既知宇宙生物カタログ #V3-G4-AL
【第8回フリーワンライ】
お題:七夕、年に一度の逢瀬、銀漢の雫
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
人類はよく己をして「霊長類」などと宣う傲慢な生物であるが、その傲岸不遜な態度は既知宇宙の生物分類にも遺憾なく発揮されていて、現在の分類学上では地球人類は#AAAAAAAA――すなわちストレートAということになっている。
不完全かつ不統一で幼稚な生命体であるにも関わらず、生命の基準点を自称して憚らないのは、なんともお笑いぐさである。
閑話休題。
既知宇宙生物カタログには、生命のない無生物でありながら、生物的特徴を備えているために採録されている存在がある。
それは地球人類も居を構える天の川銀河系を構成する渦状腕の一つ、ケンタウロス腕の辺境にあった。
そこには公転軌道の異なる二つの惑星があった。別々の星でありながら、とてもよく似た特徴の双子星である。
それらは年に一度の公転周期で、激突寸前の軌道ですれ違った。
ちょうど地球の東アジア地域で言うところの七夕の時期、一年に一度の周期で超接近、邂逅することから、織姫と彦星になぞらえてCベガ、C・アルタイルと呼ばれた。本家織姫と彦星であるところのこと座α星ベガ、わし座α星アルタイルにとってはいい迷惑であろう。
さてこの双子星には、知的生命体と呼べるような生物はいなかったが、惑星超接近の際に生じる重力異常に耐え得る強靱な植物が幅を利かせていた。そしてその植物が、この双子星“そのもの”が無生物でありながら生物カタログに記載される一つの要素を担っている。
毎年、双子星がニアミスコースに入ると、惑星の重力がお互いに影響を及ぼし合い、惑星内部の内圧が急激に高まって、もう辛抱溜まらんとばかりに、地表の一部で超巨大な爆発が生じる。
割れた地面は岩塊となって打ち上げられ、大気圏を突き破って宇宙空間にまで舞い上がった。惑星からの噴出物は勢いそのままに宇宙を漂い、双子星の中間点、お互いの重力を打ち消す重力飽和地帯にまで達する。
C・ベガとC・アルタイルの地表物はそこで混じり合い――そこに含まれていた植物は、まるで示し合わせたかのように互い違いのつがいを作って受粉した。
やがて双子の接近が頂点を越えると、重力は弱まって飽和地帯は消滅し、まるで惜しみながらも離れていく恋人たちの手のようにゆっくりと地表物は別れ、故郷の重力に引かれて戻っていった。
双子星はこうやって新たな遺伝子を獲得し、植物の進化を促進させていた。
その様が生物の性交渉のように思われたことから、双子星のC・ベガとC・アルタイルは既知宇宙生物カタログの一片に“宇宙のどこにでもよく見られる珍しい一例”(広大な宇宙では人類のちっぽけな分類に適さない珍妙な例が数多く存在する)として、#V3-G4-ALのナンバーを付されて紹介されているのである。
尚、夢見る恋人たちへ老婆心ながら忠告を添えておくと、世にも珍しい双子星を新婚旅行先に選択するのはあまりおすすめ出来ない。
なぜなら、この双子星――C・ベガ、C・アルタイルはもうケンタウロス腕に存在しないからである。それどころか天の川銀河のどこにもない。
双子星のこの性交にも似た現象は、恐ろしく緻密な均衡の上に成り立つものだった。言い換えるなら、いつ崩れてもおかしくない不安定なものだったのである。
不幸にも、観測のために割って入った探査プローブのために均衡は破られ、C・ベガとC・アルタイルの重力はお互いを完全に捉え、まるで今生の別れに際してするような強烈な抱擁を行い――つまり有り体に言って衝突し、二つの惑星は木っ端微塵と消えた。
最早、一年に一度邂逅する双子星は宇宙のどこにも存在しない。
ただ……その宙域には、二つの惑星とは異なる軌道を取る、新たな惑星が残されているのみである。
そのケンタウロスの織姫と彦星の子どもには、まだ名前は付けられていない。
尚、天の川銀河の辺縁での出来事とはいえ、惑星の衝突による余波は人類のゆりかごたる太陽系第三惑星にまで到達した。
極東の詩人はその余波をして、織姫と彦星が産みの苦しみで流した涙――「銀漢の雫」と呼んだ。
実に詩的でセンチメンタルな名称ではないだろうか。
また特に付け加えなければならないのは、その「銀漢の雫」の衝撃波によって月面都市、宇宙ステーション、及び東アジアの都市部一帯は少なくない被害を被り、実に詩的ではない損害額を計上するはめになった。
『既知宇宙生物カタログ #V3-G4-AL』・了
またしても『銀河ヒッチハイク・ガイド』リスペクト。
後ほんのり『レンズマン』をパロってみた。分類ストレートAだなんて、実にアメリカ的というかマッチョな発想よなぁ。
何度でも繰り返しますが、関西人は茶化さないと生きていけない人種です。