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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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暗黒事件 1

 レウレトが次帥となってから丸四年経った一九九二年八月九日、ランカスターの強制介入に端を発した北米大陸を舞台とする欧州と米英との五十年にも渡る戦争は彼の出現により終息しつつあった。


いまや米英帝国は南にメキシコを属国として南米との通商を行い、北はカナダを相互不干渉とする不戦条約を欧州に締結せしめたことにより米帝の戦略的優位性は確立したと言って過言ではあるまい。そう予見した内相のジュスト=ドルオールは米帝の最終決定機関である枢機院にて欧州に無条件降伏を勧告する議題を提議した。しかるに皇帝ランカスターを交えた御前会議の事、ジュストが先の議題の採決を取ろうという時に外相のアーチが体調不良を理由に席を外した。それで会議は一時中断されて午後の休憩を挟んで再びジュストが採決しようしたのだが、今度は同席していたレウレトが席を外してしまう。なんでも軍情報部から緊急連絡があったのだそうな。しかしそれはレウレトとアーチが事前に示し合わせたもので、無条件降伏を勧告するには反対という意思表示であった。


 アーチの反対する理由は実に彼らしいものである。自身の経営するテールノワール・インダストリーと傘下にある関連企業はもはや軍産複合体とも呼べるものとなっており、戦争をすることによって利益をあげていたためだ。そして欧州に対する賠償請求、西部開拓に於ける通信や交通網といったインフラ整備、港や鉱山、油田の発掘権等およそ経済に関することならこれら全て関与できるようにしたいのだ。徹底した現実主義と資本主義に依る彼には米帝を中心とした全世界経済を牛耳るという野心があったのである。


 方やレウレトの反対したる理由は彼自身の確固たる権力基盤を得んがためであり、自身の理想とする国を創らんとの野望からきている。米帝から欧州を完全に駆逐することで今後の米帝主導に於ける新世界全てを属国とするためにも前例を作っておかなければならない。米帝の圧倒的勝利をもって全世界に顕現けんげんせねばならない。絶対王政から個に於ける人間のあらゆる権利を民衆に帰するという革命思想を発信することで、自由と平等の具現者、全民衆の救済者たらんとの使命感が彼の中に躍動していたのだ。それにはやはりいま一度欧州と干戈かんかを交えなければなるまい。そうして談判交渉の場に欧州を引きずり出して米帝の完全独立を認めさせる。このようにレウレトは自身の革命を確実に、そして早期に実現可能な”野望”としていた。言わば前者は傀儡かいらい的に世界を動かさんとし、後者は英雄的に民衆を動かさんとしていた。しかしながら両者の思想や行動原理は全く別の方向を差していたのだが、ここに於いて互いの利害打算心が奇妙に一致したのである。


 結局のところ、一ヶ月も前から準備してジュスト自ら原案を書き上げた無条件降伏の提案は先送りされることとなった。枢機院からの帰路の途上、車中のジュストが執事のバルバロッサにこう言った。


「狐とナポレオンが私をのけ者にしている。それならば私にも考えがある」


 そうして明くる日にまた御前会議が行われたのだが、


~~


 陛下におかれましては風邪に(かか)った病身を御前に運ぶに忍びなく、玉体にもしもの事があらば議員のみならず民衆からのそしりりを浴び且つ国賊の汚名を身に纏いつつ恥辱に塗れて生きるにはあまりに耐え難し。


~~


 とジュストの記した書がランカスターの許に届き、致し方なしとして御前会議は中止となった。アーチとレウレト同様にジュストもまた無言の抵抗を試みたのである。さてどうしたものか、あの公明正大で曲がったことが大嫌いな頑固者の熱血漢をどうやって説得しよう。ジュストの屋敷に行ったとしてもなにかと理由をつけては居留守を使うに違いない。かといって書簡を送ってもごみ箱いきだ。いかにすべき。そんな風にアーチとレウレトが競売の行われるロシア大使館にて二人きりで密談を交わしている。人を小馬鹿にした態で眉をピクリとも動かさずにアーチが言った。


「衆目の集まる場所で茶番を演じればいいのさ」


 レウレトもまた鉄のような顔をして返事した。


「要はジュストの顔を立ててやればいいのだな」

「そうだ、それともう一つ芝居を打つ」

「具体的には?」

「反政府の過激派共が近々に活動を開始するらしい」

「きみが追っていた"ジェヌス・コミューン"か」

「追っていたのではなく、泳がせておいたのだよ。どうやら彼らの後ろには欧州がいるようだ」

「まさか、ユグラテリアが?」

「いや、ガリカが糸を引いているらしい。コミューン指導者のギルロイと接触したのを確認できた」

「ガリカか、欧州もとんだ爆弾を抱えたものだ。目的は?」

「きみの暗殺だよ」

「なるほどな、きみの筋書きは分かった。対策は講じておこう」

「あとの事は任せてくれ、これでジュストも納得せざるを得ないだろうよ」

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