精霊伝承
麗華が視線を騎士の指先に向けるといかにもという石の階段が続いているそれほど段数は多くはないが、急な段差に思わず身構える。
やめておこう、そう思った時、上の方からわずかに声が聞こえる。それは声じゃない歌だ。
「誰かいるんですか?」
「拝殿ならともかく、本殿ですからね、いるとすれば朧さん、でも今は多分下の拝殿に…」
「誰かが歌ってる、、、」
麗華はその声に惹かれるように階段を上がり始めた、小さいけれども、この蝉の声の中でも他しかに聞こえる歌声、歩を進める程にその声は大きくなっていき、騎士も声の主がだれか理解できた。
麗華は先ほどまでの疲労も嘘のように、ただただ声に導かれる。
自分にはない、本物の天賦の才。
つばさとは声質は違うが、同じ次元の声、なんでそんな声の人がこんな場所に、ただ才能だけで人を魅了できる歌声。
階段を上り終えると、和服を着た女性が境内で歌っている。
ゆっくりではあるが力強く、全身を使い歌っている。彼女の視界に写る位置に立ってはいるが、彼女視線は動かず、まるで気づいていないかのように歌を続ける。
「なんていっているか分からないでしょ、あれはね。愛をうたう歌でも、悲しい歌でもなく、精霊に捧げる歌。人には意味をなさない歌なんだ。」
「精霊?」
「そう、ここから見えるあの小さな島。あそこはね、精霊が住んでいて人が足を踏みいれちゃいけない場所なんだ。もっともあそこは海流が厳しくて近寄るの難しくて近寄れても全面の崖になっているし、島の上は森でヘリで近寄るのも難しくてそうそう近寄れるものじゃない。それにあそこに無理して入っても何もない。
でも、この島の人たちは、あそこに精霊たちが住んでいると信じている。
その精霊たちに感謝とお願いをするために年に一度この島に招き入れる。
その際にそれが精霊祭。その精霊祭に必要なのがあの歌だよ。あれは、精霊たちが虹の橋を渡ってこの島に来るための道しるべ、要は灯台みたいなものだね。
月夜に照らされ、神の音奏で、始まりたるは常夜の宴。
現世の民の歌の音誘われ、虹橋渡りて渡てくるは、現世の主に、万物守る精霊達。
一夜限りの宴は続く、数多の願いを聞き届け、
冥府の主は扉を開き、愛しき人との邂逅を
大地の主は契りを結び、豊作を
海の主は願いを解し、命の恵みを
空の主はその意をくみ取り、雨を、光を
ここは虹島、世界を繋ぐ橋の袂。
やがて宴は終わりを迎え、愛しき人は冥府へ戻り、精霊、主は居場所へ帰る。
次の宴は10の年月。変わらぬ音が響くなら、変わらぬ敬いあるのなら、
我らは再び招かれよう。
この島に伝わる精霊伝承。要は、この島独自のお盆みたいなものだよ、生きてる人も死んでいる人も、精霊も海の神も山の神も皆でどんちゃん騒ぎをしましょうと、そこで直接神様に欲望をぶつければいいじゃね的な話だよ。
最もただの伝説だけどね、今年も普通に台風で土砂崩れ起こしているし、魚もあんまり取れてないしね。あれはそんなカビの生えた伝承の名残だよ」
「朧さん。こんな時間に、本殿にどうしたんですか?」
後からやってきた騎士がジャージ姿の朧に話しかける。
「夏の間は基本こっちだよ。知らなかった?初めまして寒川麗華殿。アイス食べる?」




