朧
愛理の言葉が麗華に刺さる。
ダンスの先生からも言われた言葉、完璧だけど、あなたでないといけない理由がない。
それでは人を引き付ける事は出来ない。
ボイストレーニングの先生からはいつも怒られることもなく、特別に褒められる事もなかった。つまりは可もなく不可もなく、周りの声に溶け込む脇役の声。
個性がない、上手なだけ、それは麗華にとって一番つらい言葉だ。
芸能事務所に入った時も、寒川の名字も、麗華もイメージはイメージ合わないと
素朴な印象をという事で水野やえという芸名になった。
素朴な感じ、身近にいる印象。人一倍努力しても、印象が薄いという事は覆せなかった。でも、だからと言ってそれで投げ出していいものじゃない。人一倍努力しなくちゃいけない、努力したということが唯一、自信になる。
オリジナルに近づくことはその努力の成果をわかりやすく実感できる。
完璧に、もっと、もっと、だけどその結果、誰も彼も最後にその同じ言葉を口にする。
「アイス溶けてるよ。」
手にしたアイスが解け、そのまま縁側の意思の上に落ちてしまう。
朧は新しいアイスを麗華に渡し、麗華の横に座る。
「ごめんな、愛理、興奮するとあぁなる所があるから、、、」
「いえ、いいんです。本当の事ですから、、」
「愛理があぁやって誰かに本音で俺以外に話すの初めて見た。
それはそれだけ愛理が君に期待しているっていう事だよ。
愛理はね、詳しくは言えないけど普通じゃない生き方をしている。
だから、他人を見下すような事しかできない価値観を持ってしまっている。
初めから同じ立場に立ってはいない。だからこそ、興味もなければ、腹が立ちもしない。だって、彼らはしょうがない下の存在だから、、
そんな愛理に君は認められているんだ。
愛理は君がいてくれて嬉しいんだ。
君は愛理と同じ世界に生きている。弛まぬ努力で真っ直ぐに、
自信を持っていいよ。愛理はあれでも君を誰よりも認めている。
だからさ、君に夢を諦めてほしくない、素直じゃないからあれでも精一杯さ。
君はあぁ、言われて絶望して諦めるような子じゃないって確信しているからだよ。」
「でも、私、自分を表現するなんて、どうしたらいいか」
「あぁ、普通自分の良い所なんてわかんないよね。そういうもんだよ。誰だっていつだった自分に自信がないものだよ。自分を迷わず信じられる人間は狂気を秘めた人間だ。
それにね、誰にも頼らず、自分を信じられる人間は魅力的に見えるかもしれないけど、それはそれでつまらないものさ、誰かに頼らない、隙のない完璧な人間はそれだけで完成されている。つまりは完結している。
人は一人でも生きて行けるけど、それは退屈だよ。
自分なら何が出来るか、分からないなら、考えるだけじゃない、聞いてみればいいよ。」
「じゃあどうすればいいんですか、教えてください」
「人の良い所を良く気付く人は、人の良い所を良くみている人、そういう人は得てして良い所が多いものさ、だってそれを感じ取って、それずっと見ているから、
僕が言える君らしさは、真摯に直向きに、つまりはまっすぐ真面目に、分かっているよ君ががんばっている事くらい、君が思う以上に、周りの人は分かっているよ。」
どこから取り出したのか、朧は新しいアイスを渡す。
「芸も武も模倣より始まる、だけど君は遠の昔にその域を超えている。
なのに君がそれを続けるのは、完璧を求めるというより、君が自信がないから、そう感じるな。
踏み出す一歩を、それが僕からのアドバイスかな、
暗闇に一歩を踏み出す勇気、遥か高みを目指し踏み出す意志。それができれば君は誰にも負けないいずれにせよ。誰かの為であれ、自分の夢のためであれ、そうできるようになるためには理由が必要さ。ま、焦る事はないと僕は思うよ。」
朧の言葉に心当たりのある麗華は一応朧にお礼を言い、帰路についた。




