代役
翌朝、麗華が起きた時には、外では風は止んでいるが弱まったとは言えまだ雨が続いている。祭りの前には、必ず、不浄なものを洗い流す雨が降る。そう教わったことが、実際にこうして雨が降ると、嘘ではないかのようにも思える。
麗華が着替え、リビングに向かうと既に鉄平の姿はなく、心配そうにさくらが窓の外を眺めている。
「おはようございます。」
「おはよう、」
鉄平のことが心配なのかいつも程の元気はない。
「鉄平さんはお仕事ですか?」
「うん、多分この雨のせいで工期が遅れるから、業者さんとの日程調整でしばらく帰ってこないかも、お盆までにもどってこればいい、かな、、」
「お盆、、帰省とかは?」
「私も、テツ君も、勘当みたいなもんだし、あぁ、勘違いしないでね、騎士が生まれてからはそれほど仲は悪くないし、お父さんたちも年をとったのか孫には優しいの、
ただ、お盆とかお正月は親戚の目もあるし、帰省しないのかいつものことなの、それより、麗華ちゃん、今日暇だったりする?」
麗華はさくらから神社の本殿の掃除を頼まれた。
お祭り前の準備の一環だが、昨日の嵐のせいでかなり荒れているはず、とは言えさくらは今日は忙しいらしく、できれば手伝って欲しいとのこと、断る理由がない麗華は二つ返事で了解し、部屋にいるはずの騎士にも聞こえる大きな声で外出を告げ、神社に向かう。
神社への山道にもなれたが、雨上がりで蒸し暑さが尋常ではない。まるでサウナにでも入っているかのようで、神社に着く頃には下着も、髪の中も汗でぐっしょり、境内の掃除の前にまずは、愛理に頼んでシャワーをそう思い、いつもの調子で勝手に縁側から入り襖を開けると、この部屋には手狭な人数の大人たちが一斉に麗華を振り返る。
その中には唯一若い健介の姿もあるが、麗華はその威圧感に思わず身を引いてしまう。
「ちょうど良かった、エアコン効いてるから暑くはないけど加齢臭がね、僕、匂いに敏感なんだよ。今日もいいシャンプーの匂いだね、アイス食べる?溶けてるけど、、」
男集の前方に偉そうに座っているのはいつもの調子の朧だ。
そしてその横には愛理がいつもの自信満々の表情ではなく沈んだ表情で座っている。
いそして横には松葉杖、、
麗華は少し体を移動せさ愛理の体が見える位置まで移動すると愛理の足には包帯が巻かれている。
「愛理さんどうしたんですか!」
「昨日の夜、少し風に煽られて、ここの石階段から落ちてすこしね、」
「心配なくても折れてはないよ。全治3週間、本格的にひねってるだけだよ。
愛理も僕も受身は取れるから、ね。それよりどうしたの?こんな時間に」
「い、いやさくらさんから、境内の掃除を頼まれたんですけど、汗をかいたから少しシャワーを借りようと、」
「いいよ、使って、覗いていい?」
空気を読まないおぼろの発言に、全方位から厳しい視線が降り注ぐ、中でも愛理と健介は本気で殺す勢いだ。
「い、いや、そういう雰囲気ではないでしょ。あと、覗いたら私本気で訴えますよ」
「はいはい、でも、麗華ちゃんそんな雰囲気じゃないって言っても、ここ心地悪いでしょ。」
確かに居心地が悪いがこの感じ間違いなく、愛理の怪我の話だろう。
邪魔をしないことを約束し、裃に座り話しを聞く。
やはり話は今週末の祭りの話、愛理が怪我をしたところに祭りの舞手がいなくなってしまった。祭りのことをめんどくくさがっている朧は歌を中止にすればいいと切り捨てる。
それを今更中止にできない、みんなが楽しみにしている、伝統の大切さをと、言葉を重ね年が倍以上の大人たちが恐る恐る朧の機嫌を損ねないように説得を試みるが、
10分程度、言葉を着ているのか聞いていないのか、その様子に一度彼らの中で高まった熱がひき、言葉の波が嵐となり、再び静寂をむかえたところで朧はただ一言
祭りと愛理では、祭りの方が大事だというのかい
と声を荒らげるでもなく、笑いながら呟いた。
だが、その言葉は威圧を持ち、その目は恐ろしい程冷たく、欠片も笑っていない。
「そ、そういうことではなく。」
「そういうことだよ、どっちにしろ、天秤にかけるなって言うんだろ?
でもそいいうことさ、祭りをやるためには舞手が必要。
だけど、それは愛理にしかできない、だったらそういうことだろ。
君たちはいつも問題をぼやかし曖昧にする。この世界は1か0、やるか、やらないか、オンかオフか、是か非か、単純じゃなく見えるのはそれも含めて、全てで判断し、行動するところを、ただ単に個別に判断しているから見えにくくする。
でも、結局、長考という儀式を経て仕方がないと結局選択をする。選択しないというは否という結果に過ぎない。
騎士だって理解していることを君たちはその年になってもわからないなんてね。
そうじゃないって言うなら、示して見せてよ。愛理に頼らず、君たちの願いを叶える方法を、だったら僕は喜んで協力するよ。」
一同は再び黙り込む、こういう時の朧は一切妥協はしない。だからこそ方法がない、そもそもこれは話し合いにすらなっていないのだ。
「それくらいにしてあげて、朧兄様。朧兄様のお気遣いありがたく頂戴しますわ。
、、、皆様の思い、分かりました。精霊大祭は滞りなく。どちらにしろ、次の精霊大祭は私が舞うことはない、それを考えますとたとえ足がどうなろうとも、ですわね」
「愛理何を言っているんだ!」
珍しく、というより麗華は初めて驚き、声を荒げる朧を見た。
「落ち着いてください、朧兄様、らしくありませんはいつだって平常心。人の心など遠に卓越したからこそ、神主に選ばれたそのことをお忘れなく。心配することはありませんわ、
無理をしたところで、死ぬわけでもなし、最悪でも歩けなくなる程度ですわ」
ひねっただけなのに仰々しいなと健介が思うが、それを口にするほど野暮じゃない。
皆、それなりに心配している表情を見せるが反対する者はなく、朧の言葉だけが支配する。
だが、それもほどなく静寂に変わる。その静寂が結論。
それを持ってこの場がお開きになろうとしていた時、麗華が立ち上がる
「あの、私、歌えます。踊れます。年齢もちょうどです。愛理さんほど上手くはないかもしれないけど、私にやらせてもらえませんか?」




