才能
「あ、愛理さん。なんでここに」
「楽しそうね。」
「い、いや、その、、、」
「あの、愛理さんは何で学校に、あと俺、愛理さんが想像する事なんてありませんから」
健介は早々にプールを上がり、素早くタオルで体を拭きTシャツを着る。
麗華も、それに続くように着替える為に更衣室に向かう
「太鼓、去年の島内体育祭で、貸してたままになっていたから、まずは状態の確認よ。
ところで、なんで間違いが起こらないって断言できるの、だって今までそうだったというのは理由にならないわよ。何故ならそういう興味の対象がいなかっただけ、スタイル抜群で、美人な子が誘ってきて、他に誰もいない状況で、あなたは何もしないってどうして断言できるの。」
愛理も、健介の体に指を走らせる。健介は逃げるように身を引く
「もし、あなたが他人に興味のない人間だったり。男色というより騎士君の虜という事なら、納得しないわけでもないけど、そうね、彼女を3分間ちゃんと見て、君の体が何も反応しなかったら、君の言う事を信用してあげてもいいけど、どうする?」
「、、、、、遠慮しときます。」
「賢明な判断ね。」
「何の話ですか?」
「、、、なんでもないわただの世間話よ。それよりちょうどよかった。健介君がいるのなら、あの太鼓、少し移動させてもらっていいかしら、明日にでも取りに来させるから、玄関まで運んでもらっても」
「うっす。」
「太鼓?」
「今度の精霊祭で使う太鼓よ、祭りの開始を告げる太鼓の音、学校の太鼓、一昨年、健介君が調子に乗って変な角度で強くたたきすぎて破れちゃったから、貸してたの」
「?あの、神社の本殿に太鼓ありましたよね、大きいの、あれは使わないんですか?」
「あぁ、神太鼓の事、あれは使わないんじゃなくて使えないの。まぁ、今年は10年に一度の精霊大祭。本当であればあれを使えればいいのだけれどね」
「ダメなんですか?」
「太鼓は使えるのだけど、叩ける人がいないのよ。」
「?」
「あれは特別製で、普通の人が叩いてもちゃんと音が出ないの、それ相応の力のある人が叩かないといけないし、叩くのはこの島の若衆でないといけない。」
「はぁ、」
「つまりは適任がいないの、本当であればそうしたいのだけれどね、その方が祭も盛り上がるし、あれを鳴らさないと精霊さんも主様も来てくれないしね、」
「?健介君じゃダメなんですか」
「ダメじゃないわよ。実際に資格の有無で行けば、その一択なんだけど」
「、、、、断る。」
「この通り、本人が嫌がっている以上どうしようもないの、あーあ、健介君なら、小さい頃叩き方も教わってるし、一番の適任なんだけどな。島の皆も、島を出て行った帰省組も本当は本物の精霊大祭を倒し身にしているんだけどな。
あの太鼓なら、健介君が本気でたたいても耐えられるんだけどな、」
愛理はあからさまにわざとらしくいう。
「なんで嫌なの?いいじゃない、皆楽しみにしてるんでしょ。あんまり明確に覚えてないから、私も精霊大祭、ちゃんとしたので見たい。」
「そうね、あの太鼓の音があれば私も3割増しで、うまく歌って舞える気がするんだけど、」
「、、、他の人がどうとかそんなの自分関係ないんで、あの、俺、運んだら帰りますから。」
「ちょっと、なんでそんなにいやなのよ。いいじゃない。あ、そうだ、私に水をかけた罰でその役引き受けてよ。私、健介君が太鼓叩くところ見てみたい。」
「さっきのプールでチャラだ。何と言われようとも、嫌だ。それじゃ俺は運んどきます。」
健介は二人を残し、一人太鼓のある校内の倉庫に向かう。
「あーあ、説得失敗。やっぱり、妥協するしかないかな。」
「なんで健介君嫌がってるんですか?」
「島に囚われるのが嫌、かな。」
「島に囚われる?」
「要はこの島が嫌い。ううん、この島にいる大人が嫌いといった方がいいかな、そんな大人にはなりたくない。そんな大人たちが喜ぶ事なんかしたくない。俺はお前たちとは違う。
てね。彼ね、家の為に色々手伝ったりしてるけど、本当はご両親の事が殺したいほど嫌いなの。ただ妹さんと弟さんがいるから仕方なく普通の家族を演じているだけ。お酒浸りの父親と、すぐにヒステリックを起こして自分の事だけしか考えない母親。
彼がトレーニングをしてるのも、そんな親の暴力に抵抗するためだった。
でも、お父さんが海の事故で体が思うように動かなくなってからは、急に弱気になり健介君を頼るようになった。あれだけ強気でいたのに、かなわなくなるとすぐに手のひらを返したように。でも、結局そこからもご両親は変わらなかった。父親はお酒も止めない、一日中漁協の事務所で偉そうにしているだけ、母親は家事もしない対面だけを気にして化粧や付き合いばかり、このクズどもが。それが健介君の心の中。
彼はね、両親に何の期待もしていない。でも、今の自分が一人で何とかできるとも思っていない。大学に行けるお金もないし、このままだと父親の紹介で漁師になるしかない。そうして取り込まれていく、それが嫌でしょうがない。
だから今は耐えて、一発逆転を狙っている。叶わない夢をね。」
「敵わないって、何で決めつけるんですか」
「あら、意外ね、肩を持つなんて。簡単な事よ、彼が野球でプロを目指すと言った所で、野球は団体競技、見様見真似の自己流で何とかなるものじゃないの。体は出来ているけど、それだけよ。一流の肉体ができてるからってどのスポーツでも一流になれるわけでもない。それだけじゃどんなスポーツでも通用しない。
まぁ、それでも可能性は0じゃないけど、私は無理だと思っているわ。
あぁ、話が少しずれてしまったわね、なんで太鼓が嫌かという話。結局、島が嫌いという言葉に集約したけれど、10年前の精霊大祭で神太鼓を叩いたのが彼のお父さん。
彼のお父さんがある意味一番輝いていた瞬間で、結局そこが一番憎むべき象徴。
太鼓を叩くのが自分であるのは、父親の誇りを受け継いだことになってしまう。
それが彼の中で許せない。そういう事。それじゃ、私は帰るわね。
健介君によろしく言っておいて、
あぁ、それから麗華ちゃん、明日からお昼頃神社にいらっしゃい。精霊祭の歌と舞を教えてあげる。一人で同じことの繰り返しじゃ飽きるでしょ。」
愛理は携帯を取出し、音楽を流す。それは麗華の一番大好きなつばさの曲。
それを愛理は完璧に踊って見せる。自分よりもずっと上手に、だが、つばさのマネではない、力強さこそつばさのそれではないにせよ、流れるような踊り。
完全に自分のものにしている、それは愛理にしか踊れない愛理の舞。
「愛理さん、つばささんのファンなんですか?」
「まさか、あなたの憧れがどういう人か興味を持っただけよ。
練習もしていない、動画で見ただけよ。どう、本物の天才を見た感想は、」
圧倒的な才脳。すごいと思うが、それ以上に悔しい、こんなに軽々と、思い入れもなく、好意もなく、ただ才能だけでこうも簡単に、、、
「歌と言い踊りと言い、つばささん以上の天才初めて見ました。プロには?」
「興味がないわ。私努力するのが嫌いなの、それに私の歌も踊りも朧兄様と精霊、そして主様たちの為だけのもの、有象無象の民衆のためのものじゃないわ。
ムカつくでしょ。何の努力も、思い入れも、志もない人間に出し抜かれるのは
だったらまずは結果で示しなさい。私に負けていると思っている限り、私には勝てないわ
どうせなら、私の土俵で勝ってみなさい。精霊祭の為の歌と舞でね」




