表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
81/93

平和克服 1

 いまや鳳凰ほうおうはその鳳翼ほうよく翠天すいてんに張りて大空を飛翔せん。


 北米大陸及び南米、オセアニアと新世界のみならず東亜細亜並びに露国、さらには欧州の民衆までがこの鳳凰の往く先を憧憬と畏敬の念を持って仰ぎ見つめている。北米大陸に於ける欧州と米英の闘いはレウレトという稀代の武将の出現によってその版図は大きく塗り替えられた。


 南は南米の玄関口であるテキサスから北はサウスダコタまで、天険屹てんけんきつとしてそびえるロッキーより東を占めており、加えて西海岸攻略の要衝であるメキシコ国境に近いエル・パソとアルバカーキ、さらにはデンヴァー、シャイアンとこれら全て米英の有である。これがテキサスを出軍してきん々二年の間に得たレウレトの戦果であった。この奇跡のような快進撃の裏にはやはりフェデリコの開発したV・S・N(※ヴォルン・システム・ネットワーク)の影響が大きい。"神速の兵"と彼が讃えたこの端末機器を各司令部に配備して緊密に報告、連絡、相談をして的確な指示を出していた。言ってみればレウレトが何人もいて広大に展開する各戦地にて指揮を執っているようなものだ。しかもその指揮は同時進行で行われ、各一個師団が連携しあうように動かしていくといった具合である。彼の緻密な頭脳がここにきて、ようやくその全能力を駆使する機会を得たのだ。


 そうして彼は脳中にて各地の戦闘を立体化し、俯瞰(ふかん)しては北米大陸を把握し、欧州の暗号通信を解読して透視図にし、巨大パネルに映った北米大陸の地図を睨みつつ欧州の動向を推測していたのである。さらに本国からの欧州情勢を把握しつつ、且つテキサスの内政を執り行い、政府内部における権力の均衡を計ろうと、アーチに取り入りジュストに肩入れをしていた。神算鬼謀しんさんきぼうここに極まれりとしか言いようがない。そのレウレトは欧州にさらなる追撃を加えて、西海岸攻略を盤石のものにしようとしていた。それは仏領カナダと欧州との交易を断絶させるために、モンタナとノースダコタを掌握せんがためである。"グランドアーミー"と謳われたレウレト率いる三万二千のテキサス軍は、ミネソタとウィスコンシンの州境にあるセントポールを出軍した。そしてノースダコタに入り、ムーアヘッド、ファーゴを経て欧州軍とビスマークの一戦が行われた。それが一九八五年二月四日のことだ。


 しかし対する欧州もまた必死であった。いままでただレウレトに敗れてきたわけではない、欧州共和国軍総司令にしてオーストリア大公、ユリウス=グスタフ=クラウス=フォン=ユグラテリアはこれまでの戦いを通して初めてその敗因を分析した。そして諸侯を集めて綿密に作戦を練ってきた。


「このまま自国に帰っておめおめと生き恥を晒してなるものか!」


 と覚悟を決め、初めて欧州は団結したのである。その功が奏したのかはたまた執念のなせるわざか、三日目の昼には欧州側に形勢が傾いてきた。


 小高い丘に本陣を敷いたレウレトがファーゴに通ずるの道を背にしてこの戦況を双眼鏡越しにじっと見つめている。がい々たる雪の大地には五千人もの兵が死屍累ししるい々と築かれていて、その先を見据えればいまちょうど自軍の先鋒隊が潰走かいそうせんと踏み止まっているところだ。方や欧州軍は勢いに乗り、気炎を吐いて追撃せんとしている。


――敗北だ。


 そう思い、彼は双眼鏡を降ろした。地面に転がっている小石を見つめてまた思った。


――これで欧州は息を吹き返し、その勢いに乗ってデンヴァーを取り替えすだろう。


 そう思いつつ小石から目を離し、空を見上げてはまた思う。


――こんなところで足踏みをしているわけにはいかないのだがな……、オレの頭上に輝く明星はどこへいったのだ……。それにしてもだ。


「援軍はまだか?」


 そう呟いてみるが彼の耳には風の吹く音もしない。やむを得ず撤退の合図を出そうとしたその時、後方から銃声の鳴らす音がかすかに聴こえた。振り向けば目路めじ遥かに広がる地平線に黒い点があるのが彼の両眼異色の瞳に映っている。やがてその黒い点の正体がはっきりしてきた。あごひげをたくわえた頭の禿げあがった大男が見える。米英一の驍将ぎょうしょうワトリックだ。彼は後方の要であるデ・モインの守将を任されていたのだが、レウレトの応援要請を聞き入れるや直ちに副官のアンダーソン大尉にデ・モインの防備を託し、自身は騎馬一千のみを従えて馳せ参じたのだ。そのワトリックが愛馬のサンダーボルトから降りてガチャガチャと甲冑を鳴らせてこちらに歩いてくる。そうして横に並ぶとレウレトが口を開いた。


「この戦争、おまえはどう見る?」


 左手を腰に当て、右手であごひげを触りながらワトリックが答えた。


「敗北ですな」

「うむ」

「ですがまだ昼の二時です。日没までにもう一戦する時間がありますぞ!」


 そう言ってワトリックが々と大笑たいしょうした。レウレトが馬上にひらりと乗るや大音声、


「前進!」


 レウレト麾下(きか)精兵五千が欧州軍目掛けて突進し、その後方にワトリック麾下援軍の一千が続く。潰走していた前線の兵達が後方にある黒地に赤獅子の旗を見るや奇跡のように勇気を奮い起こし、全軍が一斉に回れ右をしてどーっと前進していく。思わぬ抵抗にあった欧州軍はにわかに色めき立った。そこに左翼から取り囲むようにしてワトリックが吶喊とっかんする! たまらんとばかり欧州軍は一気に算を乱し、その間にスラタニが砲兵隊を立て直して砲弾を乱射する。この攻撃によって欧州軍はたちまちにして総崩れを起こした。


 戦況を瞬時に察したレウレトが獅子吼ししくする。


「追撃せよ! 追って追って追いまくれ!」


 こうしてレウレトは絶倫の勇気を起こしてビスマークの一戦を大勝した。レウレト戦史中の逸品である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ