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コトバノチカラ

一方、拝殿の方にある舞殿の周りには、すでに人だかりができ、騒がしく声が響く、その様子を隙間から麗華がうかがう。

もう間もなく、ここの照明が落され、神太鼓の音合図とし、舞台に上がる。

この呼び歌は最初の神太鼓の音以外一切の楽器を使用しない、つまりは自分の歌声だけ、ごまかしは聞かない、隣の島に聞こえるようにはっきりと通る声で、規模こそ違うが、麗華はつばさのライブを思い出していた。今回は自分が主役。そのプレッシャーはある意味それ以上。

そんな麗華の緊張を察してか、愛里が耳に息を吹きかける。

「きゃっ、な、何するんですか」

「緊張してるからほぐしてあげようと思ってなんなら直接体をほぐしてあげようか?」

「け、結構です。」

「大丈夫よそんなに緊張しなくて、どうせ暗くて人の顔なんて見えないし、失敗しても私のせいにすればいいんだから、」

「そんなわけにはいきません!だって今日の祭を楽しみにしてくれているんです。その期待には応えて見せます。それが私のプロと誇りです。」

「そう、分かったわ。さ、あと5分。始まるわよ」

程なく舞殿の周りの照明が落され、参拝客が一瞬ざわめき立つが、そして静寂が訪れたのを待っていたかのごとく本殿から雷鳴の如き太鼓の音が響き渡る。

その音は大気を震わせ、辺りにあるものを振動させるほどの音がこの場にいる者の耳ではなく、皮膚に音を伝える。

そして程なく太鼓の音が小さくなり止み始める。

「さ、出番よ。」

「頑張って、」

「はい、」

麗華は太鼓の音が止む前に舞台の中心に上がりその時を待つ。

そして、太鼓の音が止み、舞台に照明が当たると、麗華の出番だ。

まずは舞、教えられた通りに、衣装は重いが、出来ないことではない。

自分のリズムで、確実に大丈夫、問題ない、麗華は何度も自分に言い聞かせた。

そして程なく舞が終わり歌に移ろうとした時だ。

「ねぇ、やっぱり、水野やえだよ。」

「ほら、」

その言葉はあの時、騎士に絡んでいた女の子だ、舞台を最前列で見ている。

その言葉に麗華は言葉を止め、目線を彼らに移してしまう。

すると暗がりの中、多くの視線が自分を見ていることを認識する。

駄目、気にしちゃダメ、やらなくちゃ、落ち着いて、早く、いつも通りに

だが、どんなに集中しようと思っても集中できないし、何より声が出ない。

克服したと思っていた。でも、この状況があまりにもあの時の状況に似ている。

私は愛里さんから託された、だからやらなくちゃいけない。

必死に何度も声を出そうとするが、声が出ない。

そして次第に状況は悪くなっていく、舞台上の彼女が芸能人であり、つまりは島の外の人間であること、そしていつまでも始まらない歌にざわつきは大きくなっていく。

「麗華、、、」

そんな様子を最後列から、心配そうに見守る女性が二人、彼女の姉と、彼女の母親だ。

二人は麗華に内緒でさくらが招待していた。自分の娘が頑張る姿を見せるために、この場にやってきた。だが、今の状況は麗華を心配する母親にとって耐えられない状況だった。

「遥ちゃん、ごめん私ちょっと、、」

「お母さん、、」

「どこに行くつもりですか?」

さくらがこの場を離れようとする麗華の母親を呼び止める。

「さくらさん。」

「今、麗華ちゃんはプレッシャーに負けないように頑張っています。そんな中であなたは逃げるんですか。」

「わ、私はそんなつもりは、それに私には麗華に何もしてあげられません。」

「私のことを嫌っているから、ですか?」

「麗華から聞いたんですか?」

「まさか、麗華ちゃんはあなたのことをちゃんと好きですよ。ただ少し素直になれていないだけ、もう、麗華ちゃんのためだと言い聞かせて、自分を抑えるのはやめませんか?

親子だって口にしないとわからないことばかりです。

今あなたがするべきことはこの場から娘を見捨てて逃げ出すことですか」

「でも、私、何をしたらいいか、、、」

「はぁ、本当に、困った人ですね、」

さくらは目線を舞台へ移し、息を吸う

「麗華ちゃん!頑張りなさい!あなたには私たちがついているわよ!」

大きな声、観客の注目を一身に集めるがさくらは毛ほども気にしていない。

「簡単なことです、応援してあげればいいんですよ。言葉は力です。人に伝える力、麗華ちゃんは自分を表現したくて、自分を伝えたくてアイドルになった、言葉の力を信じてあげなくてどうするんですか。」

「お母さん、、、私たちも」

「麗華!頑張って!」

二人の言葉はたったそれだけ、さくらの声よりもずっと小さい、でも、その言葉は確かに麗華に伝わった。麗華に届いた。

応援してくれている、見てくれている。お母さんがわざわざここまで来てくれた。

今まで一度も来てくれたことなんてなかったのに、だったら、今頑張らなくてどうするの、今やれなくてどうするの!

麗華は震える手両手で自分のほほを叩き、力づくで体の震えを止めた。

「見せなきゃ、私の歌を、私がすごいってこと」

麗華の口から最初の歌の言葉が発せられると、あとは堰を切ったがごとく言葉が続いていく、そのあまりの迫力にみな先ほどまでのざわめきが嘘のように彼女の歌がこの場を支配する。


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