うかもしれない。

麻衣は混乱した。

そして同時に、絶対にゲーム内と同じ行動をとらない。ととっさに思った。


もしこの世界が乙女ゲームの世界だとしても。

生きている自分たちには現実の世界だ。

間違ったからと、思い通りにはならなかったからと、リセットボタンを押せる世界ではない。


彼らの感情をゲームのシナリオ通りに動かしてはいけない。


彼らには彼らの考えが、生き方がある。


それを・・・捻じ曲げてはいけない。



麻衣は、無理やり再婚相手の養子に入って名字を変えた。


これで、三崎麻衣という名の女の子は消えた。

彼らの幼馴染の『ミサキ』は消えた。

フラグを折った。

そうと思った。



ゲームの舞台である恋咲学園に入学したのは、義父の強い勧めがあったからだ。

どうやら、この学園の理事長と知り合いらしい。


ゲームでは、義父は親族の強い反対にあい、麻衣を養子に迎えるのを断念する。

それを、この世界では自分の我儘で無理やり養子に迎えてもらった。

その恩がある。

どうしても、義父の頼みには弱い。


ヒロインである自分が恋咲学園に入学する。

・・・これは、ゲームの補正力というものではないか。


このままでは自分はゲームと同じ道のりを歩いてしまうのではないか。

不安はずっと付きまとっていた。


その不安を消すように、髪形を変え、常に身につけている四葉のペンダントは、外からは見えないように、たえず服の中に隠した。

ゲームのヒロインからすこしでも遠ざかるように。



自分から彼らには近づかない。

話しかけない。


絶対に『ミサキ』とばれることはない。






「・・・って自信があったんだけどなぁ。

まさか、攻略対象者の中にも転生者がいるなんで」


「でも、オレは転生者でよかったと思っている。

転生前の人生で妹に無理やり乙女ゲームやらされていたってことも、今はで本当によかったと思っている。

こうして、本物の『ミサキ』を見つけることができたんだから」


青木の言葉に麻衣は小さく首を傾げた。


「でも・・・、どうして、ヒロイン(仮)が本物の『ミサキ』じゃないってわかったの?

あの子、私の目からみても完璧だったよ」


「あの女はゲーム内のストーリーに頼りすぎた。

あいつの質問に、ゲーム内ではでてこなかった返答をすると、途端に動きがぎこちなくなる。

それに、ゲーム内にでてくるイベントのことはよく知っているのに、ゲームに登場しなかった事柄は何も知らない。

オレがトマト嫌いなことは知っているのに、幼稚園で毎日一緒に弁当を食べていたのは覚えていない。

どう考えてもおかしい」


「・・・しかたないよ。攻略対象者の食べ物の好き嫌いは攻略ガイドブックにのっていたけど、なんで『ミサキ』がそのことを知っていたかなんてどこにも書いてなかったもの」


麻衣と青木は、幼稚園で同じクラスだったこともあり、いつも一緒にお弁当を食べていた。

だから知っていたのだ。


青木が、トマト嫌いだと。



「本当にこのままでいいのか?」

もう一度かけられた青木の問いかけに麻衣ははっきりと頷く。


正直、このままだと大切な幼馴染との思い出がなくなってしまうようで寂しい。

彼らはヒロイン(仮)を『ミサキ』だと思い込んでいるのだから。

彼ら5人と遊んでいたときは、まだ前世の記憶は戻っていなかった。

戻ったのは、母親の再婚が決まり、引越しをするとき。

だから、純粋に彼らのことは大切だし大好きだ。


それと同時に、彼らをゲームの世界に巻き込んではいけない。という思いもある。

麻衣と出会うことで、本来の自分の意志とは違う行動をとってしまうのではないか。

麻衣が彼らの人生をめちゃくちゃにしてしまうのではないか。


だから、『ミサキ』として彼らの前にでるのはやめよう。


そう決めた。


彼らは、麻衣ではなくヒロイン(仮)を選んだ。

ヒロインを、幼馴染を間違える。

ゲーム内には出てこなかったストーリーだ。

彼らはゲームに支配されているわけではない。

自分たちの意志で、ヒロイン(仮)を選んだ。



「だから、いいんだ」

「だが、あの女はゲーム内でのヒロインと同じ行動をとっている。

そんな彼女の周りに先輩たちは群がっているんだ。

・・・これって、先輩たちがゲームに支配されているってことじゃないのか?」

「そうなの・・・かな?」


麻衣は曖昧に首を傾げる。


結局、彼らを乙女ゲームに巻き込んでしまったのだろうか。

巻き込まれた彼らはどう思っているのだろう。


この世界は乙女ゲームだと知ったとき。

彼らはどうするだろう。


・・・怖い。

ゲームに巻き込まれた憎しみが、ヒロインである自分に向かいのが怖い。


大好きな幼馴染の彼らに、嫌われるのが・・・怖い。


あぁ、でも、自分がヒロインであることを隠して、彼らの好意がヒロイン(仮)に向かうのをただ傍観していた。


このこともバレたら嫌われてしまうのだろうか。


・・・わからない。


彼らが乙女ゲームに巻き込まれなければいいと思った。

彼らが自分たちの意志で行動できればいいと思った。


それは本当。


でも。


この世界が乙女ゲームだとわかったとき。

彼らがどう思い行動をするのか。


想像すると怖い。


・・・これも本当。


自分の行動は間違っていたのかな・・・?

どうすればよかったのかな?


よく・・・わからないよ。


麻衣は青木の視線を避けるように下を向いたまま顔を上げることができなかった。



そんな麻衣の姿をじっと青木は見つめている。



裏庭では、まだヒロイン(仮)と攻略対象の先輩たちが騒いでいる。


ヒロイン(仮)はゲームを攻略した。

これでゲームは終わりだ。


麻衣はそう思っているのかもしれない。

だが、青木はそうは思わない。


ヒロイン(仮)が逆ハーを未完成な状態で終わらせるとは到底思えない。

必ず、しつこく自分に接触してくるはずだ。

逆ハーを完成させるために。


それに、先輩たちがオレと同じようにヒロイン(仮)に違和感をもっていないはずがない。


5年一緒にいた。

オレらと『ミサキ』は、ずっと一緒にいた。


その思い出は、ゲームや攻略ガイドブックなどで全て語れるはずがない。


必ず、先輩たちも行動を起こす。


「その前に、麻衣を手に入れとかないと・・・ね」


小さくつぶやいた青木の言葉は、考え込んでいる麻衣には聞こえなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 主人公さんはヒロインちゃん(仮)とは違う方向で、だけどそれ以上にゲームに支配されているのね。
[一言] とってもおもしろかったです! 続きが読みたいです!
[一言] ストーリーがわかりやすくて読みやすいです。 本当はゲームの主人公に転生したのに、敢えてそのとおりにいかないところに面白みを感じます。 青木がこれからどうやって主人公を攻略し、エセヒロインはど…
2015/03/26 11:21 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。