美しき青きロクサーヌ 6
「ロクサーヌが辞めたという話は本当か?」
「はい」
「なぜ彼女は辞めたのだ?」
「わかりません」
言ってメイドはうつむいて進めていた歩みを止めてしまう。ふとレウレトはあるものを見つけた。
「その手首の痣はなんだ?」
と指で示すとメイドがさっと手首を後ろに隠してしまう。それで彼はだいたいのことを察した。
「ロクサーヌにも……、その痣はあるのか?」
メイドが何も言わずにただうなずくとみるみるうちに彼の表情が険しくなっていった。
――まてまて、まだ怒りをぶつける時ではないぞ。
そう彼が怒りを飲み込むと、メイドが遠慮がちに口を開いた。
「あの……」
「なんだ?」
「ロクサーヌ姉様は、いつも私達を助けてくれたんです」
「きみはロクサーヌの姉妹なのか?」
「いえ……、ただ、わたし達のことを妹のように可愛がってくれましたので」
「そうか……」
「最近のロクサーヌ姉様は、なんだかとても楽しそうでした」
「なぜ、そう思うんだ?」
「姉様に聞きました。"好きな人ができたから"って言っていました。"赤い髪の毛をしていて、いつもわたしをお姫様のように接してくれる"って」
そう話すメイドの双頬に涙が伝う。それを拭うこともせずにレウレトを見てこう言った。
「貴方様は、姉様の好きな人に似てますね」
レウレトがハンカチを差し出すと、メイドが受け取りつつ話を続けた。
「ルクレール様」
「なんだ?」
「もし、どこかで姉様に会ったら伝えて欲しいのですが……」
「それは断る」
「えっ!」
「直接伝えたほうが良かろう?」
「では……」
「オレが必ずロクサーヌを連れ戻す。さあ、案内してくれ」
そうして二人はウォーレンの居る部屋の前に着いてメイドがノックすると、その奥から「入れ」と大仰な調子の声が聴こえてきた。
「旦那様、ルクレール様をお連れしました」
旦那様と呼ばれた男がくわえていた葉巻を灰皿に置くと、急に血相を変えてメイドを叱り飛ばした。
「遅いぞ! 将軍閣下が気分を害されたらどうするつもりなんだ!」
「す、すいませ……」
「もういい、下がれ!」
そう言うとウォーレンが先の血相を変えてにっこりしつつレウレトに話しかけた。
「いやあ、これは御見苦しい所を見せてしまいました。お恥ずかしい限りで、これだから"犬"というものは困りますな。あとでしっかりと躾をしなくては……。いや失礼、どうか無礼をお許し頂きたい」
犬と聞いてレウレトは目尻をピクリと動かした。
「ささ、こちらへ。何か飲み物は?」
「いや、結構だ」
とレウレトはその場に立っている。そうしてウォーレンをレンズ越しにて観察していた。
短い足を組んでソファに座っていやらしい笑みを浮かべた男はウォーレン財閥の当主にして枢機院議員を務めている。そう、あの貧窮極まったアーチを救った命の恩人だ。仕事を怠け、毎日のように夜会を開いては花火を上げ、金を湯水のように使い、いつも気に入った女をはべらせている。金好きな、派手好きな、女好きな男である。そのウォーレンが白々しくこう切り出した。
「ロクサーヌの行方を知りたいということで?」
「そうだ、彼女はいまどこに居る?」
「閣下はせっかちでありますな、まあそう焦らずとも。確かに私はロクサーヌの居場所を知っています」
――そういうことか。
一を聞いて十を知るレウレトはすぐさま理解した。
「何をすればいいのだ?」
「政治家というのはとにかく金を使いましてね、私はいま軍資金を集めている真っ最中なのですよ」
そうウォーレンが呆れたようにして言う。彼はというと、いつもの鉄の顔をしている。それに構わずウォーレンが続けた。
「いま軍では最新式のアサルトライフルを検討しているとか……」
「話はわかった、元帥府に貴社のを推薦しておこう」
「さすがに閣下は分かっていらっしゃる!」
「それで、彼女の件はどうなった?」
「おお! これは申し訳ない、私としたことが……。失礼ですが閣下は口が固い方ですかな?」
「この世界にいればいやでも固くなる」
「そうでしたな……、これから話す事はくれぐれも内密に」
「彼女はどこにいる?」




