暗黒事件 2
それで二人が茶番劇を演じる舞台に選んだのがジュストの運営する支援団体主催のティーパーティーであった。慈善病院の中庭や学校の校庭などを会場にするパーティーにジュストの政治活動を支援する中流層の民衆を中心として財界人から貴族の名が連なり、さらには宣伝のためにマスコミも招待されていて、その中心には民衆指導者たる彼がハンサムな容貌に人懐こい笑みを浮かべて一人々々に握手を交わしている。
ジュストの一番にする仕事とは大衆を味方につけることだ。その大衆が求めるものはパンと仕事だ。その大多数は国外から流入してきた難民や移民であり、奴隷として使役されてきたシェイン族である。――自由と平等と博愛を!――というスローガンを掲げ、人間が人間らしく生きるための権利、言うなれば純粋なる生存権を彼らの手に帰するためにも早急に戦争を終わらせなければならない。そのための世論を発信しようというのが国民の代弁者たる彼の狙いだ。カメラを通して国民に解りやすい言葉でジュストが記者の質問に応じている。と、なにやら外では騒ぎが起こりはじめていた。記者団も何事かとざわついている。今度はパーティー会場の方で歓声が一気に湧いた。さらにその歓声が大きくなって潮のごとくこちらに向かってくる。
――いったいこれはなんの騒ぎだ。これからおれが重大なメッセージを発表しようという時に、水を差そうとする奴は誰だ?
そう思いつつ不安げな表情をしてジュストが目配せしていると、彼の秘書の役目もしているバルバロッサが近づいて耳元でこう囁いた。
「ルクレール次帥閣下がこちらに向かっているそうです」
それを聞いてジュストは顔を強張らせた。しかし動揺を見せないように努めて冷静に、
「わかった」
とだけ返事して、きりきりと頭を働かせて喜びの色を表情に付け足して、それから周囲の記者団に言った。
「諸君、どうやらゲストがこちらに到着したようだ。紹介しよう、我らが友にして米帝の英雄、レウレト=フォン=ルクレール氏だ」
そうジュストが手で指し示すと、いつもの七対三の赤髪に大きな赤のサングラスを掛けた、深紅のスーツに身を包んだレウレトが英姿颯爽と記者会見場に現れた。
――なぜルクレールがここに? 奴の狙いはなんだ? なぜこのタイミングなんだ? くそっ! 相も変わらず能面みたいな顔をしていやがる。
そんなふうにジュストが腹の内を探っていると、背の低い脚の短いレウレトがつかつかとこちらに近寄ってきて、おもむろにサングラスを外して傍に立つと骨だらけの手をこちらに差し出すではないか。ジュストが"つい"反射的にその手を取って握手すると、二人に向かって一斉にフラッシュが瞬いた。それでジュストはレウレトのこれからすることを直感した。
――しまった! これではルクレールを無下に出来ないではないか。いったいこいつはおれになにをさせようと……。
そんな風にジュストが考えていると、ふと一人の記者がレウレトに質問した。
「次帥閣下、今日はどうしてこちらに?」
「一友人としてドルオール卿を応援しに来たのだよ。かねてから我が輩は卿の難民政策に賛同していてね」
「なるほど、では欧州との終戦協定に向けての動きが活発化していきますね。その事に関連した閣下のコメントを……」
「軍人としての意見だが、欧州との終戦条約締結に関しては民意に委ねるとしか言いようがない。特に軍事に関しては然るべき手段を経てのちに判断されるべきである。それが文民統制の正しい在り方だからだ」
――よくも白々しく言えるものだ。貴様がアーチと組んで反対していたのをおれは知っているのだぞ。
そうジュストが苦々しく思っていると今度は違う記者がレウレトに質問した。
「閣下、然るべき手段というのは?」
「それはもちろん決まっている。民衆の代表である州知事と帝国議会の推薦する枢機院議員が投票し、最終的には陛下の御裁可を賜るものだろう。最初に申したように、我が輩は軍人である。然して米帝の一市民でありながら恐れ多くも枢機院に末席を置いている。そして幸いにも我が輩はこうして並んでいる卿の友人である。卿は必ずや米帝市民代表としての責務を果たすであろう。友人として、一市民として卿を応援することを重ねて申し上げたい」




