幸福の絶頂 4
「これはおれ達が着るサンタクロースの衣装だ。レティママに作ってもらったのだぞ、ありがたく思いたまへ」
「すごいっぽ! ものすごくかっこいいっぽ!」
「これはたまげただあ! レティママさあ後でお礼言わなきゃなあ!」
「うむ、我が輩の大きな体にもぴったりなのである」
言って三匹が衣装を着て互いに見せあっている。
「うんうん、みんなよく似合っているぞ。さて、作戦の続きを説明するぞ。クリスマス当日の深夜におれ達がこの衣装を着て子供達の家に行き、プレゼントを枕元に置いていくんだ」
そうピガットが言った途端、パンプティが頷きつつ返事した。
「なるほど、ようやくこの作戦の効果が理解できたのである」
「どんな効果だっぽ?」
そうポーが小首を傾げるとペレゴリーが答えた。
「怪獣も寝ていれば怖くねえべよ。寝ているところにこっそりプレゼントさ置いてしまえばおら達は安心だっぺ」
「なるほどだっぽ、ピガットはすごいっぽ!」
言ってポーがモキュモキュと拍手をするとピガットが踏ん反り返っていた。
「よし、役割を説明するぞ。荷物持ち担当はパンプティだ」
「わかったのである、力仕事は我が輩に任せるのである」
「ペレゴリーには排気ダクトに少し細工してもらうぞ」
「わかっただ、あすこなら入るのと出るのもやりやすいべ。それに家の見取りもおらあの頭に入ってる。したらいまのうちから庭仕事の合間にやるべ」
「よしよし、ポーには見張りを頼むぞ」
「わかったぽ、ピガットはどうするんだぽ?」
「決まっている、おれがプレゼントを置きにいくんだ」
「暗いダクト内でも光るピガットが適任なのである」
「なるほどっぽ、怖いクリスマスが楽しみになってきたぽ」
「よし、いまから準備開始だ、成功を祈る」
言ってピガットが敬礼したその時、思ってもみない闖入者がこの遊戯室にやってきた。赤い巻き毛に小さな犬耳、その頭には緑のとんがり帽子を被ったピエロの幼児服をきた子供が部屋の戸口に立っている。その青いまるい目をしてじーっとこちらを見つめたあと、
「わんわんみっけ!」
そう言って指差しつつおぼつかない足取りでこちらに向かってくるではないか。そうしてピガットをむんずと掴んで頭上に掲げて、
「ぴいちゃん!」
と誇らしげに恍惚の表情を浮かべて名前を呼んだ。そのあまりにも突然の光景にパンプティ、ペレゴリー、ポーの三匹はまるで神話の世界に魅入られたかのように唖然した。ややあって太古のような静寂を破らんとピガットが四つ脚をピコピコさせつつ言う。
「ルイ! どうしてここに?」
「マーマはまだ寝ているの、だからぴいちゃん探していたの。ぴいちゃん遊ぼ!」
「い、いや、いまからおれはレトのところに……」
「ルイもいっしょに行く!」
言ってルイと呼ばれた子供がピガットを丸めようとする。
「ま、待つんだ! おい、パンプティ?」
「わ、我が輩用事を思い出したのである!」
「ペレゴリー、助けてくれ!」
「お、おらあビニールハウスのイチゴさ世話しなきゃならねえの思い出しただ!」
言って二匹は木の葉を散らすように飛び立ってしまう。
「お、おい! なあポー、おまえはおれを助けてくれるよな?」
子羊のような目をしてピガットが訴える。しかし、
「ぽ、ポーは確かレティママとお菓子作りを手伝うんだったぽ……、ピガットごめんぽ!」
と犬耳をばたつかせてポーも飛んでいってしまった。
「あう、みんな飛んでっちゃったね」
「そ、そうだね……。さ、ルイ君、いい子だからいますぐおれを放すんだよ、いいね?」
「やだ! はなしたらぴいちゃん逃げるもん! だからルイの帽子の中に入ろうね」
「ちょ、まっ、きおおおおおおおおおおお!」
* * *
ボルティモアの庭に雪降り積もる。
いまレウレトは書斎にて床一面に作らせた西海岸を模した大ジオラマの上に立っていた。これは米帝の第三軍団、これは欧州の機動化中隊、これは兵站を輸送する飛空船、そういった具合に模型を動かしている。一息入れようと大ジオラマから下りてコーヒーを飲もうとした時、開け放ったドアのほうからコトリと音がした。そこには緑の三角帽子、赤い巻き毛に小さな犬耳をしたピエロ服を着た子供がドアに寄り掛けていた。そうしてつぶらな青い瞳をきらきらさせて、
「あ、あ、あう」
とよちよちこちらに向かって歩いてくる。
「ルイ! さあおいで!」
呼んで満面の笑顔をしたレウレトが両手で抱きかかえた。
「パーパ!」
「おおよしよし、パーパと一緒に遊ぼう」
言いつつレウレトがジオラマの上に立ってルイをロサンゼルスに降ろす。まずルイの眼に飛び込んできたのはロングビーチに係留している軍艦五隻だ。そのうちの一つを手に取ってまじまじと見つめると、
「おふねだ!」
と言って手に持った軍艦を滑らせて残り四隻目掛けてぶっつけた。




