田園詩的純情 1
「われ来たり、われ見、われ勝てり」
とは彼の読んだプルターク英雄伝に登場するシーザーの言である。
精兵三万三千を引具して無人の野を往くがごとくレウレトは北米大陸を北上していく。テキサスにあるダラスから出軍し、オクラホマ、アーカンソー、カンザス、ミズーリ、アイオワ、ネブラスカと次々に切り取っていく。レウレト率いるテキサス兵の進軍目覚ましく、竹の節を一つ割って残りも全て割れるがごとくまさに破竹の勢いである。秋霜烈日、屍山血河、跡に残るは夢ばかり。神出鬼没のテキサス軍に対して欧州は成す術もなく蹴散らされていく。再度敵軍の総大将ユグラテリアが相まみえるも用兵神のごとしとなったレウレトの前では震えあがり、恐れをなして撤退していく。そうして打ち続く勝報は大陸全体に広がる前線に伝播して、いやがうえにも兵卒の士気昂然としていった。
フェデリコの開発した、汎用型通信機器ヴォルンを実装した指揮艦ヒューベリオンにて敗色濃厚な地域を把握するや、直ぐさまレウレトが現地へと飛んでいく。歩武堂々、覇気凛々たる彼との邂逅を果たした兵達は奇跡のように勇気を取り戻し、こぞって諸手を上げては、
「ルクレール将軍、万歳!」
と三呼する。
このようにして彼は各地を転戦し、兵を鼓舞しては左右の将官佐官を叱咤激励し、自ら陣頭指揮を執って敵を粉砕していった。その指揮の折、彼が前線にある砲兵隊を鼓舞するべく自ら指揮を執っている。殷々たる砲声の真っ只中に彼の姿を見つけた一人の兵卒が、
「将軍閣下たる御方がこのような前線に来るとはなにごとぞ、御命を捨てるおつもりか!」
と激しく強諌した。しかしレウレトは泰然として砲声に負けじと答えて曰く、
「命などとうに塹壕へと置いてきた。それに我が輩を殺す砲弾はまだこの世には出来ていないのだ、だから安心して撃ちまくれ!」
それは電光となって周囲の兵卒達の胸を打った! そうしてその電光は潮となって三軍に波及していった。そういったレウレトの活躍を新聞にテレビにラジオにマスコミとこぞって報道する。それを見た民衆は狂喜した。戦争という暗澹たる時代ではあったが勝報が知らされる度に空砲が打たれ、町や村ではお祭り騒ぎであった。入城するテキサス軍を民衆はグランドアーミーと歓呼して歓迎する。かつかつと音をさせて進む馬群の先頭には緋色の軍服に薄汚れた深紅の外套を羽織り、浅く被った軍帽から赤髪を覗かせたレウレトが炯眼を光らせては前方を見据えていた。
テキサスを出軍して半年が経った。
アイオワにあるデ・モインに入城した時の事、軍議を終えたレウレトが宿泊先のホテルに戻ると見目麗しき妙齢の女性が一人佇んでいた。名はエリーゼといって、当時の米英で一、二を争う銀幕女優であり、同時に彼女は歌姫でもあった。なぜにアイオワに居るのかというと駐屯する兵をその美声で慰め、荒んだ心を癒すためである。その彼女が夜更けに彼を訪れて一夜を共に過ごしたいというのだ。だが彼はその誘いを失礼の無いようにと丁重に断って従者に送らせた。なぜかように女性を避けるのか、確かに彼女には犬耳としっぽが無いのもあったろう。しかし彼の心中には華のような笑顔を見せるロクサーヌがいて、総身総霊を支配していたからだ。
いまや飛ぶ鳥落とす勢いで北米大陸を席巻して征圧をなんなんとするレウレトである。けれどもこの時分、死を賭して戦いの最中に身を投じる彼の全人には身を焦がすような激しい愛恋の炎が盛っていた。それと同時に愛する人に会えないことを痛心し、嘆いていた。兵からは剛強無比と讃えられていた、この木強石のごとき武人にも骨を噛むような苦しみがあったのだ。それこそ日となく夜となく、ただただロクサーヌを想っていたのだ。
彼は連日連夜、陣中にて自身の想いをしたためてロクサーヌに手紙を送った。
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我が愛するロクサーヌ。
ただただ御身の事を想う。御身の無事と健康を想うあまり、そこここに御身の存在を痛感する。御身無くして我が魂は存在せず、御身無くして我が生涯に光無し。御身の地上から去りしことを知った時、直ちに我れも御身の後を追おうぞ。御身を想うだけで我が胸中は紅蓮の炎に焦がされんばかりである。どうかこの炎を鎮めるべく、直ちに我れへの想いを書にしたため百万の接吻を同封して我が許へと送り給え。
世界一美しい人へ。
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