精霊たちの住まうとこと
日がわずかに傾きはじめ、この日の臨時の船が到着する頃、神社に続く参道には出店が立ち並び、今までにないほど人でごった返している。
「お疲れ、準備はどう?」
1時間後に始まる精霊大祭、その開幕を告げる呼び歌を歌うため、その歌い手である麗華が、歌い手の衣装の着付けを行っている。
「さくらさん、わ、それなんですか!」
「動かないの、」
「差し入れー」
「駄目ですよ、もし服が汚れたらどうするの?」
愛里がさくらの持ってきた焼きそばを奪い取る。
「残念、それじゃさ、歌い終わったら、一緒に出店まわろう、それならいいでしょ。」
「まぁ、そうですわね。最後にさえ遅れなければいいでしょう。」
「最後?」
「こっち向いて」
麗華は着付けを行っている初老女性に半ば強引にまわされ、最後の調整を終えると力を込めて腰のあたりを叩く。
「さすが、お見事ですね。」
「何年、歌い手の着付けをやっていると思ってんだい。それにしてもあんた痩せすぎじゃないかい、そんなんで持つのかい、それ結構重いよ。」
「ご心配なく、もっと重くて動きにくいの着て踊ったことがありますから、」
嫌味の入った心配を麗華は笑顔で返す。
「こっちも準備終わったよー」
やる気のない声で朧が健介を引き連れてやってくる。
「ねぇ、朧君、どうよ」
「かわいいね、結婚してください。」
「何バカなこと言ってるんですか、、」
「健介君はどう思う?」
「いや、俺はその、、、」
「やっぱり似合ってないかな?」
「い、いやそんなことはない!よく似合ってる。」
「でも、本当に良かったんですか、髪の毛黒に染め直さなくて」
「別に黒じゃないとダメって決まりがあるわけでもなし、」
「それは今までそうしようとした人がいないからですわ。」
「愛里だって味方してくれたじゃん。」
「それは麗華にとっては今のままのほうが麗華らしいからですわ。」
「そういえば内の騎士は?」
「少し前に呼ばれて参道の方に行ったよ。鉄平さんの役目まるっと引き継いだから忙しいみたいだね。まさかただでさえ気に入らない若造の子供、しかも物は、直線的にはっきり言う態度だから、素直に聞いてはくれないだろうし、トラブルも多いみたいだね。」
「、、、私、やっぱり、、」
「心配なのはわかりますが、ここで親が出ていくべきではありませんよ、人づきあいを覚えるいい機会です。これも良い経験。大丈夫、心配しなくても信さんがついていますから。」
「さて、時間もありませんわ、朧兄様」
「そうだね。」
朧に連れられ、麗華と健介は拝殿の奥へ、そこは今まで健介も入ったことのない部屋、
祭りの歌い手と神太鼓の奏者だけが入れる場所。
愛里も部屋の前で扉を閉め、中に入ろうとしない。
そこは神棚の置かれただけの部屋だが明らかに空気が冷たく、恐怖を感じる、まるで目に見えない何かがいる気配がする。
「健介君、、」
「何かいるのか?」
「心配しなくていい、ここはこの島の霊源、地脈の力が噴き出す、いうなれば少し前に流行ったパワースポット。ずっと昔は山頂の本殿だったけど、少しずつずれて今はここ、いずれはこの島でさえなくなるだろうね。まぁ僕らが死んだずっと先の話だろうけど、さて、それじゃ、ちゃっちゃと済ませるから、そこに並んで、目をつぶって」
言われるがままに二人は朧の指定した場所に立ち目をつぶる、すると朧は何か呪文のように言葉を発していく、姿こそ見えないが普段の朧とは違う厳格な雰囲気が見て取れる。
そして朧が言葉を発し終わると、何かを準備するような音がする
「それじゃ、目を開けて、まずは奏者である健介から、これを飲んで、前に出て一揖二礼二拍手一礼一揖、分かるね?」
「これは?」
「大丈夫、お酒とかじゃないから、地脈と水脈が重なった場所からあふれ出る、特別なだけのただの水だよ。さ、」
健介は言われるがままにことを行う。
その間に朧は今度は麗華に近づく、
「健介が終わったら、同じようにすればいいから、さ、どうかした?」
「い、いえ何でも」
朧の周りに、嵐の日に風呂場で見た人魂のようなものが見える、麗華は何度も大丈夫怖くないと言い聞かせる。
儀式が終わると、辺りは少し先ほどよりも暗くなっている。
「それじゃ、そろそろ、行くかね。健介準備は?」
「あぁ、、ちょっとだけ、、」
健介は麗華に近づいて話しかける。
「さっき様子変だったけど大丈夫か?」
「うん、ちょっと雰囲気に飲み込まれただけ、大丈夫。」
「そっか、、、もし、何かあったらすぐに駆けつけるから、その、心配すんな、やりたいようにやればいい。楽しめよ。せっかくの祭だ。」
「なに?気を使ってくれてるの?」
「別にそういうんじゃない、心配なだけだ。ちゃんとやれるか」
「大丈夫、私を誰だと思ってるの、自信がつくだけの練習してるわ、それより、終わったらさ、騎士君と3人でお祭りまわろう、今まで参加したことほとんどないんでしょ」
「あぁ、ちゃんとやれればな」
「それじゃ約束、ね」
健介は何気なく差し出した麗華の小指に応えることができず、適当にごまかして、朧について本殿へと上がる。
「よかったのか?さっき合法的に麗華ちゃんと親しくなるチャンスだったのに。」
「馬鹿にしないでください。それより今は自分の役目を果たすだけです。」
「親父さん、なんか言ってったか?」
「偉そうに自慢話してましたよ。」
「それを聞いてどう思った?」
「あんたなんか大したことはねぇ、俺の方が格上だってこと見せつけたやりますよ。」
「さすがだね。」
「それに、きっと麗華は完璧にやり遂げる、だから俺が邪魔するわけにはいかない、」
「邪魔しようとかじゃなくて、力になるって考えなよ。マイナス思考はあまりね」
「そうですね。」
「さて、それじゃ、あと30分。準備はいいかい?」
「あぁ、いつでも」




