チェイサー
一方、麗華のいなくなった島で、夕方、祭りの片付けを終え、疲れきって縁側で寝そべる朧を健介が訪ねてくる。
「朧さん、いるっすか?」
「そりゃいるわな、こんな時間にどこに行くの。アイス食べる?」
「うっす。」
「で、用事は?麗華がいなくなってさびしいとか?あんまり、男の悩み相談とか受けたくないんだけど、、」
「それでも神主ですか」
「神主はお悩み相談が仕事じゃないの。え、何マジでそういう話なわけ?」
「まぁ半分は、、」
冗談で言ったにも関わらず、マジなトーンで返事が返ってきた。
「、、、いいよ、あと一本、アイス食べ終わるまでなら聞いてあげるよ、で、何」
「朧さんって、できないことないんすよね?」
「まぁな、原則、無敵で素敵だからね。少なくとも人の基準にはいないね。愛理と違って人だけど、まぁ、そこらへんは健介には説明する必要もないでしょ」
「あの、俺に、野球を教えてください。俺プロになりたいんです。」
「それは知ってるよ、今さら何を焦ってんの?」
「麗華に会いに行きたいんです。」
「何の話だよ。会いたいなら連絡先教えるよ。」
「だから、そうじゃなくてプロになって、麗華に負けないくらいすごくなって会いに行きたいんです。」
「それは対等な立場でってこと?どうしたの?」
「昨日、二人が舞台で歌のを見ました。」
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」
「無理矢理巻き込まれているなら、連れ出そうって思ってました。でも、そんなことは全然なくて、祭りで同じ主役をやって並んだ気になってました。彼女は俺と同じだって、でも思い知らされました。生きる次元が違うって」
「そんなことはないんじゃないかな、人それぞれ、幸せなんかと同じ、人と比べたり競ったりするほどバカらしく、その幸せをうしなうことはないよ。人間関係に立場なんて関係ない。そうじゃないと嘘になる。別に健介は今のままでいいんじゃないのかな?」
「俺が納得がいかないんですよ。彼女は夢に本気で向かっている。どんどん先に行っている。なのに俺はここで自己満足のために野球を続けている。
どこかきっと落としどころを探していたに過ぎないんだって。諦める理由が欲しくして、
全力を尽くしたって思い込みたくて、」
「真面目だね、考えすぎじゃないかい?」
「今日の朝、父親と母親に頼み込みました。大学に行かせて欲しいって。」
「大学?なんで?」
「いきなりプロになれるわけがない、今更甲子園を目指すわけにも行かない。
だから大学で活躍して、プロになる試験を受けます。高校を卒業して、野球を十分にできる環境から大学だと思って。」
「まぁ、そりゃ、実績もないのに、企業で野球をやるわけにもいかないし、まぁ、実績も、試合経験もないのにプロ試験をうけてもねぇ。それならまぁ、時間に余裕のある大学の方が確かに、、でも、」
「もちろん、その前に問題はいくつもあります。家のこと、」
「学費もね」
「学費は奨学金をなんとかとって、」
「学力も、、あぁ、でもそこはまだなんとか見込みがあるか」
「やるべきことがたくさんあります。今までみたいに野球の練習と家の手伝いだけというわけにはいきません。それに結局大学に行くことが目的じゃない。
だから、限られた時間の中で、出来る限りのことはしたい。」
「だからこそ僕にね、、もし、大学でダメだったらどうするんだい?」
「ダメってことは考えてません。絶対にやってみせます。」
「若さゆえの何とやらか、分かったいいよ。でも、だからといってどこまでやるかわからないよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「あんまりそう畏まらないでよ。同い年なわけだし、でもま、麗香ちゃんは虹の橋が見えた。彼女は精霊たちに認められ、その願いを聞き入れられた。さぞ、明るい未来が待ってるだろう。でも君は違う、運命は君には味方しない。それでもやるんだね。」
「はい、俺がそうしたいんです」
朧はその意志にゆらぎがないことを確認し、笑う。
この熱意、自分が捨ててきたものだ。今覚えばこれも悪くない感情だ。




