少年と契約
結果を先に言っておくと、オレは橘の誘いに乗ることにした。というかそうなった。そうさせられた。林の名前まで持ち出された挙句、
「じゃあ浅羽、4時に校門で待ってて!」
といった具合でこちらの意見など聞く耳も持たず、一方的に決められた。
友達と約束なんてしないオレには約束の基準なんて分からないが、これは契約といった方がしっくりくるのではないか。
断ろうにもオレからクラスの女子に話しかけるなんて事は万に一つもありえない。
もちろん行かないことだって選択肢にはあるのだが
ーーー頭には昨日の盲目の女子が浮かぶ。
林の言ったような、恋愛感情とかそんなものではない。ただ気になるだけだ。
とりあえず林には、約束の旨をメールで伝えた。意外にも返信は早く、部活も休みだから行けるとのことだった。
あの麻美と呼ばれる女のことは気になるが、それでもやはり会うことははばかれる。
自分の中の矛盾した感情には目を伏せて、いつものように退屈な授業をやり過ごしていった。
ーーー3時50分。
この学校は部活に所属している生徒の割合が高く、こんな時間に校門へ向かう生徒は少ないほうだ。もちろん一年の時から帰宅部のオレは、毎日早い時間にさっさと帰ってるわけだが。
約束の時間の10分前。張り切っていると勘違いされそうな時間に来てしまったことを若干後悔しながら、足は校門へ向かう。
すると、頭上から声が。声がするほうへ目をやると、窓から体を半分乗り出して、橘が叫んでいる。
「ごめん、補習あった!ちょっと待っててー!!!」
先生に注意され、橘の長い髪はすぐに窓の中へ引っ込んでしまった。
オレに向かって言っていたのは分かるが、さすがに呆気に取られた。お前が来なくてどうしろというんだ。
また一方的に予定を決められた小さな苛立ちは、ポケットの中のバイブ音のせいで少し大きくなった。
「くそ、誰だよ」
ポケットから携帯を引っ張り出す。
小さな苛立ちは、林からのメールで怒りに変わった。
「わりぃ、オレも補習だった!(笑)」
「…(笑)じゃねぇよ…!」
ーーあぁ、本当に、なんて契約をしてしまったものか。
時計の針はカチリ、と3時51分をさした。