暗黒事件 5
その同時刻にはアンダーソンが指揮する特殊部隊がジェヌス・コミューンの本拠地と各地に点在するアジトを占拠している。それと同時にコミューン幹部逮捕の報を聞いたアーチが即座にからくりを作動させた。それはチェスター飛空場の凄惨な映像と同時にレウレトの安否と所在不明をマスコミが一斉に報じさせるというものだ。情報と憶測が飛び交い半ば混乱する中、ただ一人このニュースを冷静に分析している男がいた。ジュストだ。そのジュストがひとしきりチャンネルを切り替えて電源を落とすと、持っていたリモコンをテレビに投げつけた。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
言いながら立ち上がって今度は山積みされた書類を派手にぶちまけた。
「おれはなにを浮かれていたんだ! 道化もいいとこではないか! なんてことはない、おれはあの二人にまんまと出し抜かれたのだ。これからまた戦争が始まるのだ」
ジュストの予見は当たった。上役審議会は記者会見にて逮捕されたコミューン幹部全員がレウレトの暗殺を計画していたことを全面的に認めたことを発表した。もちろん飛空船爆破の犯行も含めてである。さらに暫定国境線に位置するコロラド川沿いの都市ニードルズの監視カメラがコミューン指導者マーカス=ギルロイを捉えていた。その映像が公開されると米帝全土で反欧州運動が激化した。そのタイミングでアーチが外相として「極めて遺憾」云々のコメントをインタビュアーに答える。そうしてレウレトが軍広報の記者会見にてコメントする。それはジュストの支援パーティーで語ったのと変わらず、
「民衆の代表である州知事と帝国議会の推薦する枢機院議員が投票し、最終的には陛下の御裁可を賜るものだろう」
というものだ。米帝の英雄が五体満足でカメラの前に現れた効果もあってか、以前はジュストの戦争終結宣言として使われた文言が民衆にとってこれ以上ない宣戦布告に聞こえたに違いない。その後に行われた臨時の帝国議会はものすごい熱気にあふれていた。労働党議員が得意顔で演説する度に堂内に拍手喝采が沸き起こった。民主党議員が一言発する度に怒号と野次が荒れ狂った。事態を重く見た当時の軍事委員長であるネルロ=ロッシが慌てて閉会のベルを鳴らす。なにも出来ずに終始無言でいたジュストをアーチが労働党の議席から冷然と見下ろしていた。
翌月に開かれた枢機院議会の御前会議は先に行われた帝国議会とは打って変わって静かに、そして粛々と進行されていた。計十一人からなる枢機院議員の投票が始まる。円卓に座った議員が一人ずつ賛成の白札を重ねていく。アーチはもちろんレウレトも白札だ。最後にジュストが白札を置き、諦念した面持ちで静かに席に座る。侍従長のクリムト伯が投票箱を持って厳かにランカスターの前で白札を並べていく。一瞥したランカスターが勅命を発令する。
一九九二年九月十六日、米英帝国は四年に渡った停戦協定を破棄し、欧州共和国に宣戦布告した。その戦勝祈願を兼ねた観兵式、祝砲打ち鳴らして紙吹雪舞う中、ホワイトパレスの大庭園には十万人の群集が一斉にユニオンジャックを手に持ち振るっている。
「皇帝陛下、万歳! ルクレール将軍、万歳!」
そういった群集が見上げる楼台には三人の男が立ち並んでいた。一人は暗緑色の礼服を着て静かに手を振っている。一人は深紫の軍服に黒地のマントを靡かせている。もう一人は濃紺のスーツを着て溌剌と手を振っている。そうして三人はそれぞれ別の方向を向いていた。一人は傀儡士として、いま一人は英雄として、もう一人は民衆政治家として。文豪ゴール曰く、これ自己一身の栄達。




