宮野家
食後、騎士は早々に、戻ってきた自転車で毎週土曜の夜恒例の夜の島一周のサイクリングに向かう。騎士の唯一といってもいいアクティブな趣味だ。麗華は食べ過ぎたと後悔しながら、いつもの様にさくらの後片付けを手伝う。
鉄平はさくらとの約束で家事はしない事になっているため、二人の様子を眺めている。
「いつも、ありがとう、手伝ってくれて、」
「いえ、これくらいは、、」
「やっぱりいいね、女の子は、さくらさん。どうかな女の子」
「テツ君、空気読んで、そういうのは二人の時にして、」
「ごめんね、こういう人で、……どう、少しは慣れた?」
「はい、もうすっかり、すみません。体育館の使用許可もとってもらって」
「謝られるよりも、素直にお礼を言ってほしい所ね」
「あ、すみません、」
「ふふ、いいのよ、私が好きでやっている事だから、あ、ちょっとごめんなさい。」
さくらは家事の手を止め、携帯を手にする。
「テツ君、島崎さんのお子さん無事生まれたって。」
「ほんと、良かった。」
鉄平も携帯を手に取りタイムラインで確認し、まずはSNS上でお祝いを入れる。
「メールですか?」
「ううん、SNS、」
「あぁ、それがそうなんですか」
「テツ君の会社の人のお子さんが無事に生まれたって、そういえば麗華ちゃん、あまりそういうのやってるところ見ないわね。」
「事務所ではトラブル回避の為、メジャーデビューするまでそういうのは禁止なんです。
あんまり宣伝効果がないし、デビューしてから過去の発言が残るとまずいからって」
「まぁ、賢明な判断だね。」
「それに正直そういうのはあまり好きじゃありません。散々批判されましたから。」
「、、、、ごめんね。」
「いいえ、全然、気にしないでください。あの前から疑問だったんですけど。騎士君もですけどみなさんパソコンとかなんでそんなに詳しいんですか」
「騎士が興味があるからかな。」
「まぁ、元々僕の事務所で暮らしていたせいもあるんだけど、騎士はパソコン特にコミュニケーションツールに興味あったみたいで。小さい頃からずっとやってきたからかな。」
「こういうものって親の世代になると分からないからって最初から素人もしないことが多いでしょ、でも。親である以上、子供のやっている事には興味を持たないといけない。私たち夫婦はそう考えてるの。」
「自分の息子だから信じている。そんな一言で片づけるそういう大人にはなりたくなかったからね。理由があって信用できる。僕たちはちゃんと騎士の事を信用できる明確な理由を持っている。
今どき携帯は当たり前だし、昔よりもずっと、人との関係性の価値が大きくなって、その幅も広くなり、コミュニケーションの速度も速くなった、こういう道具のおかげでね。」
鉄平は個人携帯に会社用の携帯、それに会社用のタブレットでそれぞれ別のSNSを立ち上げた。個人用、会社用、対外用。見事に使い分けている。
「ある物は仕方がないし、麗華さんが思っているようにこういうものは怖いものだよ。
便利だという事はそれだけ凄い力だっていう事。力は使う人が使いこなさなくちゃいけない。その為にちゃんと知って、ちゃんと理解して、良い所も悪い所も分かった上じゃないと教えられないでしょ。物事の価値観を作るのは学校よりも親の役目さ、していい事、悪い事、なんでそうなのか理由も込みで納得させる形で教えなくちゃいけない。
そうじゃないと別のケースになった時自分で考えられない人になっちゃうから。」
「学校で学ぶ事、友達から学ぶことも大切よ。でも、一番身近でどんなことでも教えられるのは親しかいないのよ。いいことも悪い事も、ちゃんと考えらる子に育ってほしい。
だから分からないからや、知らないからですませちゃいけないの。」
「僕たちが教えるのは力のあり方かな。どんなことに関してもね。ちなみに騎士は海外の人と物の売り買いをしているでしょ。実はあれ、昔は僕たちが常に監視している状態でやっていたんだ。あぁいうものは子供とか大人とかそんな事は理由にならないからいい勉強になったと思うよ。」
「それだけじゃない、ちゃんと怖い所もあの子には小さい頃から見せてきた。それこそ、本当は見せるべきじゃないっていうかもしれないけど、テツ君が頭を下げたり、仕事で苦労している所もしっかり見てきた。」
「逆にそれに関しては僕がつらかったから、今じゃ、絶対に仕事をこの島に持ち込まないのが僕のルール。船までが僕の仕事、もちろん、緊急の場合とかは電話でやりとりはするけどね。」
「そして私は家で絶対に仕事の話はしないし、どんなにテツ君が忙しくても、帰ってこれなくても文句は言わない。家事は全部私がする。テツ君がどんなに大変か知っているから、せめて家の中だけくらいはゆっくりしてほしいでしょ。」
「つらい事も、楽しい事もちゃんと向かい合ってあって理解し合う。
時間をかければ誰にだってできる事だよ。
僕はさくらを尊敬しているし、世界で一番愛している。」
「私も同じ、別に人に恥じるようなことをしているつもりはないし、家の外では普通に振舞っている。それにね。私にとっても、テツ君にとっても騎士は自慢の息子なの、だからちゃんと愛情をこめて育てたいし、いつかあの子が大人になって結婚した時、理想の夫婦像でいたいじゃない。」
この二人は本当にお互いの事が大好きで、分かり合えている。
子供と向き合うために何が必要かちゃんと理解している。価値観を押し付けるのではなく、一緒に歩み寄り学んでいく姿勢。
よく目にする子供が何かをしているのを知りもしなかった。とか自分の子供の事なのに他の悪影響でだとかそれは無関心や、自分達が子どもにとってそれほど重要な人でなくなった現れなのに、何かのせいにして、誰かのせいにして。自分たちはいい親であったかのようにいう大人を渡しは見てきた。
今なら分かる、さくらさんが今が一番幸せで楽しいって言った理由が、こんな素敵な人がいるのなら、いつだって今が楽しい。明日が楽しみのはずだ。
「ごめんね。のろけちゃって」
「いいえ、本当に素敵だと思います。」
「なんなら、このままうちの子になる?」
「はは、私、騎士君好みじゃないね、、」
「ふふ、はっきり言うね、やっぱりあれかなワイルドさが足りないかな」
「違うわよ、あの子の冷めてるところが問題なのよ。ねぇ」




