日常生活 4
そうしていまバスローブを纏ったセリセがレウレトの前に立たされている。
「休暇中に呼び出してすまなかったな」
レウレトに言われてもなおセリセはむくれっつらをしていた。
「そう、ふて腐れるな」
「そりゃあなりますよ! せっかくのバカンスが台なしです……。それで、急の用事とはなんです?」
「いますぐクリムト侍従長に連絡して陛下に謁見を賜る準備をして欲しい」
「陛下にですか?」
「そうだ、それとだな」
「はい」
「アーチにもアポイントメントを取ってくれ」
「テールノワール卿ですか?」
「うむ、ただし警察省官房としてのだ。出来るだけ早くな」
「今からですと、一週間は……」
「三日でだ」
「そんな!」
と無理だと言わんばかりにセリセが大声で叫ぶ。けれどもレウレトの紡ぎだす魔法のような言葉でセリセの態度が豹変した。
「そういえば……、この間ミスプリントされた切手を格安で手に入れることができてな。我が輩の為に良く働いてくれるセリセ君を労おうと思って用意しておいたのだが……」
レウレトはセリセが切手収集家だと知っている。そうしてタイミングよく二人の間にデューイが小さなショーケースを持ってきた。その中には複葉機が逆さまにプリントされた未使用の切手が一枚だけある。セリセが目を皿のようにして夢を見ているような顔をした。
「ま、幻のアクロバットじゃないですか!」
「やってくれるか?」
「や、やりますやります! 三日ですべてセッティングします!」
「頼んだぞ」
その二日後にレウレトはアーチと面会した。相も変わらずアーチは無表情な顔を蒼白にしている。
「よく来てくれた、選挙の時以来だな」
「君も健勝でなによりだ」
挨拶もそこそこに、レウレトが切り出した。
「例の話を進めようかと思ってるのだが」
と彼が目配せをする。
「この部屋は洗浄済みだから、盗聴の心配はない」
「そうか……。で、君の方は?」
「頃合いだろう」
「では進めていいんだな?」
「選挙も終わったことだ、野党の連中が少しうるさくなるが問題あるまい。君の方はどうなんだ?」
「ぬかりはない」
「分かった、手配しておこう。警察は正義の味方だからね……。ところで、約束の方は?」
「大使館で決めた通りでいい。人手不足だと執事が嘆いていたから、ちょうどいい」
「君らしいな」
その翌日にレウレトはランカスターに謁見している。アーチが事前に収集したウォーレンの悪事を直奏して外相と枢機院の議員職を罷免させるためだ。さらに爵位を剥奪して財産を没収、それを軍の機密費にしたい旨を上奏する。ランカスターはレウレトに"選別"を任せていたから、
「一任する」
と言ってレウレトに勅書を渡した。
「これで準備は整った」
ランカスターからの勅書を胸に携え彼は家路に着いた。
レウレトが初めて競売に参加したあの日、アーチとの遭遇に少なからず動揺していたがすぐさま明晰なる頭脳がキリキリと回転した。それはウォーレンを陥れる謀略を綿密に練るための密談をしようというものだ。憎っくきウォーレンを陥穽に追いやるためにはアーチ以上の適任者はいない。それでレウレトは選挙を支援すると言って近づいたのだ。アーチとしては願ってもない話である。レウレトの軍に対する発言力は絶大である。広大な票田が手に入るまたとない機会だ。それに近頃ウォーレンの金の催促が煩くなってきた。さらにレウレトはウォーレンの屋敷で働く奉公人を求めるだけで残りの財産は全てくれると言うではないか。少し手を貸すだけで金塊がころころと転がってくる。しかもこれで自身の悪事を色々と知る共犯者をやっと厄介払いできる。それで二人の利害が一致して、四時間半に及ぶ密談をして入念にして周到なる準備が整った。かくして二人のプロデュースするウォーレンを主役とした舞台の幕が上がった。




