日常生活 6
その後のウォーレンの転落はとんとん拍子であった。彼に対する取り調べは過酷を極めた。その後に行われた裁判に出廷する頃には、あの澄まし屋のウォーレンの顔はすっかり変わってしまった。以前の覇気はどこへやら、目は窪み、頬は削げ落ち、白髪頭をボサボサにしてひげは生やし放題と、一見して誰だか分からない。さながら廃残老余の果てといった有様だ。その様子が米英全土に放映された。満堂の衆目がこの憐れで惨めな男を一斉に見つめている。そうして判決が下された。粛々と裁判長が主文から読み上げる。その瞬間、堂内にさざ波のようなどよめきが起こった。ウォーレンはというと何が起きたのかすら分からない顔をしている。判決が下される際、通常ならまず刑罰から言い渡される。しかし今回の場合は主文からである。したがって、
「ロベルト=ウォーレン被告を死刑とする」
との裁判長の宣告に堂内は騒然とした。判決を言い渡されたウォーレンの顔が紙のように真っ白になった。
「静粛に!」
裁判長がハンマーを二回叩いて続けた。
「なお今回の件に差し当たって被告側からの上告は出来ないものとする。以上、これにて閉廷」
つまりウォーレンの死刑が確定したということだ。ようやく理解したのか、突然ウォーレンが狂叫した。そして地面に突っ伏して泣き出した。そうして彼は嗚咽をしつつ哀願した。
「頼む、私は死にたくない! 私じゃないんだ! 私はただ……、そうだ! 悪いのは私ではない……、アーチだ! いつもうす気味悪い顔をした奴だ! あいつが全てを仕組んだんだ!」
二人の護衛が彼を無理矢理に引っぺがしたちょうどその時、天を仰いでウォーレンが叫んだ。
「恩知らずの売国奴の糞野郎! アーチ、おれは貴様を呪ってやるぞ! 闇の淵底に眠る貴様が屠った他の奴等と一緒に呪ってやるぞ! そして貴様が来るのを楽しみにしているぞおおお!」
断末魔の叫びをあげつつウォーレンは引きずられるようにして法廷から連れ出された。自室のリクライニングシートに腰掛けて手に顎を乗せてくつろいでいるアーチが薄ら笑いを浮かべながらテレビに向かってこう言った。
「デモゴルゴン(※ギリシャ神話における闇の神)に会ったらよろしく伝えてやってくれ」
このようにレウレトはアーチと共謀してにっくきウォーレンを寸裂し粉砕した。後日ウォーレンの持っていた資産、企業は解体され、一旦は元帥府の機密費になり、そこからレウレトは自身の所有するケーマン諸島の口座を経由してアーチの秘密口座に入金した。そしてウォーレンの屋敷で働いていた奉公人を全て自身の住む屋敷に移した。
このことを知って激怒した人物が一人いる。公明正大で熱血漢のジュストだ。彼はレウレトがシェイン族の競売に参加したのを知って痛憤していたが、自身の持つ慈善事業団と政治団体に資金援助をしているのもレウレトだったので目をつぶっていた。だがさすがに今回はやり過ぎだと思った。私欲のために動いたレウレトが許せないとも思った。しかも一連の事件にはちらちらとアーチの影が見え隠れしている。それでたまらずジュストはレウレトに面会した。
「見損なったぞルクレール!」
と会うなりジュストがすごい剣幕で怒鳴りつけた。
「何をそんなに怒っているのだ?」
いたってレウレトは冷静そのものである。
「とぼけるな、ウォーレンを"虐殺"したことだ!」
「証拠はあるのか?」
「いや……、しかしおれには分かっているぞ。絵図を描いたのはアーチだな? 機密費はアーチに流したんだろう、違うか?」
「答える義理はないよ」
「ああそうだろうとも、なにせおれはアーチが大嫌いだからな! しかし君はどうだ? まんまとメイドをせしめたじゃないか!」
「私は正規の手続きを経て彼女達を雇っている。さらにいま建設中だが、住まいを提供して働きに見合った給金も出している。むしろ私は職にあぶれていた者を救ったのだ。執事も人手不足が解消したと喜んでいる。それが問題なのか?」
そう言われてジュストは押し黙ってしまった。互いに弁舌は立つが、正論を言われれば黙る他ない。
「それより、こんなところで油を売っていていいのか?」
とレウレトが言った。
「どういう意味だ?」
とジュストが聞き返す。
「いま不信任案を出せば議会は通すかも知れない。なにせウォーレンは外相だったからな、私としてはあんな男に外交は任せられない。さらに任命した与党も信用できない」
それを聞いてジュストが目の色を変えた。
「これから忙しくなるだろうなあ! もちろん私は君を支援するつもりだ。元帥府も空気の入れ換えをしなければならないしなあ」
つとジュストが真面目くさった顔をして言った。
「ルクレール君」
「なんだねドルオール君?」
「用事を思い出した。すまないが今日はこれで失礼するよ」
「ああ、またいつでも来てくれ。陛下に君を内相にするのを推薦するよ」
アーチばかりに権力を集中させるのは良くないからな、そう思いながらレウレトはジュストを見送った。




