騎士(ナイト)
7月28日、寒川麗華は人生初の一人旅で、生まれて初めての船にいた。
母親と姉と暮らす自宅を離れ、8月30日までの1カ月間、彼女はこの島に暮らす宮野家のお世話になる。
姉の提案で気分転換になればと、彼女が暮らす家から新幹線で2時間。その県庁所在地から出ている船に乗る事1時間。
1日5便の船で人口3000人の虹島を目指していた。
乗り気ではなかった彼女だが、彼女自身。今の自分を何とかしなければいけない、自分自身が家に引きこもる事で、姉や、母にも心配をかけ迷惑をかけてしまうと、
彼女はこの提案を受け入れた。
確かに船から見える海は綺麗で、この人生初の旅行気分が楽しくないと言えばうそになるが、それでも彼女にはそれを純粋に楽しめる程心に余裕はなく、知らない場所でのホームステイに対しての不安感はあった。
彼女は初めこそ船外に出て景色を楽しんだものの、すぐに窓が見えない自分の席に戻って、
携帯で音楽を流し、目をつぶり、外の情報を断って自分の世界に入り込んできた。
そのまま眠りに落ちてしまいそうになった時だ、音楽が止まり、メールの着信音。
麗華は携帯を確認する。届いていたのは企業からのプロモーションメール。
だが、携帯の電波が入っているという事は既に目的地に近づいているという事だ。
ほどなく船内には到着を告げるアナウンスが流れる。
服など必要なものをすでに送っている彼女は、バッグ一つの手荷物で船を降りる。
朝と夕方の便ならまだしも、この昼の便で、この島にやってくる人は珍しく、夏休みで、帰省している人たちだろうか、それに比べ、彼女の軽装は地元民並みだ。
港に迎えが来ていると聞いていた麗華はあたりを見回す。
そして一人の少年に目をやるというか、ここにいる船の運航の関係者以外は彼だけだ。
彼女が近づくが、彼は携帯のゲームに必死なのか、彼女の事には気づいていない。
彼女が何をしているのか、彼の携帯を覗き込むと、地面に写る彼女の影に気付いた彼が申し訳なさそうにゲームを終了させ、彼女に向き合う。
「すみません、気づかなくて、みず、、じゃなかった。寒川、麗華さんですよね」
顔立ちの整った優しそうな雰囲気を持った少年。
同い年と聞いてはいるが少し下に見えてしまう。
「えっと、ナイトくん、ですか」
「はい、騎士と書いてナイト、かっこいいでしょ、見事なまでのDQNでしょ?」
笑いながら自虐ネタ、、
「その上に名前負けですよ。さてそれじゃ、行きましょうか、荷物それだけですか?」
荷物を持ってあげようとした騎士がだったが、バッグ一つだけの麗華を周りを確認する。
「は、はい、残りは送ってもらう予定で、今日の夕方には届くので」
「そうですか、それじゃいきましょうか、あ、それなんなら持ちましょうか?」
「いや、大丈夫です。」
麗華はこのマイペースかつよくキャラのつかめない、騎士について行く。
道中、騎士はひっきりなしに周りの説明をしながらついて行っていたが、この暑さでほとんど頭には入ってこない。それに、だんだんと坂道がきつくなり、ヒールが高めのミュールを履いた足が痛い。
「大丈夫ですか?」
そんな麗華を心配して、騎士は休みますかと提案するが、麗華はそれを拒否する。
それからさらに20分、頭がくらくらする。少し前まではこれくらいなんともなかったのに、引き籠っていたしばらくの間に体力が落ちてしまっている。
吐き気もするし、、、でも、、、
「よう、ナイト、珍しいなお前が歩きで出歩いているなんて、」
そんな二人の横を走って坂を上っていく男が、騎士に気が付いたのか、足を止め話しかける。