レティシア 3
「オレはレウレト、あんたがルブランか?」
男が呑んだ煙を吐きつつ返事した。
「ああ……、なんの用だ? って、俺は医者だったな」
「知ってるぞ、だからここに来た。助けて欲しい人がいるんだ」
「俺は貧乏人を診ない医者なんだ」
「金ならある」
そう言ってレウレトがポケットから金貨を三枚取り出してそれを見せる。額に眉根を寄せ、無精髭を手でさすりつつルブランが言った。
「ぼうず、出直すんだな。端金じゃ俺は診察もしないんだ。なんせ無許可でやってるんだ。保険も効かないし、それ相応のリスクを"しょってる"ってわけだ。すまんが他を当たってくれ」
それくらいの事はレウレトも知っている。だから彼が自身の耳を指で示してこう言うのだ。
「"ここ"にちゃんと用意してある。これを売れば、あんたに金が入るはずだ」
レウレトを一瞥し、それから溜め息混じりに煙を吐き、こんもりと吸い殻が積まれている灰皿にタバコを擦りつけながらルブランが言った。
「レウレト、だったな……、本気か?」
そう確認すると、レウレトがきっぱりとこう言い切った。
「母上の命が懸かってるんだ!」
「やれやれ……、わかった。外に車がある、道案内してくれ。ああ、その前に容態を聞かないとな」
ルブランの腕は確かで、適切な処置のおかげでレティシアの熱は下がり、一命を取り留めることができた。それを見届けると、レウレトは母親を守るようにピガットに言い付けて、ルブランの車に乗りこんだ。
「なあ……、本当にいいのか?」
ルブランが煙を吐きながら尋ねると、レウレトは答えた。
「約束は守るものだと、母上が教えてくれた」
「そうか……」
言ってルブランはタバコを窓の外に投げ捨てた。
* * *
レティシアが目を覚ますと、ベッドに寄り掛かり、頭にガーゼを当て、包帯を巻いたレウレトが眠っていた。レティシアが起きたことにピガットが気づき、レウレトの頬をつついた。
「うん? あ……、母上、気分はどうです?」
「ええ……、だいぶ良くなりました」
「良かったです、酒場のマスターには話しておきました。ですから安心して休んでください」
「そう……」
「母上、お粥を作りました。しっかり食べて、そのあと薬を飲んで下さい」
「ありがとう、レト」
母親にそう呼ばれて、レウレトは照れ臭そうにはにかんだ。
それから一週間、レウレトは母親の看病をして過ごした。流石にレティシアの代わりに酒場で働くことは出来ないから、彼は看病の合間に母親に教わりながら内職をしたり、日の昇らないうちに薔薇の様子を見に行き、帰りにその薔薇を売っていた。その間にルブランが診察という大義名分を掲げて、なにかと理由をつけては毎日欠かさずレティシアの元にやってくる。もちろん見舞いの品は忘れない。この時もまたルブランが花束を持ってやってきた。
「気分はどうだ?」
「あなたのお陰で良くなったわ」
「花、代えておくぞ」
「いつもありがとう」
「よしてくれ」
言いながらルブランが水桶に持ってきた花を入れ、水中で茎を切る。
「ねえ、ルブラン」
「なんだ?」
「どうしてレトが頭に包帯を巻いているのか知ってる? 訊いても気にしないでの一点張りで、教えてくれないのよ」
聞いて、ルブランの持つハサミの動きが止まった。
「まあ……、そうだろうな」
そう言いつつルブランが濡れた手を拭いて、花瓶に花を活けたあと、レティシアの寝ているベッドの傍に寄り、椅子に腰掛けた。そしてレティシアを興奮させないよう、ゆっくりと事の顛末を語り始める。レティシアはベッドから体を起こし、時折顔を強張らせながらルブランの話を聞いていた。




