アンダー ザ ローズ 5
「アーチじゃないか! どうしてここに?」
「ウォーレン卿に招待されたのだよ」
それを聞いてレウレトが片眉を少し上げて言う。
「そうか、ウォーレン卿はよほど資金集めに熱心なんだろうね」
「まあ、な。今度の選挙で勝って、頭の固い元老院の連中を追い払うつもりだろうよ」
それに、とアーチが続ける。
「彼は外相だから、宣伝も兼ねているのさ」
「こういう事だけは抜け目ないな」
「政治家はみんなそうさ」
ところで、とアーチが続けた。
「どうして君がここに?」
白々しい台詞を。そう思いながらレウレトが答える。
「ウォーレン卿に聞いたら、ここでメイドの斡旋をしていると」
「ああ、なるほど。言ってくれれば私のメイドを送るのに」
とアーチが値踏みでもするような目をして言う。そう言って間者でも送りつけるつもりか、一笑してレウレトが言った。
「同じような事をウォーレン卿にも言われたよ」
それを聞いてアーチが微笑した。
「そろそろ時間のようだな」
「時間?」
「ああ、君は競売に参加するのは初めてだったな。私が一緒に付いてあげよう」
「それはありがたい。ところでウォーレン卿は?」
「彼は今回の主催者だからね、先に行っているだろうよ」
言いつつアーチが歩き出したのでレウレトもそれに続いた。エレベーターに入り、扉が閉まるとアーチが懐から鍵を取りだした。そしてそれを鍵穴に差し込んでフタを開けるとそこにはボタンがあって、それを押すとエレベーターは下へと動きだした。
「その鍵は?」
「なんだ、ウォーレン卿はそんなことも教えてないのか」
まったく……、と呆れつつアーチが続ける。
「この鍵は競売が行われる日時と場所が記された案内状に同封されている。君は急遽招待されたから鍵は間に合わなかったのだろう。競売会場は他にもあって、その都度違う鍵になる」
「そうなのか」
「ああ、次回からはこの鍵が君の元にも届くはずだ」
「なるほどな。ところで、アーチは競売に参加するのかい?」
「いや、私は今度の選挙戦略を話しあうために来た。こういう場所は密談には持ってこいなのでね」
と涼しい顔してアーチが言う。本当に頭が切れる人間でないと"密談"という言葉は使えない。訊くだけ野暮だな。そう思いレウレトは誰に会うのかとは訊かなかった。そうこうしているうちにエレベーターが到着すると三人の黒服が彼らの前に近づいてくる。その一人が声を掛けた。
「失礼ですが、お名前を」
「テールノワールだ」
すると黒服は小さなマイクを手に持ち、なにやら小声で話したいる。少ししてまた黒服がアーチに声を掛けた。
「ただいま確認が取れました。ではボディチェックの方を……」
それを聞いてレウレトはギクリとして一瞬だけ顔をこわばらせた。確かに彼はこの事を想定してしっぽを布で巻いて体に固定してある。違和感があったとしても訓練中のケガと言えば問題ないと思っていた。しかしいま想定外の事が起こっている。アーチの存在だ。抜け目ない彼にケガなんて嘘が通じるだろうか? しかしそれは杞憂に終わった。アーチがそれは必要ないと言ったからだ。それでも規則ですのでと黒服が引き下がらない。だがアーチがじろりと睨むと黒服は慌てて引き下がってしまった。死神に睨まれて生きた心地がしなかったのだろう。過去にアーチに睨まれて消えていった人間がいたからだ。一連のやり取りを終えてレウレト達は競売会場に足を踏み入れた。そこは四、五十人が入れるくらいのこじんまりとした空間がひろがっている。前方に舞台があり、さながら小劇場といった感じだ。中ほどまで進むとアーチが後ろを向いて斜め上に手を差し出して言った。
「あそこに今日の主催者がいるぞ」
見ると桟敷席には若い女を横にはべらせたウォーレンがこちらを見て手を振っている。
「いい気なものだなあ」
笑顔で手を振りつつアーチがそう言った。部屋の照明が落とされるとアーチが痩せこけた頬を寄せてこう囁いた。
「競売の開始だ」




