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一期一会 第三部  作者: ヤルターフ
第三編 天馬行空
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美しき青きロクサーヌ 5

「ありがとう、とても嬉しい」


 だがその直後、彼女は表情を曇らせてしまった。


「なぜ、そんな顔をする?」

「ごめんなさい……」


 そう言うと彼女のつぶらな青玉の瞳から一掬いっきくの涙が零れ落ちた。


「レト、あなたは太陽のような人。いつもわたしの心を照らしてくれる。そして、わたしのような者を愛してると言ってくれた。だから嬉しかった……」

「ならば、オレと一緒に……」

「あなたとは、一緒にはなれない」

「何故だ!」

「理由は、言えない……」

「教えてくれ、ロクシー!」

「ごめんなさい……」


 そう言ってロクサーヌはその場を走り去ってしまった。


 追いかけるのは簡単だ、掴まえるのも造作もない、だが彼はそうしなかった。彼女に想いを遂げることが出来なかったという、そのあまりのショックで動けなかったのだ。それからというもの、レウレトはすっかり意気消沈してしまった。仕事をしていてもどこか覇気が無いように見えた。セリセが呼んでも彼は上の空である。そうして夜会にも赴かず、自慢の薔薇の手入れもせず、部屋に閉じこもるようになった。彼の孤独癖は今に始まったことではない。さらには母上の作った手料理が喉に通らない有様であった。食事の席に着いてもフォークに触ることすらせず蒼白な顔をして部屋を出ていく始末である。その様子を見ていたレティシアが心配そうな顔をして給仕をしているデューイに言った。


「あの子があんな顔をするの、初めてみたわ」

「レティシア様がダブリンの屋敷を離れた事を知った時、エスカレット様も同じような顔をされていました」

「そう……」


 人は悩むものだ。英雄も人である。だとすれば英雄もまた悩むのである。彼もその例に洩れない。レウレトは悩んでいた。本気で人を好きになったことがなかったのだ。確かにユーリとの初恋はあった。だが彼は自身の夢を取り、ユーリを路傍の花としたではないか。レウレトはロクサーヌと出会い、本気で好きになったのだ。ロクサーヌに惚れたのだ。"惚れる"というのは、その相手のために命を捧げるということだ。彼は総身総霊をロクサーヌに捧げていたのである。


 後年彼はこう述懐している。


「確かに我が輩は女性に興味があった。周りには至る所に誘惑があった。だが幸いなことにロクサーヌに出会う時まで我が輩は純潔を守ることが出来た」


 さらに、


「我が輩はロクサーヌに出会ってから始めて女性に対して積極的になれた。それまで女性に対しては酷く臆病であったが、我が輩はそれこそ彼女に夢中になった。そういう自分がいることに自身が一番驚いた」


 そう続けて彼はナポレオンの言葉を借りて自身をこう表している。


「我が輩の中には二人のレウレトがいる、一人はヘッドの人で、もう一人はハートの人だ」


 そのハートのレウレトが獅子王のごとく猛然と蹶起けっきした。


 「ロクサーヌ無くして心中に光無し!」


 そう叫ぶと彼の中にある絶倫の勇気が太陽のように燃え盛った。一度決心したらただひたすらに前進するのが彼である。すぐに紙を取り寄せて筆を走らせるやそれを赤い封筒に入れて蝋で封をした。そしてデューイを呼び寄せてこう言った。


「この手紙をロクサーヌに届けてくれ」


 しかしてデューイがウォーレンの屋敷に赴きロクサーヌに会いたい旨を伝える。しかるにその答えはロクサーヌは暇乞いとまごいをして屋敷を出ていったと。急ぎ戻ったデューイがレウレトに伝えると彼が大声で言った。


「なんだと! それは確かか?」

「はい」

「では、どこへ行ったのだ?」

「ウォーレン卿はその場所を知っているようでしたが、茶を濁す風でして……」

「これだから政治家というものは……」


 言って彼がなにやら呟きながら右手を頭に突っ込んで、それからしばらくしてまた口を開いた。


「よし、オレが直接行って話をする。すぐに手配してくれ」


 その日の夕刻、レウレトは招待される形でウォーレンの屋敷に出向いた。シェイン族のメイドがウォーレンの居る部屋に案内する途中、彼が訊いた。

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