少年と教室
「がららっ」
学校らしい扉の音によって、教室の沈黙は破られた。数人の生徒の話し声と、廊下から聞こえる足音。
(ああ、もうそんな時間か。)
コウジは幼なじみではなく、窓の外を眺めた。
基本コウジは、教室では口を開かない。友達はいないし、唯一話のできる林はクラスでも人気者であるから、誰かがいるときは会話は控えている。特に遠慮してる訳ではない。人気者の林と日陰者の自分が話していると、地味に視線が痛い。それがうっとうしいから話さないようにしていた。林はナイショで付き合ってるカップルみたいだななんて言ってきたが。
とにかく、今日はもう誰とも話さないつもりだった。しかし、意外な人物に声をかけられる。
「おはよう、浅羽っ」
高い声で名前を呼ばれて一瞬肩がはねた。顔を上げると、最近見た顔。橘絵里だ。
「…おう」
「無愛想だなぁ」
「ほっとけ。いつも通りだ」
「いや、あんたのいつも通りを知らないし…まぁいいや」
いや、でも誰かと話してる時点でいつも通りじゃないか。
小声で呟いてみたが、絵里には聞こえなかったみたいだ。かまわず話が続く。
「あのさ、麻美が昨日のお礼したいって言うんだけど、あんた今日ひま?」
「……。」
黙。
「……⁉︎」
驚。
女子から誘われるのは、2度目、か。