サバイバル! その2
オラクル山に流れるオラクル川。
ゼルドたちが戦っていた場所から少し下がった川下で、リックとシーマはのんびりと魚釣りをしていた。
「よっと。ほい、また釣れた」
「わあ、レオナードさん凄いですぅ」
パチパチと拍手をするシーマに、まんざらでもないリックは照れ笑いを浮かべる。なんでも卒なくこなすリックは、その辺に落ちていた木の枝で釣竿を作り、木ノ実を使ったオリジナルルアーで魚を釣っていた。
リックから魚を受け取ったシーマは、携帯用のナイフを取り出すと、手馴れた手つきで綺麗に捌く。
「お前、手慣れてるな」
次々と魚を捌いていくシーマを、リックは感心した様子で見ていた。
シーマは照れくさそうに微笑む。
「えへへ。うち、大家族なもので。弟たちのご飯とかは、私が作らなくちゃならないんです」
「てことは、あの寮には住んでないのか」
「はい。実家の面倒を見ないといけませんから」
力無く笑うシーマに、リックはそれ以上聞くのをやめた。
きっと色々と彼女にも事情があるのだろう。彼女のあかぎれた手がそれを物語っていた。
「だから私、このサバイバル、絶対に負けられないんです」
おっとりとした彼女が珍しく言葉に力を入れている。それは、彼女の本気の現れだった。
「でも、私、レオナードさんと一緒に組むことが出来て、正直ホッとしているんです」
「なんで?」
シーマははにかんだ表情を見せる。
「だ、だってレオナードさんって勇気あるし、行動力あるし、なんだかとっても頼りになります。き、きっと私一人だったらこんな風に魚を取ることも出来なかっただろうし、なによりも弱いからすぐに他の人に狙われて負けてたと思います」
「買い被りすぎだろ。俺なんてただの中途半端なやつだよ」
「そ、そんなことないですよ」
なんでも卒なくこなすが、特筆するものが無い。それがリックの自己評価だった。だから、どこのギルドにも引っかからなかったのさ。
自嘲気味にリックは笑った。
「さてと、飯も食ったし、夜用の薪でも拾いに行こうか。今夜は冷えそうだしね」
「はい」
リックは視線に気がつかれないよう、シーマを連れゆっくりとその場を後にした。
そして、その夜。
焚き火の周りでリックとシーマは暖を取っていた。
身動き一つしない二人。どうやら深い眠りに落ちてしまったらしい。
そんな二人に背後から忍び寄る影が二つ。
「馬鹿め! 真夜中に焚き火をするなんて、ここに自分たちが居ますよって言っているような物だぜ! プレートはもらったああ!」
身動きしないリック達に向かって、男たちは一斉に木刀を振り下ろした。
――ザン!
「?!」
手応えのない感触に、男たちは困惑する。
彼らが切ったもの。それは、木の枝にリックたちの服を被せたダミー人形だった。
「そう思って寝込みを襲ってくる奴らを俺たちは待ってたんだよ!」
「な、何!?」
――パカン!
背後からの一撃に、二人はその場に倒れる。
「一丁あがりっと」
「す、凄いです! レオナードさん!」
パチパチと拍手するシーマに、リックは得意げになる。
実は魚釣りをしていた時に、自分たちを見つめる視線の存在にリックは気づいていたのだ。そして、薪を拾いに行っている間にダミー人形を作り上げ、夜の闇に乗じて入れ替わっていたのだ。
足元に転がる男たちからプレートを奪い、リックは自分の頭を指差す。
「へへへ、サバイバルで生き残るのは腕っ節じゃない。大事なのは、ここさ」