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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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日常生活 7

 それから行われた米英公会にて二、三日も経たずに不信任案が提出された。そしてこれがすんなり通ってしまった。さすがのアーチも寝耳に水であった。彼の脳裡にある顔が浮かんだ。


――レウレトか!


 心中にてそう叫ぶと彼の不味い顔がさらに不味くなった。


 レウレトは政治家の持つ性質を良く知悉していた。そして腐敗する金権政治に対して長大息していたことも知っていた。人を見る明を持った彼は頻繁に夜会に顔を出し、アーチに反感を持つ議員や煮え湯を飲まされた議員に対して水面下にて接触を図っていたのである。はたして解散総選挙が行われた。アーチ率いる労働党はなんとか政権を保持したが多くの議席を失い、民主党が一気に躍進してジュストが台頭した。これでレウレトはシェイン族の解放という自身の追い求めていた夢を実現させるための政治基盤を手に入れたのである。


 さて、レウレトはロクサーヌと結ばれ、さらにウォーレンを地獄に落としたわけだが、そのおかげでロクサーヌを慕っていたメイド達は再会を果たすことができた。その折のこと、レウレトが屋敷で働く奉公人を集めて挨拶と紹介をしていた。そしてピガットを紹介する段になるとこの極めて珍奇なわんわんおを初めて見たメイド達はやはり驚いていた。ピガットの方はというとさも当然のごとく屋敷の当主然としてメイド達の前をふわふわと通り過ぎていく。そうして奉公人、特にロクサーヌとレティシアと共に働くメイド達の反応を窺っていた。この時まだメイドや下男や料理人や庭師の住む寮は建設中で、奉公人達はまだ屋敷の母屋を仮住まいとしていた。そうしてしばらく幾日かは平穏に過ぎていった。けれどもこの猫被りのわんわんおがおとなしくしているはずがない。丸いしっぽをうずうずとさせて獲物を見定めていたのだ。それである日とうとうピガデビルがひょっこりと顔を出した。そうして散々に悪行三昧を振るった。屋敷のそちこちで悪戯をして遊び回ったのである。


 ある時は周りの景色に溶けこんで、忍者のように気配を消しつつ後ろから近づいてメイドの着けているブラのホックを外した。


「きゃっ!」


 と小さな鈴のような声色で叫んで後ろを振り向くが誰もいない。ちょっとした弾みで外れたのだろう。そう考えながら廊下を歩いていくと今度は風もないのにスカートの裾がめくれた。もちろんピガデビルの仕業である。そこに犬耳をした顔見知りの下男がたまたま通り掛かって僥倖ぎょうおうと言うべきか、はからずもそれを見てしまった。


「み、見た?」

「い、いや……、なにも見てないよ!」


 と、よせばいいのに下男が顔を赤くしては目をそらす。


「見たのね!」


 言うやメイドが下男に突っ掛かって一悶着を始めてしまう。それを見てピガットは空中で笑い転げていた。またある時は皆の部屋に忍び込み、本に挟んであった栞を違うページに挟んだ。またある時は飴の包み紙の横に、


――お宝は確かに頂いた――


 とタイプライターで打った紙を置いて怪盗気分を満喫していた。あげくのはてには夜中に白のシーツを被り、空中で浮いては時折光を発してメイド達を怖がらせるという始末である。


 頻頻ひんぴんと伝えられる怪奇現象を耳にしたレウレトは思わず苦笑した。そしてこう思った。


――思えばオレは長い間ピガットと遊んでいなかったな。オレが公務や軍務に明け暮れて遊ぶ暇も無く、その間あいつは一人ぼっちだったのだな……。その鬱憤が貯まって、ついつい構って欲しくてあちこち悪戯をしているのだろう。しかしこのまま放っておいてはデューイの仕事に支障をきたしてしまう。一度お灸を据えないとな。


 それでレウレトはメイド長をしている実母のレティシアに話をした。最近の怪奇現象は全てピガットの仕業であると。しかし淋しい気持ちはよく分かるからあまり叱らないで欲しいとも伝えた。


 その翌日、レティシアから"おにぎりの刑"を受けたために三角形になったピガットが朝礼の時に奉公人達の前でばつが悪そうにこう言った。


「ごめんなさい」


 それ以来一切の怪奇現象はぱったりと無くなった。ただたまに調理室に忍び込んでは犬さんウィンナーを失敬するピガットが見受けられた。

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