鉄平
結局、麗華は強制的に家に連れ帰られるが、心ここにあらず、あのまま残った健介の事が気になり、入浴後、自分の部屋で勉強するふりをして、こっそり家を抜け出そうと誰もいないことを確認し、忍び足で玄関に向かう、だが、置いてあったはずの自分の靴がない、そっと下駄箱を開けようとしたとき、後ろから、足音もなく近づいてきたさくらの声が
「どこに行くの?麗華ちゃん」
麗華の靴をもって、怒った顔で麗華に質問する。
「ちょっとコンビニに、、、」
「この時間はこの島のコンビニは締まってるわよ、知ってるわよね?」
「どうしてわかったんですか、」
「うちの騎士、人の心の内を見透かすのが得意なの、今度心理戦のゲームでもやってみるといいわよ、本気のあの子に絶対に勝てないから、」
「親に告げ口、、」
「もっとも、そんなことなくても麗華ちゃん顔に出てるから私なら気づけるけど、
子供の行動くらい簡単にわかっちゃうものなのよ。」
「今夜だけ、お願いします。」
「夜の外出を許すのはお祭りの日だけよ。」
「どうしてもでもダメ、ですか?」
「ダメ、女の子が夜出歩くな。こんな島でも何があるか分からない。いやこんな島だからかしら、ずっと昔に深夜に一人出て行った男の子はいなくなって決して見つからなかった海でおぼれたのか、それとも山で精霊にでも攫われたのか、どっちにしても危ない事には変わりない。そしてそれ以上に、貴方みたいなかわいい子がふらふら一人で歩いていたら、もっと怖い変質者に出くわさないとも限らないでしょ。」
「、、、、、」
「同情?」
「え?」
「好きなの健介君の事?」
「違います!そんなんじゃ」
「なら同情でしょ?努力している人をあっさりと馬鹿にするように出し抜くのって腹が立つわよね。勝ってほしいんでしょ、健介君に、」
「私はそういうのじゃなくて、ただ心配で、雨だって、、」
「心配しなくて大丈夫よ、あの子丈夫だし、それに、麗華ちゃんよりも適任なのを行かせてあるから、今日は駄目、明日、また、その時は全力で応援してあげるといいわ。」
「応援ってそんな、、」
「もし、騎士が私の子じゃなかったら、私は純粋に健介君を応援するな。
かっこいいじゃない天才に勝つために、決してあきらめない努力家。
そういう所、テツ君に似てるから、とにかく心配だったら、明日の朝。
しっかり応援してあげなさい、応援はちゃんと力になるわよ。ってそれは、麗華ちゃんにいうようなことじゃないわよね。」
麗華はこれ以上はどうしようもないと、心配しながらも麗華は窓の外の雨を眺めながら床についた。
一方健介は、運動場唯一の照明をつけ、雨と疲労でまともに投げられなくなった球を投げ続けていた。体中、雨と泥でぐちゃぐちゃ、もはや練習などにはなりはしない。
ただの意地、どうしていいか分からない状況をただ、何もなく続けている。
「がむしゃらに続けることでなんとかなる奇跡なんて起きはしない。だからみんな考えて努力するんだよ。意地と精神だけでなんとかなる、そんな世界は理想的だね」
「朧さん、、いつの間に、、見事な気配断ちですね。」
「アイス食べる?」
「朧君、これ以上体を冷やしてどうするんですか、冷やすのは頭ですよ。」
おぼろの後ろから近づいてくるこの島では珍しい見慣れたスーツ。
「騎士のお父さん、、、」
「初めましてだね、健介君。どうぞよろしく。」
鉄平は健介に名刺を渡す。
健介は写真や、仕事帰りの姿を見かけていたが、鉄平が健介を見るのは初めてだ。
「体を冷やすものじゃないよ、頭は冷静に、だけど体とハートは熱く、さ、時間がもったいない体育館に行こうか、」
「はぁ?」
「自分の息子のライバルを鍛えるのには気が引けるけど、心情的には君の味方だよ。
勝ちたいんだろ、騎士に」
「別に俺はそんな、、」
「負けっぱなしでいいのかい?男ならいつかじゃなくて今すぐ勝てよ、」
上着を脱ぐとワイシャツの上から分かる鉄平の筋肉、着やせするタイプなのか一回り大きく見える。
流されるままに体育館に移動すると、鉄平はまずは健介に素ぶりをさせ続け、その様子を見つめ、口をひらく。
「打つ時は腕力じゃなくて腰で打つ、あと体の軸がブレ過ぎ、力に頼っている証拠だよ。でも、正直、バッティングとピッチングでいけばピッチングかな、すぐにものになるのは、
健介くん、変化球は?」
「いえ、、」
「そう、ま、そのうち覚えればいいよ。変化球じゃなくても、正確に投げられるんだ、投げる場所に変化を取り入れ、球速に緩急をつけられればそれだけでも武器だ。あと投げる時も腕に引っ張られないで、ボールを握る手は楽に、あとは何より、最後まで振り抜くこと、それで君の球はずっと鋭くなる。それだけで、騎士には勝てるよ。騎士程度なら、本当の君の力なら小細工なしに打てない。
嘘じゃないよ、ま、本当は反則だからあまり感心しないんだけど、時間がないからね。」
そう言って鉄平は朧に目線で合図を送ると気だるく、健介に近づき、その手のひらで健介の頭を掴む。緩やかな動きだったが、健介は気がつけば掴まれている。
「お前がなりたいものをイメージしろ、たった一度だけだ、
見せてやるよお前の高みを、、お前の努力は無駄じゃない事を」
「前が見えなくても、必死に続けることも大切だけど、時にはゴールから逆算して考えるべきだよ。そうすることで君の一歩はより力を増すよ。」




