少年と腐れ縁
ーーーそして今は、うかつにも出会ったばかりの少女に「また今度」などと言ってしまった翌日であるわけだが。
コウジは、ため息のような深呼吸のような、どっちつかずの空気を吐き出す。
麻美に対して生まれた、ある気持ち。
コウジの性格からすると、違和感しか得られないような気持ち。
それを言葉にするとしたら、好奇心、というのが一番近いのだろう。
コウジは制服の袖に腕を通すと、整理しきれていないモヤモヤした感情を振り払うように家を出た。
ーーーいつもより大分早く学校に着いた。まだ少し冷たい、静かな風が頬を撫でる。
教室に足を踏み入れると、先客がいた。コウジにとっては見慣れ過ぎた顔だった。
「おぉコージー。何だ今日早いなぁ?」
「•••お前こそ。朝練どうしたんだよ」
「いや今日朝練休みなの忘れててさー。参った参った」
教卓の上で足をぶらぶらさせながら、クラスメイトの林は白い歯を覗かせて笑った。
林はただのクラスメイトではなく、コウジの幼馴染だ。持ち前の運動センスを見込まれ、今はバスケ部に所属している。
「ふぅん」
ケラケラ笑いながら話す林に、コウジはどうでもよさそうに呟いて自分の席まで歩いた。
「で、俺の話聞けよコージ!何でこんな早いの?」
「•••。」
林は淡白なコウジとは間反対の性格の持ち主。このまま無視しておくと、1日うるさそうだ。
早く家を出た理由になるか分からないが、コウジは昨日のことを話してみた。腐れ縁とはいえ、コウジは彼のことを信用していた。クラスメイトの幼馴染で、目が見えなくて、コウジが好奇心を抱く少女、麻美のことを、彼に話してみた。彼女のプライバシーに関わるようなことではなく、一つの彼の体験談だ。別に問題はないだろう、と。
一通り話し終えると、林は少し間をおいて言葉を発した。
「ふーん。お前が誰かに興味示すなんて珍しいな。あ、もしかして好きなのか?LOVEのほうなのか⁉︎」
その言葉に、コウジは黙って消しゴムを投げつけた。林は黒板前の教卓に座ったまま、それを紙一重でかわす。消しゴムが黒板に直撃した音の大きさが、コウジの苛立ちを代弁していた。しかし林は何事もなかったかのように会話を続けた。
「じゃあ何?友達になりたいってことか?」
「•••別に。よく分からん」
相変わらず素っ気ない返事をするコウジをよそに、林はこう付け加えた。
「友達になりたいっていうのもアリだけどさ、会ってすぐにそれ思ったってことは」
「目が見えなくて可哀想だからっていう、同情みたいだよな」