表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
69/93

アンダー ザ ローズ 10

          *          *          *


 広大な庭園にはいくつかの建物があり、それは果樹園や南国の植物を集めた植物園が建ち並んでいて、その建物の一角にレウレトが造らせた薔薇園がある。休日になると彼は良くここに来ては観賞をして心身を癒していた。白や桃や黒や黄と、繚乱りょうらんと薔薇が咲き乱れる中に石畳の敷かれた小道に人が通れるほどのいばらのトンネルがあり、コツコツと音をさせてトンネルを抜けていくとそこにはこじんまりとした空間が広がっている。そこは言ってみれば東屋あずまやといったもので、小さな白のテーブルと、傍には椅子が二脚向かいあって置いてある。そこから少しく見上げると吹き抜けになっており、薄暗い中に月光のカーテンがたなびいている。


 鮮やかな赤のカンツォーネが咲き乱れる中、白木で出来たベンチに傍立つようにして紅いガウンを着たレウレトが佇んでいる。ふと足音に気づいておもむろに振り向くとそこにはロクサーヌがいた。紺碧の長い髪を総て下ろし、矢のようにすぐい体には白のネグリジェを纏い、その上に水色のカーディガンを羽織っている。しばらくの間、彼はその姿に見惚みとれていた。


「レト?」

「ああ、ごめん」


 言って彼はベンチにハンカチを敷き、そこにロクサーヌを座らせる。そうしてその隣に腰を下ろした。清香馥郁せいこうふくいくたる薔薇の香りに包まれる中、月光を浴びて二人はただ静かに自身の手を見つめている。ふとレウレトが口を開いた。


「ロクシー、この屋敷にはもう慣れたか?」

「ええ……、たまに迷子になりそうな時があるわ」

「そうか」


 言って彼は微笑んだ。


「仕事は大変か?」

「デューイ様やレティシア様が丁寧に教えて下さるので大丈夫です」


 でも、とロクサーヌが語を続ける。


「たまにピガット君がイタズラをするけど」

「しょうがないなあいつは……」


 それを聞いてロクサーヌは微笑んだ。そうしてしばらく二人は互いに見つめ合っていた。ふいにレウレトが言った。


「ロクシー、君が好きだ」


 それを聞いて彼女はうつむいてしまう。だがなおも続けてレウレトが言った。


「オレはきみの総てが好きだ。きみの声や仕草、振る舞い……、総てだ。オレは君を幸せにしたいのだ。そして、きみの笑顔が見たいのだ。きみという存在だけがオレを照らしてくれる……。オレはロクサーヌ無しでは生きていけないのだ」


「ありがとう、レト。でも、わたしはあなたの心に添えられない……」

「なぜだ?」

「あなたは……、貴族だから」

「身分がなんだ! そんなもの捨ててやる!」

「あなたは……、英雄だから」

「そんなものは偶像にすぎない!」

「あなたは人間で、わたしは奴隷だから……」

「それは違う! それは違うぞロク……」

「なにが違うの!」


 レウレトの言葉を遮るようにして彼女がそう叫んだ。


「あなたはわたしがあの男になにをされたか知ってるんでしょう! それに、わたしの体を見たじゃない! ええ、そうよ! わたしはたくさんの男に飼われてきた性奴隷なのよ! いやしい牝犬なのよ……」


「ロクシー……」


 言ってロクサーヌを抱き寄せると彼女が泣き止むまでそうしていた。


「怖かった……、あなたに知られるのが怖かったの……。あなたがわたしと一緒に居たいって言ってくれた時、とても嬉しかった……。でも……」


 一旦うつむいて、それから彼女は意を決するようにしてまた口を開いた。


「わたしは……、あの男に毎夜抱かれていた。体を縄で縛られ、宙吊りにされて、叩かれて……、それでもわたしは劣情を感じていた、浅ましい女なのよ……。だから、わたしはあなたにふさわしくないと思ったの……」


 途切れ途切れに紡ぐ言葉を聞いてなぜ彼女が避けていたのかを彼は理解した。と同時にはらわたがちぎれるほど痛心していた。そうして克己心で憤怒の情を抑えつつ親身に彼女の話を聞いていた。


「わたしはいつも暗闇に覆われていた。朝日が昇ってきてもわたしの心はいつも夜だった。いつかこの暗闇に呑まれてしまうのだろうと生きるのを諦めていた。そんな時にレト、あなたが現れた……。ねえ、覚えてる?」

「なんだ?」

「わたしがあなたのことを太陽だって言ったのを?」

「ああ、もちろん覚えているぞ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ