精霊大祭
「これでも、普通の人より、濃密で、波乱に満ちた人生を経験した自負はあります。
挫折と敗北、その数は数え切れず、その経験が今の自分の糧になった確信もあります。
もちろん道は違いますが、人生の先輩として道を示す事は出来るかと思います。
一時的ではありますが、麗華さんの親としての役割を果たす覚悟はあります。
それを軽く見ているわけでもありません。
これでも僕は28人の社員を抱える建築会社の経営者ですよ。
人の人生を背負う事に関してその重さも、分かっています。
そして彼らのこの表情が僕の誇りです。
まだ会っていませんが彼女にも同じような笑顔を見せてほしいと本気で思っています。」
そういって鉄平は社員の皆とその家族とのバーベキュー大会の写真を見せる。
「、、、では、桜さんには何が出来ますか?」
「一生宝物にできる夏休みにしてあげられます。」
「、、、、それだけですか?」
「ダメ?だったら、、、」
「いいや十分ですよ。理屈じゃなく気持ちが伝わってきましたので、あなた達がこの島にきてくれて本当によかった。彼女の事をよろしくお願いいたします。」
そう言って二人を見送ると朧は満足そうに自分の部屋の戻ろうとする。
「神主様お待ちください。本題がまだ終わっていません。」
「本題?」
「精霊祭の事ですわ、お兄さま。今年は10年に一度の精霊大祭。今日はその為の集まりですわ。麗華さんの事をはそのついでのお話ですわ。」
「精霊祭でさえめんどくさいのに、それの凄い版でしょ。一応主さんからは聞いてるけど、あれ別にやってもやらなくても、元々僕たち人間は関係ないらしいだけど、、
どうだろう、もういっそなしにするのは普通のお盆でよくないかな?その方が山も静かでみんな喜ぶよ。」
「そういう訳にはいきません!皆が楽しみにしている行事です。それに精霊大祭は虹渡りの可能性のある重要な式典、いくら神主様でも中止は、、」
「まったく、人間は面倒だね。メンタルケアのために、何かにつけて行事行事。」
「それはここでハロウィンをやった朧兄様が言っていい言葉ではありませんわ。」
「あれはチビちゃんたち喜んでくれたじゃん、だいたいやりたいって言ったの愛理じゃないか。でも、精霊祭の式典の方は、チビちゃんは喜ばないんだよな」
その後も嫌がる朧を説得する事20分、飽きてきたのか朧がしぶしぶ了解する
「わかったよそれじゃ、それじゃ、悪いけど歌い手は愛理で、音楽は録音で、」
「ろ、録音、しかし、」
「どっちにしろ、精霊大祭はあの神太鼓使わないんでしょ?
十年前ならまだしも、今はあれを叩ける人がいるかい?それにその他の楽器だって」
「戻ってくる者の中にできる者もいますが、そもそも神太鼓がならなければ本来の儀は成立はしません。
まぁ、そんなものに頼らずも、形骸と成り果てた祭りでも、十分だと思いますが、」
「元より奇跡に頼るな、という事だよ。そもそもその年になって叶えたい欲望ってなんだよ。もうそろそろ、そういうのやめたらどうかな、欲を持つなとは言わないけど、ね。」
「さて、今日は宵も耽ってまいりました。お引き取りを、それとも何でしたら皆様も、残られまして直接意見されてはどうでしょう、今日は良い酒もございます。主様もさぞ上機嫌かと思いますか。」
主様がくる、その言葉を機にまるで蜘蛛の子を散らすように皆神社を後にする
「やっと静かになったね、しかし慌てたように、無駄な事を、主はいつだって見ているし、どこにだっているそれくらいわかっているはずなのにね。」
「それでも目に見えぬなら、感じないならいないも同じ、正体のわからないもに対しては見えない方が怖いですが、明確な何か、があるのならそれは見える事で恐怖は増す。
特にあれくらいの世代ですと幼少より何度も刷り込まされています故、」
「まったくもって難儀だね。ま、今日は彼女の預かり手が見つかっただけでよしとするか」
朧は空を見上げ星の明るさに目を奪われる。
「寝苦しいけど、起きている分は夜がすごしやすい季節になってきたね。」
「えぇ、本当に、、」