幸福の絶頂 3
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ボルティモアにあるルクレール邸には実に百名以上もの人々が働いている。彼らの仕事は実に様々で、それは果樹園や薔薇園と屋敷の手入れを主とする庭師であり、屋敷内の清掃から客への接待を主とするメイドと、それからこの屋敷で働く人々の食料を調理する料理人がいて、ルクレール家の執事デューイが指揮している。これだけの人が働いているとなると当然ながら恋人関係になり、やがては結婚して夫婦となり、家族を持つようになる。そして六歳以上の子供達は屋敷内に作った学校に通い、デューイを中心とした教師達が教鞭を執っている。では六歳以下の子供達はどうしているのかというと、基本的には同じ屋敷で働くメイドが世話をしているのだがやはりそれでも行き届かない部分をピガット達四匹のわんわんおが補っている。その四匹が子供達の居ない遊戯室に集まってミーティングを開いていた。
「おはよう諸君、連日の激務ご苦労」
三匹のいる前に置いてあるティッシュ箱の上でピガットが言った。
「今日は休日のはずである、もう少し寝かせて欲しいのである」
ずんぐりとした体になすび色をしたパンプティが猫のような瞳を擦りつつ太い声を響かせる。
「んだんだあ、せっかくの休みだというにピガットさがこっだら時間に起きてるのが不思議でなんねえ」
ステテコに腹巻をしたペレゴリーが独特のイントネーションでそう言うと、
「そうだぽ、きっと今日は槍が降るぽ」
と銀色の毛をしたポーが返事した。
「まあまあ落ち着きたまへよ諸君。今日集まってもらったのは他でもない、いよいよ来週に迫ったクリスマスパーティーの件についてだ」
ピガットがそう言うと三匹の間に戦慄が走った。
「あの……、クリスマスなのであるか?」
「そうだ」
「子供達が怪獣化するっちゅう……、あのクリスマスだべか?」
「そうだぞ」
「クリスマスこわいっぽ!」
そう大声を張って後ろに振りむこうするポーに向かってピガットが、
「任務放棄は重罪だぞポー君」
そう言うとポーは犬耳をしょんぼりとさせて元いた位置に戻った。
「みなが怖がるのも無理はない、確かに昨年のクリスマスは大変な目に遭った。普段でさえ暴れ放題叫び放題の子供達がさらにすごい興奮していたからな」
とピガット。
「我が輩はもうこりごりなのである」
とパンプティ。
「おらあ次の日寝床から動けなかったべ」
とペレゴリー。
「ポーもずうっと寝ていたぽ」
とポー。
「さすがのおれも日課のパトロールをサボったくらいだ。それもレトの奴が悪いんだ。いきなりサンタの変装したあいつが現れて、しかも大量のおもちゃを配り始めてからおかしくなったんだ」
「我が輩もよく覚えているのである。最初は一人一人に配っていたのである。けれども急におもちゃを床にぶちまけたのである」
「思い出しただ……、それから子供達が怪獣になったんだべ。あの時の子供達さ目は忘れようにも忘れられねえべさ……」
「ポーもよく覚えているぽ。ピガットはおにぎりされてあちこち飛ばされていたぽ。パンプティはずうっとおままごとのお父さん役をやらされていたぽ。ペレゴリーは着せ替え人形になっていて、ポーはずうっとワオレッドと戦っていたぽ……」
そこまで言うとピガット達わんわんおはお互いに顔を見合わせて、それからげんなりした。
「諸君、嘆いていても仕方ない。だがおれは前回の失敗を繰り返すまいとこの日まで秘策を考えてきた」
「どんな秘策であるか?」
そうパンプティが尋ねるとピガットが不敵な笑みを表情に浮かべて、それから口を開いた。
「よくぞ聞いてくれた、名付けてサンタクロース作戦だ」
「さすがはピガットさだあ! どんな作戦かおらあに聞かせてくんろ!」
「ポーも聞きたいぽ!」
「よしよし、さっそく計画を説明するぞ。まず今日からおれ達は子供達にサンタクロースが本当にいることを信じさせるんだ」
「どうやってやるのである?」
とパンプティ。
「子供達一人一人にサンタの話をしてやるんだ」
「したっけ、それだけじゃ足りねえじゃねえべか?」
そうペレゴリーが腹巻を直しながら言う。
「もちろんこれは作戦の第一段階にすぎない」
「次はなにをするんだぽ?」
「子供達に手紙を配るんだ、そしてその手紙に欲しいおもちゃを書いてもらう」
「なるほど、子供達の期待感を高めるのであるな」
「パンプティの言うとおりだ、さらにサンタの存在を信じさせるためにおれ達で紙芝居をやるんだ」
「どんな内容だべか?」
「サンタはどこにいるだとか、どんな格好をしてるとか、まあとにかく物語はおれがもう作ってある。問題は絵なんだが……」
「絵なら我が輩に任せるのである。こう見えて絵は大得意なのである」
「ポーはなにするんだぽ?」
「ポーは声帯模写が得意だったな、おまえには効果音を頼むぞ」
「任せるっぽ!」
「紙芝居はクリスマス当日にやる。ここまでが作戦の第二段階だ。いよいよ最終段階に入るわけだが、ここが一番重要だ」
「はやく教えてくんろ! 気になってしょうがねえっぺ!」
「気になるんだぽ!」
「もったいぶらないではやく教えるのである」
「ふふふ……、まずはこれを見てくれたまへ」
とピガットがティッシュ箱の裏から袋を取り出して中身を三匹に見せて続けた。




