少年と待ち合わせ
ーーー少年にとって、待ち合わせというものはひどく久しぶりだった。待ち合わせをする友達なんて持ち合わせてはいないから。
だからひょっとしたら、この時少年の心は、ほんの少しだけ浮き足立っていたのかもしれない。
橘、林ともに一時戦線離脱。(来てもいないのだが)2人は補習という名の敵と対峙することになってしまった。
しかし、予定外の事態に再考する。
橘は彼女(呼び方が分からないからひとまずそう呼ぶ)に連絡を入れているかもしれないが、そうではなかったら?もしくは、「すぐ終わる」とか言って待ち続けていたら?
ーーーー昨日のことが頭に浮かぶ。
オレは目の見えない人がどうやって生活しているのか知らないが、多分、そう町中を出歩いたりしないのではないだろうか。
そう、約束でもない限り。
「はぁ…」誰に向けられたわけでもないため息は、遠くから聞こえる野球部の声にかき消された。
心配というか、気がかりというか。おせっかいな性格でも、世話焼きな性分でもないと思っているのだが。
オレはもう一度携帯を開き、補習で苦しんでいるであろう腐れ縁のバカにメールを送信した。
「先に行ってる」
「さて…」
先に行くとは言ったものの、2人ががどこで何時に会うつもりだったのか知らない。
喫茶店とは言っていたが、どこの喫茶店だ?
カフェのことなのか?
「…とりあえず駅行くか…」
ーーー無計画で無謀な少年は、駅に向かって歩き出した