少年と少女
人にはみんな、人生の分岐点があるらしい。
本の言葉に感銘を受けたとか、
誰かに出会って人生が変わったとか、
進学とか就職もその類に入るんだと思うけど、
俺の人生の「分岐点」はこの日だったと、
今は、思う。
高校2年の春。
学校生活に慣れて、生徒は色めきだす頃。
始業式は午前中に終わったが、教室や校門前にはたくさんの生徒が残っている。
そんな中、1人の少年が友達に軽く「じゃあな」と手を振り、ブレザーの紺色の波から飛び出した。
1人で駅へと向かい、1人で電車に揺られ、1人で大通りをまっすぐに歩いていく。少年は肩にカバンをかけ直し、気だるそうに一つあくびをした。道の道路側には街路樹と花が植えられ、反対側に目をやると喫茶店、雑貨屋、コスメショップなどが建ち並ぶ。
しかし、女性客ばかりの店に興味などない。店のほうをチラリと見ては、速度を落とさず家路を急ぐ。
もう1年間この道を通っているのだから、見慣れた光景だ。ポケットに手を突っ込み、少年がもう一つあくびをしようとした時。
「からんっ」
聞き慣れない軽い音がした。
少年が振り返ると、1人の女性が転んでいる。
(何でこんな所で転んでるんだ?)
段差もない道を見つめ、少年が首を傾げていると、女性の奥に酔っぱらいが見えた。数メートル先を千鳥足で歩いている。朝まで呑んでその帰りだろうか。ぶつかっておいて謝りもしないとは。
よく見ると、転んだ女性は少年と同じくらいの年頃だ。薄いオレンジのカーディガンに、ロングスカート。
(学生は今日あたり始業式だと思うけど…)
しかし、そんな疑問だけでは少年の足を止める理由にはならないようだ。少年はその場を立ち去ろうとした。が、そうもいかなかった。
周りからの視線が少年に突き刺さる。
転んで座り込んだままの女性…もとい少女と、そこに居合わせてしまった少年。
(ちょ、これ俺が転ばせたみたいになってるじゃん…)
そうでなくても、少女がこんな所に座り込んでいたら通行人の視線は避けられないだろう。少年はばつが悪そうにポリポリと頭をかく。
(もしかして捻挫でもしたのか?)
そう考えるのと同時に、少年は少女に声をかけていた。
「えっと…大丈夫、ですか」
少しかがんで、ぎこちなく聞いてみる。
初めて顔を上げた少女に、少年は戸惑いの色が隠せなかった。
少年は、
目をつぶったままの少女と顔を合わせた。