少年と会話
普段特定の人以外とは話さないようにしているし、話しかけられそうなタイミングは大体決まっている。
1人でいる時間が長いということは、1人で考える時間が長いということ。コウジは常に周りを見て、話しかけられた時の対処法を用意していた。1番簡単に、かつ早く会話を終わらせられるような完璧な回答を。
でも今日ばかりは不発だった。
正直この展開は読めていなかったわけではない。次の日にクラスメイトが話しかけてきたらどうするべきか。考えるのも忘れるほど、昨日会った少女のことでいっぱいだった。
「浅羽、聞いてる?」
明るい色の髪を揺らしながら、橘絵里が顔を覗き込む。吸い込まれそうな、真っ黒な瞳。
あいつもこんな目をしてるんだろうか。
昨日会った、目をつぶった少女をまた思い出す。
「…礼をしたいのはありがたいけど、俺はいい」
「えーなんでー?」
「別に大したことしたわけでもねーだろ、あんなの。恩着せようとしてやったわけでもねーし…」
「いいのそういうのは!あ、そうだ、来づらいなら林も連れてきていいよ。それなら2対2、どう?」
絵里はピースサインを2つ作って、こちらに向けてくる。
「…何で林なんだよ」
「えー?だってあんたら仲良いんでしょ?教室だと話さないみたいだけど」
……少し驚いた。意外と人を見たりしてるのか、こいつ。
昨日のように毒を心の中に吐き出す。けれど、コウジの絵里に対する印象は少しよくなったようだ。いつもなら適当にあしらって話を強制終了させるが、休み時間いっぱいぐらいは話そう。珍しくそんなことを思っていた。