彼女の琴線
昨日までは楽しかったのに、今日は嫌な事を思い出させられた。
焦る必要はないと朧は言ったが、焦る必要はあるに決まっている。
アイドルなんていつまでも目指せるものじゃない、大人になるまでに有名になっていないと続けられるものでもない、残酷なようだが、それは麗華が選んだ世界。
何にもやめていく先輩を見てきた。追い抜いていく後輩を見てきた。
いつか、なんて考えは問題外だ。それは十分わかっている。それなのにあの日逃げ出し、引き籠って、こうして心身の養生の為にと、だけどここでの生活が楽しくて忘れていた。いや考えないようにしていた。自分には時間がないという事を、
アイドルとしてのメジャーになれるか以前に、事務所可解雇された状況だ。続ける為にまた一から始めるにしても。それこそたぶんこの夏までに結論を出さないといけない。
可能性の薄いものにしがみつくか、今から、今までの事を全部無駄にして普通の学生としての生活に戻るか、まだ、夢見た事は何一つ叶えていないのに、辛い事やきつい事や、やりたくない事を全部無駄にして、、、
「あ、携帯、学校に忘れてきた。」
帰路の途中、ふとそういう事を考えていると嫌になり音楽でも聞いて気を紛らわそうとカバンを探した時、麗華は携帯を更衣室の棚に忘れてしまったことを思い出した。
ここから学校だと少し距離がある、明日でもいいかとも考えたが、何か連絡があると困るし、携帯を学校の更衣室とは言え、防犯面で不安のある所に、携帯をおいておきたくない。
麗華が歩いて学校についた頃には日は傾きはじめ、学校の鐘が17時20分を告げる。
麗華が無事携帯を見つけ、さくらに事情を話し帰宅が遅れる旨を伝え、もう忘れ物がないかを確認し、校舎の鍵を閉める。
後は鍵を返して帰るだけ、イヤホンをつけ音楽を聞こうとした時、グランドから音が聞こえてくる。
この音の主に心当たりがある麗華が校庭に近づいていくと、バッティングティースタンドにボールを置き、全力で球を打つ健介の姿が
「まだやってたんだ。」
「、、、悪いか?」
「、、、別に、、悪くはないけど」
「、、、、、、何かあったのか?」
健介は気持ちの沈んでいる麗華に健介はバットを置き、麗華に尋ねる。
「別に、何もないよ、、なんで」
「お前が俺に話しかける第一声は、太鼓を叩けだ。」
「叩いてくれるの?」
「嫌だ、、、」
「だよね、ごめんね。ずっと嫌な事ばっかり言って、、、ねぇ、見てていい。」
「なんで?」
「嫌な事ばっかりさせようとしてたから、健介が好きな事どういうのかなって」
「、、、、俺には関係ない好きにすればいいだろ」
健介は麗華を無視し、トレーニングを続けようとするが、落ち込んだ麗華が気になって少しも集中できない。十分もせずに、健介はバットを振るのをやめ、麗華に近づいていく。
「今日は終わり?」
「気になるんだよ。何があったんだ?心ここに非ずって感じで、見るわけでもなくそうやって景気の悪い顔されてるとな。」
「ごめん、邪魔するつもりとかそういう訳じゃなかったんだけど、」
「それはいい。何があったんだって聞いてるんだよ。」
「健介には関係ない事だから、、、」
「関係ない、知られたくない、だったらそんな顔をするんじゃない。
気になるだろうが、別に関係なくてもいいから話してみろ、俺が気になる。」
「意外ね、一匹狼を気取って他人には興味がありませんって感じだと思ってた、」
「とにかく俺が気になるんだよ。そんな顔を俺の前でされたら俺に雑念が入る。結局俺とおまえは他人だ。別に気を使う必要はないだろ、それにお前が言うように俺は誰とも仲が良くはない。別に他人に喋るようなまねはしねぇよ。それほどお前に興味はない。」
「はっきり言うわね、それはそれで傷つくかな、私のプライドが、でもま、そうね。
せっかくだから聞いてもらおうかな、、、」
麗華は結局1時間ほど、健介に今までの事の経緯のあらましを主観で語った。ただ初めから内情を知っている騎士たちならともかく何も知らない健介に対してはあの事故のことは伏せトラブルに巻き込まれ休暇中と語った。さすがにあの事故のことを積極的に話したくはないし、目下今の問題はそこではなく愛理の言葉だ。
健介はそれにどうこういう訳でもなく、ただ聞き手に回り、「で」、や、「それで」「あぁ」などをつぶやくだけ、そうこうしているうちにあたりは暗くなり始めていた。
「、、、なるほど、要はお前はお前は他人にどうこう言われてそれでぶれて悩んでいると、」
「言い方きついな、、」
「事実だろ、いちいち飾り立てればなんとでもいえる。」
「、、、、、」
「俺からのアドバイスだ。嫌なら辞めろ。それだけだ。」
「簡単に言うわね。」
「やりたくない事をやって、それって誰の為だよ。お前が嫌の事を我慢してまでやらないといけない事なのかよ。」
「いや、、、それは、、」
「俺はお前が芸人だったとは知らなかったし、芸人の世界の事はよく分からない。」
「いや、芸人じゃなくてアイドルだから、せめて芸能人って言ってよ。まだ無名だけど、、」
「どっちでもいい、どっちにしろ、俺には分からない世界の話だ。
だけど、好きじゃねえんなら辞めちまえよ。別に歌うも踊るもそこじゃないとできないわけじゃないんだろ。愛理さんの言うことだって気にする必要はないさ」
「、、、、」
「もし、お前が責任感や義務感で辞められないっていうならはっきり言ってやる、お前が思うほど周りはお前に期待なんかしていない。だからお前がトラブルに巻き込まれて、こうして休んでいても、誰も無理強いもしなかったし、こうして今もここにいれる。」
健介の言葉が心に刺さり、麗華の心に確かな怒りがわきあがってくる。
「愛理さんに個性がないだの、物まねだと言われたからそれを気にしてどうしていいか分からない。その時点で半端なんだよ。自分を信じられてない。
そんなに他人に背中を押して欲しいのか?そんなことずっと続ける気か?」
「アイドルはみんなに応援されて初めてアイドルになれるんだよ。ずっと応援して欲しいに決まってる。当たり前じゃん」
「みんなの理想でありつづけ、認められたい。承認欲求ここに極まれり、か理解できないな。無理してそんなものを続ける必要なんてないだろ、まだこれから人生先があるんだ。今まで、そんな事、そればっかりやってきたから他が見えてないだけだろ。」
「なんでそこまで言われないといけないのよ。だいたいあんただって野球だけじゃない!」
「あぁ、だけど俺はお前みたいに諦めても迷ってもいない、一緒にするな」
「それはあなたが、挫折を知らないだけ、」
「あぁ、そうだな、俺の心の強さはお前とは違う。」
「違うわよ、あなたが井の中の蛙なだけ、ずっと一人で自己満足してるから分からない。」
「、、、」
「私と勝負しましょう、貴方にも挫折を教えてあげるわ」




